トピック

第2回 企業の海外進出・展開のポイント(ASEANのコンサルティングの現場から)

第2回 企業の海外進出・展開のポイント
(ASEANのコンサルティングの現場から)

企業の海外進出・展開のポイント(ASEANのコンサルティングの現場から)

第2回:海外事業の成功について(現地化と差別化、また海外事業の成功とは?)

海外展開に成功している企業の共通点
前回のコラムでは、海外事業の成功要因として「先行者利益」についてお話させて頂きましたが、今回は「現地化」と「差別化」について見ていきます。

「現地化」と「差別化」
海外において成功を収めている企業の特集やインタビュー記事等で、最も頻繁に見られるキーワードが「現地化」ではないかと思います。「製品やサービス」の現地化の他にも、「販促・広告」や「人材」等、海外で事業を運営していく上で現地化は非常に重要な要素になります。一方で単に事業を現地化しても現地企業と変わらなくなってしまいます。ので、何を差別化の要因とするかも併せて考える必要があります。どのように自社が持っている強み、特徴といった差別化の要素と、現地化のバランスを取り組み合わせていくのか、が事業展開の要諦であり各企業それぞれの方針・戦略となります。また、これは業種によってもポイントは異なってきます。

ベトナムで製造業向けのセンサー、計測器を提案・販売しているメーカーにお話を伺った際、製品や提案内容等は基本的に他国と変わらない、それ自体が強い差別化要素であるから変える必要もないし、製品仕様等についてはそう簡単に変更できるものではない、とのことでした。一方で、当該企業が進出した2000年代後半は競合が少ない中で、日系企業進出も相次いでいたため、日本人が営業しているだけで十分だったが、昨今では営業員の現地化をより促進し、現地企業の顧客開拓と低コスト化を進め、より一段の事業成長を図っているとも仰っていました。製品・サービスは変えずに組織・人材の面では現地化を図っている例になります。

また、洗剤や整髪料といった日用品や調味料等を、新興国で展開するにあたっては、包装を変更する企業が多く見られます。1箱や1ボトルで数百円する価格では、まだ所得水準が高くない層には手が届かないため、小さい個包装にして価格を下げることで、より多くの消費者に試してもらう、特別な日だけでも使用してもらうことを狙った施策です。また、多くの消費者が日用品を購入するのは、依然としてスーパー、ドラッグストアではなく、道端の数㎡しか陳列スペースのないパパママショップであることも多いことからそうしたお店にも広く取り扱ってもらう目的もあります。製品自体は変えずに、販売方法や形態を現地化しています。

さらに製品やサービス自体を大きく変更しなければ成功が難しいような業態もあります。代表的なものが、食に関連する事業です。宗教や国によって禁止されている食材があるのはもちろん、食の嗜好は国、地域によっても大きく異なります(日本国内でもそうですが)
マクドナルド等のファーストフードチェーンはフィリピン、インドネシア等の多くのアジアの国ではご飯もののメニューを提供していますし、牛丼チェーンであるすき家は麺好きなベトナムではラーメンを提供しています。
エースコックは2000年にベトナムの即席めん市場に参入し、現在では6割というシェアを獲得している成功企業ですが、ベトナム人の味覚と懐具合に合わせ100種類以上の商品を投入しています。一方でその他の国では、ミャンマー等一部を除きトップシェアとはいかないようです。各国でマーケティングや研究開発、生産まで行うことを考えると、いくつもの国で成功を収めるには時間も労力も必要になってくるのだろうと推察されます。
今日では様々な企業が海外展開を進めていますが、業種では製品・サービスについて現地化の要素が比較的少ない業態、つまり現地の顧客のニーズが比較的世界的に共通的である業態程、海外展開が進んでいる傾向があります。例えば自動車や工業機械、医療用医薬品等が代表としてあるかと思います。これらのメーカーは新興国での所得水準の向上に従い、さらに海外事業の拡大のチャンスがあります。

