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第3回 海外工業団地選定のポイント(全3回)

第3回 海外工業団地選定のポイント(全3回)

第3回 海外工業団地選定のポイント(全3回)

「海外工業団地選定のポイント」最終回では、工業団地との条件交渉から決定、土地売買契約/リース契約、土地区画引き渡しまでについて、留意すべき点をお話いたします。

工業団地との条件交渉から決定
正直なところ、団地側からすれば、是が非でも入居して欲しい場合と、あまり積極的になれない場合があります。後者の場合として、環境への負荷が大きい、いつ事業を開始するのか不確か、法令順守や廃水処理などへの対応に不安が感じられる、支払いスケジュール等について強気な要望が多い場合などです。一方、投資額・土地区画の大きな取引や、女王バチのごとく関連企業を呼び込む力のあるプロジェクトはもちろんですが、ターゲットとする誘致産業であり、確かな事業計画があり、稼働予定スケジュールも明瞭、環境、工場管理、労務面等の法令順守に厳しく向き合っている企業には入居してほしいものです。逆に言えば、このような視点で、交渉の中で自社の、プロジェクトのアピールをなさることをお勧めします。

交渉の相手について知る
第1回のシリーズの中で、契約する相手について正しく理解しましょうと話しましたが、土地売買契約/リース契約を進める前に、再度慎重におさえる必要があります。信用調査という点からは、過去に入居企業から提訴されたような事例がないか、設備等について当局から改善を求められたことはないか、(特に、長らく入居企業が途絶えているような場合)開発を持続する経済的クレジットはあるか、地主とのトラブルはないかなど。候補先工業団地に、安心して入居を前向きに進めたいので、関連資料を提示してほしいと要望することもよいと思います(最新の登記簿を見れば、株主構成が明らか)。
ここでは、交渉相手を理解する別の切り口として、「開発」「販売・マーケティング」「運営」ごとに、企業/組織とその履歴を確認することをお勧めします。たとえば、ローカル企業との合弁で日本企業が開発に携わり、メイン投資主として販売・マーケティングも行い多くの日系企業を誘致。現在は、ほとんどの株をパートナーであるローカル企業に売却し、開発には携わらず、日系企業のテナント担当として、日本人を配置しているというケース。あるいは、グローバル工業団地開発業者が3か所の工業団地(A,B,C工業団地)をそれぞれのパートナーと合弁企業として開発、運営しているが、販売・マーケティンについてはグローバル開発業者の100%子会社の現地サービス会社が専任として担当し、営業に日本人を雇っているというケースなど、プロジェクトごとに様々です。その履歴を理解した上で、今回の契約者が契約期間中永遠に変わらないという保証はないという前提で、団地としての総合的な最終評価をする必要があります。

土地価格について
団地との交渉の中心に、土地の価格がありますが、団地の土地価格レンジは、相場と開発業者の開発ポリシーにより決定されますので、〇〇工業団地の価格に合わせて値下げしてくれませんか、と要求されて応えられるものではありません。こんなに首都や港から離れたロケーションなのに、なぜこんなに土地代が高い!という工業団地もでてくると思います。製品であれば、スペックにより競争力ある価格に落ち着きますが、土地の価格は、供給が足りないのに需要があれば高騰します。価格交渉は、その団地の価格レンジ内で試みるのが現実的です。団地側から最初に提示された価格は、いわゆるAsking price ですので、そこから交渉をはじめましょう。支払いスケジュールを彼らの有利になるように譲歩することも、ひとつの取引材料になるかと思います。

説明されていない支払い事項について
土地、管理費の他に必要となる支払い事項について最終確認します。また、土地税など、土地購入・リース契約に直接かかわる税についても、情報を求めます。

支払いスケジュール
支払いスケジュールは、国によっても、開発業者によってもかなり異なります。土地の名義変更・土地使用権利書の発行手続きを団地側で行う場合、最終支払いの何%かは、手続き完了後とすることができるのか、要交渉です。

区画確保
最終的に、進出団地が絞られましたら、社内の決裁がおり、手付け金の支払いまで、その区画を確保してもらう必要があります。これについては、団地ごとに条件が異なりますので、要確認、要交渉です。時間をかけて検討を重ね、最終候補地としたにもかかわらず、土地見積期限までに社内決裁がおりずに、他の企業にもっていかれそうだという事態は避けなければなりません。

