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第5回 企業の海外進出・展開のポイント(ASEANのコンサルティングの現場から)

第5回 企業の海外進出・展開のポイント
(ASEANのコンサルティングの現場から)

企業の海外進出・展開のポイント(ASEANのコンサルティングの現場から)

第5回:海外展開検討を行う上での視点② Where-海外進出先の選択

本コラムでは海外進出におけるポイントについて連載しておりますが、前回から5回に分けて5W1Hという切り口で書かせて頂いています。今回はそのうちの2回目、Where-海外進出先の選択です。

■製造と販売、目的に応じた進出先の選定方法

海外への進出及び拡大を考えるにあたり、進出先の選択は最も重要なテーマの一つとなります。弊社でも初めての海外展開を検討する企業、また既に海外展開は進めているが次の展開先をどこにすべきか検討している企業からご相談を頂き、進出先の選定をテーマとした調査・コンサルティングをさせて頂く機会も多くあります。
進出先の選定にあたっては、候補先のエリア・国・都市等について複数の要素を比較、自社にとっての重要性も加味して決定することになりますが、検討すべき要素については進出の目的と形態によって異なってきます。

進出の目的・形態は細かく分ければ様々ですが、大きく分類するとプロフィットセンターなのか、コストセンターなのかということになります。プロフィットセンターとしては、販売会社、サービス業、また不動産事業等におけるプロジェクト投資や現地代理店を通じた海外輸出等、拠点を設置しない形態の進出も概念的には含まれると考えられます。コストセンターの代表例は輸出を目的とした工場、設計やソフト開発などのオフショア拠点、情報収集や調達のための事務所等が挙げられます。この中で、現地での販売も目的としている工場やサービス業は、対象エリアで販売と生産の両機能を担うため、両方の要素を考慮することになります。

プロフィットセンターでは、最も収益を稼げる場所、最も自社の製品・サービスが売れる場所はどこか、ということに尽きます。どのような条件を満たせば稼げるのかは業種、製品、ビジネスモデル、等によって全く異なり、考慮すべき要素やその重みは会社の状況に応じて個別に検討していく必要があります。考慮すべき要素としては一般的に市場規模や対象製品の現地の価格帯等、定量的に比較できるものもありますが、顧客の購買決定要素や販売チャネルの状況、競争環境等、一概に比較しにくい項目の方が多く、かつ情報としても取得の難度が高くなってきます。業種によっては殆どの情報を現地でのヒアリングに依ることとなりますが、進め方として上記のような項目をオープンに聞くのではなく、自社製品の訴求ポイントや、ビジネスモデル、あるいは想定している現地市場・業界に関する仮説等を共有した上で、意見や情報を求めることが望ましいです。そうすることで、情報も漠然としたものではなく、よりリアリティがあり自社に適合した情報となります。またそのようにして得られた情報は、複数国・エリア間でも比較検討がしやすいものとなります。

一方でコストセンターでは、人件費や土地の賃料、各種インフラ等コストの算出に影響するインプットの要素が立地選定にあたっての比較項目となります。定量的な把握と比較が可能なものが多く、各国の統計局やJETRO等の公的機関からも情報提供がなされており、プロフィットセンターと比較すると相対的に情報収集は進めやすいかと思います。ただし、プロフィットセンターと比較して投資金額が多額となり、投資回収に時間がかかります。その点で、より長期的な視点と、政治・社会面や自然災害等を考慮した事業環境の安定性を考慮する必要があります。

■点の考え方と面の考え方

進出先の検討にあたって、国単位で捉えることが多いかと思います。もちろん実際の進出にあたっては都市・地区単位で立地を選定することになりますが、最初の段階で都市と国の違いを意識しておくことも有用と考えます。