一方で、食品のように、生活・文化等に深く根差しており顧客のニーズが各国毎に大きく異なる、特に最終消費者に直結する事業は、現地化の要素が大きく海外展開の難易度が高い分野です。その点では教育や冠婚葬祭、その他の生活関連等、サービス業は、社会的背景やルールの違いも含め、より難しい分野であるとも言えます。通信、建設、不動産等、サービス内容自体の差別化が難しく現地でのネットワークがより重要、かつ規制を受けている業種も多いという面もありますが。
例えば、介護事業は高齢者のケアを第三者に任せることへの抵抗が強い国では量的拡大は難しく、まだ土葬が一般的な国で日本の葬祭事業会社が展開することは難しいでしょう。ただ、風習や社会的背景も時間とともに変化していっています。現状では、まだ製造業に比べ海外展開は進んでいないサービス業についても、各国の消費者動向をとらえつつ適切なタイミングで参入することで先行者として大きな市場を獲得できる可能性も期待したいところです。

https://www.nikkei.com/nkd/company/article/?DisplayType=1&n_cid=DSMMAA13&ng=DGKKZO50869300Q9A011C1EA2000&scode=7453&ba=1

海外事業の成功とは
前項では「海外事業で成功している企業の共通点」というテーマで、海外現地での収益・生産の拡大を成功という意味合いで記載しましたが、何を「成功」とするかは企業それぞれです。海外事業を行う本来の目的を達成しているか、また日本を含む全社の視点において海外事業が貢献しているかが成功の判断基準となります。
販売や生産以外を海外事業の目的としているケースも多くあります。生活雑貨・家電メーカーのアイリスオーヤマはベトナムに資材や新たな商材の調達を目的とした拠点を設置しています。日本の地方金融機関は情報やネットワークを日本の顧客に提供することを主眼に海外拠点を展開しており顧客満足の向上を目的としています。また、昨今はベトナム等からの技能実習生を受け入れている企業から、実習期間を終えた実習生が帰国した後でも働いてもらえるための会社を立ち上げたい、そしてその人材を再び日本に送るといったサイクルを作りたいというご相談が増えています。もちろん現地で事業が継続する上で、規模・採算も重要ですが、それよりも一緒に働いた実習生との縁を大切にその後の人生も支援する、人材のサイクルを作り出し実習生をより受け入れやすくすることが目的と語る企業もあり、日本企業の海外事業も多様化してきています。

意図しない形で海外事業が全社に貢献するケースもあります。弊社のクライアントで規模としては中小にあたるメーカーが得意先の要請で海外に工場を立ち上げたものの、思ったほど受注が伸びない中で他の日系メーカーに営業をかけていったところ、現地での受注のみならずそれを契機に、日本ではなかなか取引が出来ないような大手企業との口座開設に至ったという例もあります。海外特に新興国では、日系企業同士では距離感も近いため、このようなケースも珍しくは無いのかもしれません。
また少し古いですが、2016年に古坂大魔王さんが演じるピコ太郎のPPAPという短い楽曲が世界的に話題になりました。アメリカのとあるセレブが気に入りTwitterで発信したことが契機に、まず欧米そしてアジアと人気が伝わり、日本で話題になったのは最後でした。私もシンガポールで友人に教えてもらった際は一切聞いたことがありませんでした。昨今ではマーケットが成長しておりビジネスチャンスの見込まれる海外を起点に事業を立ち上げる日本の起業家も増えています。今後海外現地で開発されたり、認知を得たサービス・事業が日本に逆輸入されていくという流れも出てくるかもしれません。

次回は、生産拠点としての進出と販売拠点としての進出、それぞれにおけるフィージビリティスタディ実施上のポイントについてお話させて抱く予定です。

【執筆者】
山田コンサルティンググループ  牧村 拓哉

はじめに:企業の海外進出・展開のポイント

第3回:FS実施上のポイント 生産拠点としての進出/販売拠点としての進出