設立までのスケジュール管理
進出企業により土地引き渡しまでの期間に大きく差が出るのは、「現地法人設立」と「土地の本契約締結」に費やす時間の差かと思います。現地法人設立に関しては、ここでは触れませんが、環境への負荷が大きいとみなされる場合、投資申請書類準備に時間を要しますので、工業団地へも相談し、最短で確かな申請手順について充分情報収集が必要です。

開発は新たな開発を呼び込み、成長していきます。何もない土地に、ポツンと
開発された団地でも、少しずつ誘致が進むことで、一大工業エリアとなり、ショッピングモールやホテル産業の開発業者が近隣に投資をし、学校ができ、労働人口が増え、交通インフラが整う。そんな団地をいくつか目にしてきました。当然、土地の値段も数倍になっています。一方、入居率がまったく上がらない工業団地も散見されます。どうぞご自身の目で充分に調査をされ、先見の明をもって、最適な団地をお選びください。

土地売買契約/リース契約
主な条件が整い社内決裁もおり、いよいよ本契約締結に入ります。早めに本契約書のひな型を入手し、内容を確認しましょう。

地中埋設物
契約締結後、工場建設のための造成をしたところ地中埋設物が見つかり、当初予定していた工場建設に支障をきたす事態となった場合。日本では売主に対して法的責任を追及することが考えられますが、進出予定国での法律ではどうでしょうか。工業団地は、未開発地域や農地等を開発するケースがほとんどですので、以前建っていた建物の基礎部分や使われていない水道管、浄化槽などが現れたということは無いと思いますが、ベトナムでは不発弾が出てきたときの処理責任をどうするかで、かなり交渉に時間を要したことがあります。

契約解約
第1回のときに触れましたが、団地から退出し契約を解約することになったときのプロセスと条件については、細かく確認する必要があります。万が一土地所有権・利用権の譲渡について、工業団地との交渉がうまく運ばず、団地側が弁護士を使うような場合、その弁護士費用の一部を支払わなければならないと読める条文もありえます。一方、団地側の協力もあり、不動産価値に見合った価格で買い手が見つかり、三者契約を結び(売り手、買い手、開発業者)、原状回復工事をすることなく譲渡できたケースもありました。

土地の実測について
契約上の土地面積と、実測した際の面積が異なる場合の清算方法について要確認です。

国によっても開発業者によっても事情は異なり、一概には言えないのですが、契約書の諸条文についての交渉については、まずは弁護士をたてた方が安全です。契約書の内容をよく理解することは必要ですが、当該国の産業不動産契約で実績ある法律事務所を使い、契約が公正で産業用リース契約に必要な法的要件をすべて満たしているか、買い手・借り手に不利な条文がないか助言を求め、直接交渉人となってもらいましょう。ただし、私の経験では、ことばの表現について平行線のまま埒が明かず、最後は入居企業側で弁護士を交渉から外し、直接面談・交渉の末、Goとなったケースもあります。
最終的には、個々の争点の重要度から決断を求められるでしょう。

契約書の写しは、環境・消防・設計申請の際に必要となると思います。契約締結は、工期の確定に大きく関わりますので、あらかじめ締結ターゲット日を想定しておきましょう。

土地引き渡し
土地引き渡しに必要な土地の支払いを完了し、土地区画の実測をへて、晴れて土地引き渡しとなります。

最後に、工業団地との賢い付き合い方について触れたいと思います。

本契約が終わりますと、工業団地との長い付き合いが始まります。団地には、良好な関係のもと気持ちよくサポートしてもらいたいものです。

団地側の施設管理、カストマーサポート、経理部とは、入居が決まったら挨拶を兼ねて面談を求めることをお勧めします。その際に、自社の担当スタッフも同席させて紹介し、また、確認必要な事項があれば、再度おさえておきます。

団地が決まる前までは、営業がすべての窓口だったと思いますが、入居してからは、内容に応じて直接担当部署とやり取りするよう切り替えます。とはいえ、営業にとって入居企業は、いつまでも大切なありがたいお客様です。契約後は、よりオープンに情報を開示できる間柄になっていると思います。スタッフ間で上手く解決できない状況が見られたり、困ったことがあれば、営業は、積極的に解決に取り組むはずです。

今回で、「海外工業団地選定のポイント」を完了いたします。
工業団地選びの一助になりましたら幸いです。
お付き合いいただきありがとうございました。

執筆者
田山恵里子(タスクライティング代表)

第2回 海外工業団地選定のポイント