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第1回 海外工業団地選定のポイント

第1回 海外工業団地選定のポイント

第1回 海外工業団地選定のポイント(全3回)

このシリーズでは、「工業団地選定のポイント」、数多ある工業団地から、どのような視点で投資家が望むところの土地区画を選び出すことができるかについて、ご紹介いたします。一度、決めてしまえば、簡単に移転などできない生産拠点。工業団地選びには充分な下調べと現地調査、比較検討に時間をかけてという企業様が多いと思いますが、一方でタイミングも要。おさえるべきポイントを事前に把握し、こんなはずじゃなかったということにならないよう、そして、効率的に検討を進めることができますよう、以下の3回に分けて、お話しいたします。なお、内容は私が工業団地の営業をしておりましたベトナムが基準となりますが、重要な視点は基本的に変わらないと思います。特に、国により、あるいは団地によっても異なる契約の流れや優遇税など、アドバイスが必要な場合には、進出予定の国で実績あるコンサルタントなどにご相談なさることをお勧めいたします。
当シリーズが海外進出を検討されている企業様の一助になりましたら幸いです。

第1回 「工業団地検討から土地区画引き渡しまでのプロセスと検討においておさえるべきポイント」
第2回 「工業団地視察のポイントと上手な面談の進め方」
第3回 「工業団地との条件交渉から決定、土地区画引き渡しまで」

工業団地検討から土地区画引き渡しまでのプロセス
工業団地検討から土地区画の引き渡しを受けるまでのプロセスを頭に入れておくことは、不安要素をなくし、時系列でプロセス管理をする上でも、また、それぞれのステップについて事前準備をするためにも重要なことです。主なステップは以下となります。

1. 候補団地のリストアップ(ロングリスト作成)
2. 工業団地の詳細情報入手
3. 工業団地との個別面談と現地視察
4. 条件交渉
5. 工業団地決定(社内決裁)
6. 基本契約締結と手付金の支払い
7. 投資認可取得および現地法人設立(新規進出の場合)
8. 本契約締結
9. 土地引き渡し前の土地代金支払い
10. 土地引き渡し

実際には、工場建設予定月から逆算して、いつまでに工業団地と本契約をするかがひとつのマイルストーンになるでしょう。
進出国が決まりいくつかのエリアが候補になり、そのエリアでの工業団地を調べる段になりました。CM Plus や日本アセアンセンター等の工業団地プラットフォーム、ジェトロ資料等から団地一覧を入手するのには時間を要しません。
まずは、団地のリストアップの前に、検討する上でおさえるべき項目を洗い出し、団地比較・評価のためのフォーマットを作成しましょう。

検討においておさえるべきポイント
開発業者と契約先
開発業者、現在の運営母体、契約主について正しく知ることは、団地を知る上で非常に重要な点ですが、ウェブ上で公開されている情報は「開発業者」として会社名の記載があるぐらいです。元々の土地所有者は? 投資主は? それぞれの投資割合は? 現在の運営者と団地を開発した業者は同一? 契約先と団地の運営者は同一?(団地の一部エリアを他の企業が買い取り/リースをして転売するケース、あるいは、あるフェーズだけ別の投資家が参入するケースもあります)等の視点から、団地開発の履歴を把握します。工場建設のために、デューデリジェンス(Due Diligence)を外部委託するケースはほぼ無いと思いますので、自社で、開発業者、運営母体、契約先のリスクを見極める必要があります。そのため、まずはそれらが何者なのかを知ることから始めましょう。充分理解したうえで、その開発業者の持続性、将来の開発事業への発展性、工業団地開発・運営の実績等を評価します。