現地を市場ととらえる場合に、進出先選定にあたり当該国の所得水準を考慮することも多いと思いますが、特に成長途上の国においては首都を始めとする主要都市は国全体の平均を大きく上回ります。例えば、ベトナム全体では1人あたりGDPが依然3000米ドルに届かないもののホーチミン、ハノイでは既に5000米ドルを超えています。フィリピンにおいても国全体の平均では3000米ドル強の一方、マニラでは9000米ドルを超えています。例えば自動車(4輪)の市場は1人あたりGDP3000米ドルを境に成長期に入ると言われていますが、上記に従えばベトナムでもホーチミン、ハノイでは既に成長期に入っている一方、フィリピンではマニラ以外の地域では普及段階に入っていないという見方になります。自社のターゲットとする顧客層や地理的な範囲を考慮した上での検討が必要となります。

製造拠点として考える場合には、逆に賃金水準は低い方がコストメリットを得られるわけですが、これも国単位で見るよりエリア単位で見る必要があるでしょう。日本においても同様ですが、多くの国で最低賃金は市・県・省等の行政区分毎に定められています。国全体の賃金水準が低いとしても、首都周辺を拠点とすれば賃金水準は結果的に高くなります。
また、税金や許認可等の制度については国単位で一律であることが多いものの、国によっては各行政単位毎に異なるケースがあるため注意が必要です。アメリカでは営業許可の取得や税制等、各種の制度が州毎に定められていますし、インドでは2017年の改正により簡素化されたものの州をまたぐ取引と同一州内の取引で課税関係が異なる、等拠点の設置場所により拠点設置の容易性やコストも大きく影響を受けることになります。

このように、立地選定にあたってはより細かい単位での見方が必要となる一方で、より地理的及び時間軸でより大きな観点から進出が決定されるケースがあります。
シンガポールはASEANの中でハブ的な位置づけであり、ASEAN全体を事業範囲とするために拠点を構える会社が日系を問わず多数存在します。いわゆる地域統括拠点と呼ばれ、税制的なメリットが強調されることも多いですが、事業面でも他ASEAN国さらにインドまでをカバーする上で優位な点が多くあります。

各国から集約されてくる投資情報を目的とした不動産・金融プレイヤーの進出、ASEAN地域の物流ハブとしての物流拠点の進出、また言語・文化・宗教等の異なる背景を有する人材の活用を目的とした進出が見られます。人口の1/3が外国人という構成、またシンガポール人自体も中華系、マレー系(イスラム)、インド系と様々なバックグラウンドから成り立っています。シンガポールで勤務した幹部候補人材を、他国のビジネス展開に活用していくことももちろんですが、建設業等でも技術人材、ワーカーは相当数がシンガポール外から集まってきており、この中の優秀な人材を他国での展開に活用しようと考えている企業もあります。また、各国から留学のために渡航する学生も多いため、これをターゲットとして教育や人材お関連サービスで進出・M&Aを志向する企業も見られます。

また、昨今は少なくなってきたと思いますが、ASEAN周辺国の消費者はシンガポールでの流行や知名度を意識するという傾向があり、ブランディングとしてまずシンガポールで実績を作るという考え方もあります。

同様に本丸とするターゲット国は別にあるが、まずはその玄関口として進出するというパターンでは、1990年代では中国をターゲットにした香港がありました。製造業における特殊な貿易形態という側面もありましたが、当時は中国の消費者の多くが香港を消費の先端として意識していたと言われています。また食品関連では、中東のハラルマーケットを目的としつつ、まずはイスラム国で日本としては地理的・心理的に距離の近いマレーシアに進出するという例もあります。またインドも人材や物流・製造の面で、アフリカへの玄関口として考えられているというケースも聞きます。

このように時間軸や面的拡大を考える場合には、ノウハウ蓄積、ネットワーク・人材の獲得、ブランディング等の点から進出先を選択するという考え方も一つの方法かと思います。

【執筆者】
山田コンサルティンググループ  牧村 拓哉

第4回:海外展開検討を行う上での視点① Why/What-目的・ビジネスモデル