- 2021 . 07 . 13
- ホワイトペーパー
海外工場建設プロジェクトの進め方-VOL.10
海外工場建設プロジェクトの進め方(10回シリーズ)
第10回:検収・引渡し後
ここまでお付き合いいただきありがとうございます。いよいよ10回シリーズの最終回です。
施工会社から工場を引き渡され後は、トラブル無く工場運営に集中したいものですが、工場建設は規格品製造ではありませんから、引き渡し後も何等かの不具合が発生することは当たり前と考えましょう。(そのトラブル発生頻度が施工会社の能力と関係していることは否定しませんが。)
そのようなトラブルに備えて、本章では、引き渡し後の留意点に関してお話します(たまに最初の1年間の運転を工事会社役務に含めるような契約も無くはありませんが、特殊なケースですのでここでの説明対象とはしません。)。第5回の「契約上の注意点」では、これらを詳しく説明しませんでしたが、下記のような事項は漏れなく契約書に規定しておきます。
契約上、引き渡し後の保証期間に関する規約としては大きく以下の2パターンがあります。
- 引き渡し条件として保証期間有効なセキュリティーボンド(契約金額の5%程度)を提出してもらう。
- 支払総額の数パーセント分(3~5%程度)を保証期間内支払留保する。
プロジェクト規模が大きければ上記のそれぞれのケースで、保証期間の残存期間に応じて減額してゆくこともありますが、2)は請負会社側のキャッシュフローが厳しくなるので、どちらかというと1)のケースが多いと思います。工事会社側もボンド発行会社からの信用問題もありますのでより対応も丁寧になることが期待できます。
保証期間内に実際に不具合が発生したらどうしたら良いでしょうか? まずは施工会社の担当者に連絡を入れ、事象を確認してもらいます。保証範囲であるか保証外かで揉めることもあるでしょうが、互いの時間と費用を鑑みてArbitration(仲裁裁判)までもつれることは稀です。ここでは保証対象となった不具合の事について述べます。
修理部位については修理完了後、その保証期間が新たにそこからスタートとすると契約書に明記しておきましょう。これを忘れると保証期間終盤に発生した不具合対応が曖昧になりかねません。また、保証期間が1年と合意されていても、日本同様、国によっては構造や屋根防水などに法で瑕疵担保期間が設定されている場合もありますので、その国の法律を確認しておきます。特に明確になっていない場合は、日本同様の瑕疵担保条項を契約書で規定します。
ご家庭では電気製品の1年保証がいつ切れるかなんてあまり気にしてない方も多いのではないでしょうか。今、ここで取り上げている工場はそれらよりも桁の違う買い物ですから保証期限は常に意識しておきたいものです。保証期間が終わる前には施設を今一度総点検し、不具合が発生していないか確認してください。そのような点検は保証期間完了3ヶ月前ぐらいが互いに慌てずに対応できるタイミングだと思います。施主様によっては、引き渡し1年後に施工会社側の総点検実施を要求事項として契約書に明記されているケースもあります。
保証期間が完了したなら、次は施主によるメンテナンス行為の始まりです。海外では日本のように電話一本でほとんど用を足すことができるとは限らないですから、メンテナンス計画も竣工引き渡し前後には立案しておきます。前回の章で引き渡し時に受領すべき図書としてスペアパーツリストを入れました。スペアパーツリストではどのくらいの頻度で特定の部品を交換しなければいけないか、引き渡し時の部品代がいくらなのかの情報も含まれていますので、計画の参考になるはずです。
引き渡し時というのは施主側も施工会社側も超多忙でこれらの内容を精査するだけの余裕がないことは想像に難くありません。トラブルが発生して初めてこのスペアパーツリストの重要性に気づくのですが、大事なのは各設備を収めた代理店・メーカーの現地法人の有無、それぞれの連絡先です。スペアパーツリストにはそれらの情報も記載されているはずですので、引き渡し時には、設備項目とそのような情報も網羅されているかぐらいは確認し、十分納得してから引き渡しを受けるようにしましょう。
以上で10回シリーズは完了です。皆様のご計画の一助になれば幸いです。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
2021年7月
シーエムプラス海外情報発信HP事務局