トピック

第2回 海外工業団地選定のポイント

第2回 海外工業団地選定のポイント

第2回 海外工業団地選定のポイント(全3回)

前回は、工業団地を検討するにあたりおさえるべきポイントについてお話しし、比較・評価表をご紹介いたしました。工場のマスタープランをもとに、希望に沿う団地のリストアップが整いましたら、次のステップとして、現地視察を行います。第2回では、工業団地との面談のポイントについてお話ししたいと思います。

工業団地視察の手配と上手な面談の進め方
この段階での目的は、現地で生の情報を得ることです。どんな詳細な情報を事前に入手したとしても、百聞は一見に如かず。現地視察を行うことで、リスト上の工業団地の特色がクッキリと際立って見えるようになるでしょう。また、投資ライセンス取得、工場の設計や施工、物流、採用、融資、会計等に関わる様々な企業、サプライヤー、代理店などとも現地視察の中で面談を予定されることと思います。これら現地事情に詳しい方々からも、工業団地に関する情報(評判?)を得ることができます。団地の評価は様々だと思いますが、生の声は大変貴重です。

さて、工業団地ロングリストを基に、現地で各工業団地を訪問し、個別面談を行いますが、現地視察は、以下の3ステージに分かれます。

ステージ1 ロングリストからショートリストへの絞り込み
ロングリスト先の工業団地をくまなく訪問します。いち訪問にかけることのできる時間は1時間程度でしょう。全視察が完了しましたら、評価報告をし、次のステップへ進む数か所の候補団地、候補区画を決定します。特に日本からの出張視察の場合、経費上の理由からも、一度の訪問でふるいに落とさざるをえないケースが多いと思います。無駄のない効率的な面談内容にすることが非常に重要です。

ステージ2  ショートリスト先との交渉・優先順位決定
ショートリスト先の工業団地へ再訪し、交渉に入ります。この段階での面談には、充分に時間をかけ、把握し切れなかった事柄を丁寧に確認し、疑問点をつぶしていき、土地価格等の諸条件も詰めます。

ステージ3 役員・決裁者視察
取締役会にかける前、あるいは最終決裁者に決定を仰ぐ前に実施される役員視察です。この段階では、候補先優先順位が決まっており、役員から最後の交渉をする場にもなります。

工業団地視察セッティング
工業団地の営業をしていたときに、進出検討中の企業さんだけで訪問を受けたケースは、ほぼありません。第1回シリーズの中で触れました進出サポートを生業とするコンサルタントや不動産仲介業者、ジェトロのアドバイザーあるいはゼネコンなどからまずは視察したい旨の連絡を受け、その方々がガイド役として訪問されるのが普通でした。土地勘のことを考えれば、初めての視察は、これらのサービスを利用した方がはるかに効率的です。次のステップからは独自で動くのか、あるいは、最終契約に至るまでサービスを活用するのかは、会社の方針をもとに決めればよいと思います。

ポイントとしては、第1回の現地視察ではなるべく多くの工業団地をまわること。訪問予定でなくても、スケジュールに余裕があり近くに団地があれば、立ち寄ってみるぐらい動く。面談をせずに、団地を一周するだけでもいいです。「いい感じの団地だな」と感じるものがあれば、スケジュールに入れ込む。ロングリストから漏れていた、ということもありえます。多くの団地を視察すると、見る目が養われてきます。

アポイントメントをとる際には、必要な区画の広さと、製造するもの、ユーティリティで特に要望することがあれば伝え、団地の詳細スペックの説明と該当区画図面を要求しておきます。ショートリスト先の団地へは、同団地で稼働中の企業の紹介を依頼することもお勧めします。稼働間もない企業からは、進出にあたっての団地側のサポート等について聞けますし、入居して長年たつ企業からは、労働力の確保、電力事情等のヒアリングが可能です。

最終日は、スケジュールを入れずに空けておく、というのも一案です。ひととおり訪問した後で、もう一度視察したいという団地が出てくるでしょう。そのときは、通勤時間に合わせて訪問すれば、現実の状況がつかめますし、周辺のアパートや商業施設をまわることもできます。また、夜立ち寄ることもよいかと思います。団地内の外灯がどの程度明るく団地を照らしているか、守衛は充分配置されているか、などざっと視察するだけでも団地の違いが分かります。

上手な面談の進め方
初めての団地側との面談の際には、特に時間配分を考慮して、団地側からのプレゼンは、10分程度におさめてもらってください。だいたい出来合いのプレゼンの内容は、開発のビジョンや完成されたプロジェクトの姿、開発業者の実績、インフラ概要などで、これだけ聞いても実態はつかめません。団地側が面談時に用意する資料として、ファクトシート(概要資料)があり、開発状況を知るにはこちらが重要ですので、この資料をもとに説明を受ける、質疑を重ねるのがよいと思います。工業団地比較・評価表を手元におき、説明事項と表の記載事項に違いがあれば確認・更新し、新たな情報を加え(団地の開発状況、入居状況、最新の交通インフラ開発状況等)、重要点の漏れがないようにします。

ポイントは、面談を団地側にゆだねないこと。こちら側の意図をくみ取って、要点のみを説明してくれる団地の営業ばかりではありません。たまたまその時の未熟な担当のせいで、候補から外すというのも避けたいことです。質問に対して明瞭な答えを得られなければ、分かる人の同席を求めましょう。
また、団地側からすると、投資規模、進出の時期、進出の目的、工業団地選定で重要視する点、検討はどこまで進んでいるのか、決定の時期等、知りたい情報は多くあります。企業からみれば、「言う必要なし、団地の情報だけ提供してくれ」というスタンスかもしれませんが、「ここの団地はうちの会社について事前に下調べしているな」「確実に誘致し入居企業を増やしているな」「管理がしっかりしているな」などと感触が良ければ、差しさわりない範囲での進出計画に触れ、あるいは、NDAを結び、ぜひ一歩踏み込んだ面談になさってください。結果、有利な条件交渉につながると思います。

プレゼン、質疑が終わると、では現場を視察しましょうとなります。該当区画の造成の状態、道路からの高さ、ユーティリティの接続ポイント、近隣の工場(粉塵、臭い、騒音等)、廃水処理施設等を確かめます。視察には団地側から団地開発あるいは施設担当者の同席を求めましょう。

工業団地との面談が終了した後は、工業団地の区画図片手に自社の車で団地の中をいろいろ走ってみてください。管理が行き届いているか、開発が進んでいるか等、肌で感じることができます。

面談を効率的に進めるうえでネックとなるのが、言葉の壁です。日本語での面談を希望され、団地に日本人営業あるいは日本語を話す営業がいない場合には、現地の言葉と日本語間の通訳が必要になりますが、工業団地について基礎知識をもたない通訳を介しての面談は、非常に非効率的で、ミスリードすることもありえます(現地語で長々話しているわりには、通訳された日本語文がやけに短い、というのはよく聞く話しです)。英語での交渉に長けた進出コンサルタントを雇われ、英語ベースで面談することも一考です。

最終回は、工業団地との条件交渉から決定、土地区画引き渡しまでについてお話しいたします。

執筆者
田山恵里子(タスクライティング代表)

第1回 海外工業団地選定のポイント

第3回 海外工業団地選定のポイント