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プロジェクトマネージメント基礎知識-VOL.1

プロジェクトマネージメント基礎知識-VOL.1

すでにご覧になっている方もいらっしると思いますが、本サイトでは、海外での工場建設プロジェクトをどう推進したらよいのか2020 年に以下の記事で概略を説明しています。

「海外工場建設プロジェクトの進め方(10 回シリーズ)」
海外工場建設プロジェクトの進め方-VOL.1 – 海外工場建設情報 (cm-plus.co.jp)

今回は、弊社(株式会社シーエムプラス)が運営する主に医薬品・医療機器製造企業様会員向け別サイトGMP Platform(https://www.gmp-platform.com/)に掲載されている記事の「医薬品工場建設のノウハウ-プロジェクトの成功に向けて」から、一般工場建設にも普遍的に参考となるであろうプロジェクトマネージメント基礎知識に関する第1章と第2章をご紹介してゆきたいと思います。文中に「GMP」とか「クオリフィケーション」等の医薬関連工場特有の単語も出てきますが、一般産業分野の方はその部分は読み飛ばして構いません。

10 回程度のシリーズで掲載してゆきますので、プロジェクトを遂行しようとされている方のご参考となれば幸いです。

それではさっそく始めましょう。

第1章 序

1.はじめに

「プロジェクト」はカタカナ言葉として日本語となって久しい。エンジニアが逆境から、苦節を乗り越えて成功を手に入れる「プロジェクト X」は過去に高視聴率番組となった。然しながら、近年は「プロジェクト失敗」の事例が目を引く。国民の関心と期待を集めた「国産ジェット機」開発プロジェクトは 10 年に亘り、8,000 億を投じた結果、凍結された。また、Web を閲覧すると、システム開発系のプロジェクトでの納期遅れ、予算超過、顧客要求不満足の失敗例が枚挙にいとまが無いほど掲載されている。

プロジェクトは、上手くマネジメントを遂行しなければ失敗する属性を持った、複雑で不安定なビジネス ( 業務 ) であり、プロジェクト・マネジメント ( 以下、PM) は近年、注目されている管理手法である。

その歴史は比較的新しく、1960 年代の冷戦時代に NASA のアポロ計画を始めとする米国の超大型国家プロジェクトを手掛けた国防総省で科学的、論理的な技術として発展し、1970年以降にプロジェクトが大型化、複雑化した石油精製等のエネルギー関連プロジェクトのEPC*1 を請け負うエンジニアリング会社に普及していった。1)

然しながら、古代に遡ってピラミッド建設、都市建設、そして大航海などのプロジェクトから、現代の我々を取り巻く種々のプロジェクトに至るまで、その実施目的である QCD*2の達成のために、PM の概念は意識されずとも脈々と引き継がれて来たものと云えよう。正に PM 無くしてプロジェクトの成功は無いと云っても過言では無い。

*1 EPC; Engineering ( 設計 ), Procurement ( 調達 ), Construction ( 施工 )

*2 QCD; Quality (品質), Cost (実行予算), Delivery (工期)、QCD の達成とは、高品質、予算内、工期内でのプロジェクトの実現を云う。

2.プロジェクトとは

プロジェクトの語源はラテン語の“prÔjectus”である。このラテン語の直訳は「前方に投げる」であるが、「前方を見通す。提案を投げる」と云うニュアンスがあり、「計画」「企画」と云う意味でも使われる。ISO10006*3 では「プロジェクトは一連の調整され管理された、
開始日と終了日のある活動からなり、時間、コストおよび経営資源の制約を含む特定の要求事項に適合する目標を達成するために実施される特有のプロセス」と定義されている。平易に云えば、「時間、費用、割り当てられる人や物 ( 経営資源 ) などの制約された条件の中で、明確に定められた目標を達成するための活動」である。

その対象は、宇宙開発、原油 / ガス輸送パイプラインの敷設と云った国家規模の大型ブロジェクトから、自宅の建築、旅行、町内会の祭りなどの身の廻りの行事まで多岐に亘るが、その成否の基準は、以下の 3 点で共通しており、どれか一つでも達成が出来ない場合は失敗と見做される。

  • コスト、スケジュール、経営資源 ( リソース ) などの制約が計画の範囲内で満足していること。
  • 成果物の出来栄え ( 品質 ) が要求を満足していること。
  • 全てのステークホルダー*4 の要求や期待を満足していること。
*3 ISO10006; プロジェクト品質マネジメント指針。ISO90001( 品質マネジメント ) のプロジェクトの部分を補完している。

*4 ステークホルダー ; 利害関係者、プロジェクトを遂行する上で直接的、間接的に利害関係を有する者を指す。具体的には、消費者、顧客、株主、行政機関、コントラクター ( 工事請負会社 )、機器サプライヤー、従業員、地域社会など。

施設建設プロジェクトに於いては、工期遅延のリカバリー、経営資源不足に対する追加手当、高品質を維持するための手直し工事、近隣対策 ( 騒音等環境対策 ) 等の不具合対策が、最終的に全てコスト超過として帰結するケースが多い。

3.プロジェクト失敗の原因

次葉の図3-1 は、IT システム系プロジェクトの失敗要因の上位 10 項目として紹介されたものであるが、これは施設建設プロジェクトにおいても十分に当てはまる要素である。
(「受注時の見積り精度が低い」は、ユーザー(施主)の視点としては「実行予算またはコントラクターの見積査定の精度が低い」と読み替える )

プロジェクトを失敗させないためには、これらの失敗要素を反面教師として対策を取れば良い訳であるが、そのキーワードは、実行予算の精度、プロジェクト管理上の基準設定、( 論理的に ) 実行可能な工程の設定、変更管理、コミュニケーション、プロジェクト・マネージャの質 ( リーダーシップ ) である。なお、はじめの 3 項目は、プロジェクトの語源の意味する「計画」、「企画」に合致する要素でもある。

出典:PMAJ(日本プロジェクトマネジメント協会)公開資料
図3-1 プロジェクト失敗の10 の理由

また、プロジェクト・マネージャのリーダーシップやプロジェクトチーム内のコミュニケーション等の人的由来に依存する要素も大きく、ユーザーとしては、コントラクターとの打合せやプレゼンにおいて、コントラクター側のプロジェクト・マネージャーやキーパーソンの力量を十分に見極めておく必要があろう。

次回「4.プロジェクト計画とコントロール(PDCA)の重要性」へ続く。

参考文献

1) ( 財 ) エンジニアリング振興協会、「エンジニアリング プロジエクト・マネジメント用語辞典」、重化学工業通信社、1986

 

シーエムプラス海外情報発信HP事務局


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