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海外工場建設プロジェクトの進め方-VOL.4

海外工場建設プロジェクトの進め方-VOL.4

海外工場建設プロジェクトの進め方(10回シリーズ)

第4回:引合書の作成

前回のコラムで工事会社決定までに注意すべき点を説明しました。今回はそれらを踏まえて具体的にどのような引合書を作成すべきなのかを、(日系施主様が選択されるケースが多い)設計施工一括発注を主眼に説明することにします。

引合書は大雑把に定義すれば以下に示す3つの書類で構成されると言って良いと思います。

1) 見積提案書作成指示書
見積提案書提出期日、提出方法、提案書構成などを明確に指示します。この図書は工事会社選定後の契約書とは関係の無い図書になりますので、受注後の役務に関する要求事項をこの書類に記載してはいけません。

2) 要求仕様書
ここでは技術的な要求事項、プロジェクト工程の要求事項、仮設計画の要求事項などを明確にします。この図書が見積費用の根拠として最重要なものになります。また、契約書の添付図書になります。

3) 契約書本文、及び約款ドラフト
これは上記に比べ、工事発注に慣れていない技術者の方には分かりにくい書類です。支払い条件、保険付保条件、保証、合意金額、納期、賠償責任などを規定します。コマーシャル条件書とも呼ばれます。

さらに補足するなら案件所在国の事情を良く考慮した上で工場完成までの全体工程を作成し、これも要求仕様書の一部にしたほうが良いでしょう。注意しなければならないのは、国によって、また、案件規模によって申請から着工許可まで半年から1年もの期間が必要になるケースもあることです。

この記事を読まれている方は海外の新規工場建設にご興味のある方、業務で担当となられた方が多いでしょうが、施主企業様の中で海外プロジェクト遂行に慣れている方は少ないのが実情です。そのために弊社のようなコンサルタントを活用されるのですが、本稿では少しでも引合書作成に理解を深めていただくため、上記の3点についてもう少し説明いたします。

1)見積提案書作成指示書
海外へ工場を建設される日系企業様が希望される期間内で、どのような提案書を提出して欲しいのかをここで規定します。 単独出資の工場であれば、引合書も提案書も日本語だけでも良いでしょうが、現地パートナー様がいらっしゃる場合は、引合書も提案書も英語を指定されるケースもあります。時々、両方併記が欲しいという施主様もいらっしゃいますが、二つの言語で記述された内容の同一性リスクを考えるとどちらかに統一した方が良いと思います。また、案件規模によっては、工事会社現地法人だけで最終見積金額を決定できずに本社承認が必要となる場合もありますので、日本案件に比べると少々長めの見積もり期間を考慮すべきでしょう。見積もり期間は案件規模にもよりますが、通常4~8週間を考慮します。

2) 要求仕様書
技術要求の明確な仕様をお持ちの施主様なら図書作成にさほど困難さは無いでしょう。レイアウト図面など契約書に必要な図書も要求仕様書の一部として作成します。 さらに忘れてはならない重要な要求事項だと筆者が考えているのが機材のサプライヤーに関する要求事項です。機械発注を建築工事会社契約に含めているのであれば、その保守・点検体制がその国で十分受けられるのか、最悪の場合は海外からエンジニアに出張してもらわなければならず、運転中に発生するトラブルによる生産停止リスクをどう評価し、どのように要求仕様書に表現するかなど、悩ましい課題です。 基本設計段階でメーカーを決め、ある程度、仕様とサービス内容、金額、納期などを合意しておいて、引合書に指定メーカーとしてリスト化することもあります。それ無しで仕様だけを指定してメーカーを工事会社に提案させることにした場合は、工事会社決定プロセス中にその提案されたメーカーの評価を完了させる必要が出てきますので、評価時間全体も長くなります。

3) 契約書本文、及び約款ドラフト
日本ですと、建築工事では民法改訂に伴い2020年4月に名称変更された「民間(七会)連合協定工事請負契約約款」(昨年までは「民間(旧四会)連合協定工事請負約款」と呼ばれていました)を上記要求仕様書で参照し、この3)項の書類を引合書に含めることを省略することもあります。また、施主企業様独自の契約約款を添付されることもあるでしょう。いずれにしろ、日本案件向けの約款では、海外では正式なものとして使えません。
では、どうするかですが、施主様によっては契約金額と納期などを合意する請負契約書とFIDIC(フランス語のFédération Internationale des Ingénieurs-Conseilsの略)約款をベースにしたものが使われることがあります。

FIDIC最新版では契約形態に合わせて3種類の標準約款を用意しています。それぞれ、CONS、P&DB、EPCTと呼ばれています。CONSは設計分離発注用の約款ですので、日系ゼネコンに設計施工で依頼したいと考える企業様が参照するのであればP&DB(Plant&Design Build)かEPCT(Engineering, Procurement and Construction Turnkey)約款を案件に合わせて修正しながら使うことになります。詳細設計時に要求事項を確定させてゆく施主様にとってはP&DB約款をベースにすることが適当かと思います。

ただし、FIDIC約款は海外プロジェクトの大型案件でも使用できるようにしているため、日本の工場建設を考えている企業様にとっては少々ヘビーな内容でわかりづらいところもあります。このため、弊社では、すでに複数の案件で使用実績のある独自契約本文と約款を用意しており日系施主様にご利用いただいています。(注:案件当該国の言語で作成された契約書のみが有効であると法律で決まっている国もありますので、ご注意ください。)

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