工業団地のマスタープラン
団地のスペックを検討する際には、まず、基本設計としてのマスタープランを読み込みましょう。マスタープランは、開発業者が開発認可を得た完成された団地の姿です。プロジェクトによっては、工業用地だけでなく、居住エリア・商業エリアをも含んだ統合プロジェクトの場合もあります。この完成された姿を基に、現在の開発段階を確認します。つまり、造成・インフラ整備が完成されているのはどのエリアか? 居住エリア・商業エリアがある場合、その開発進捗状況は? 工業区域の契約率は? 実際の入居企業の稼働率は? など。特に、工業区域の販売/リース開始から数えて、どの程度の稼働率あるいは入居企業数かを見れば、その工業団地の「人気度」を知ることができます。投資家が決まってから該当区画の造成・インフラ整備を開始する、という条件の場合もあります。
また、マスタープランから、主道路幅、副道路幅、団地出入口と候補土地区画間の動線、ユーティリティ接続箇所等も確認します。
マスタープランの設計会社にも関心をもちましょう。どのような設計ポリシーの工業団地かは、発注側である開発業者の開発意図はもちろんですが、それを図面化した設計会社の工業団地に対する知見も大きくかかわってきます。

土地使用期限
進出予定国での土地所有に関わる外資規制は、進出国を比較する段階で調べられていると思います。土地に対する権利については、永久的に土地(不動産)を所有することのできるいわゆるFreehold (フリーホールド)と、一定期間の借地を認められるLeasehold(リースホールド)がありますが、リースホールドの使用期限は、国ごとに異なるのはもちろんですが、団地ごと、開発フェーズによっても異なる場合がありますので留意してください。また、土地使用期限がたとえば50年だとした場合、通常これは開発業者の該当工業用地に対する借地期限ですので、入居企業からみれば、団地により土地使用可能期間が異なることになります(地主と開発業者間は50年借用のリース契約、開発業者と入居企業は、その借地期限までのサブリース契約)。一方、借地期間をフルで使うことができる場合もあります。国や地方自治体が土地を保有かつ、工業団地開発も行っている場合等です。また、支払いを終えた入居企業に対して、借地権利書の発行があるかについても、団地に確認する必要があります。

土地借地権の転売・撤退時の条件
永続的に生産活動を行う前提としての進出としても、移転や、あるいは撤退ということになったときの土地の扱いについて考慮する必要があるでしょう。まずは、その国の法令を調べ、転売に関する権利について知識を得ることをお勧めします。そのうえで、工業団地側からの説明を受け、納得する必要があります。不動産価値が上がり、残存借地期間もある場合(リースホールドの場合)には、評価額に見合った価格で転売できるのがベストですが、転売先が決まった場合でも、一度工業団地が引き取る体裁のところもあります。団地側からみれば、新規入居企業が誘致先ターゲットとして適しているか等の判断をしたく、契約書の中で転売に関する団地側の事前了承が条件になっていると思います。中途解約条件等、候補団地が絞られ最終交渉に入った時点で、慎重に確認しましょう。

地盤
海抜、地盤の硬さ等の条件も、団地選びに重要な項目です。海抜だけでなく、一番近い河川からの距離と河川面からの高さもチェックポイントです。洪水被害に関しては、外から流れ込んでくる他、雨水設備の容量が原因で、逆流してしまうことも考えられます。特に、東南アジアの雨季の際に、過去水被害があったかは、要確認です。大雨ごとに、団地内の道路が川のようになる工業団地を見たことがあります。また、実際には、工業団地はまったく平らということはありません。団地内でも高低差があります。できれば候補土地区画での海抜等を確認した方がよいでしょう。
工場建設工期や建設コストに大きな影響を及ぼす地盤については、団地が「見込み顧客」とみれば、参考となる地盤調査書を開示してくれると思います。ただし、調査ポイント場所によって、かなり数値に差が出てきますので、候補土地区画近くの調査だとしても、100%の判断根拠とすることはできず、正確には、土地引き渡し後に実施する該当区画内での調査を待つことになります。また、もともとはどのような土地だったのか確認しましょう。沼地だった、ゴム林だったなど。造成に際して、該当区画が盛り土かどうかも要確認です。
地盤沈下や工場建設の際の杭打ちについては、操業して数年たつ工場からのヒアリングや、該当工業団地で実績ある建設業者から情報を得るなどして、実態を掴みましょう。

ユーティリティ
電力、給水、排水設備やその容量ですが、開発計画と実際のインフラ状況を分けて確認します。電気については、直接電力会社と契約するケースが多いのではと思いますが、気がかりは、停電の頻度でしょう。計画停電がどのくらいの頻度であるのか、ないのか、団地としてのサポートはあるのか。このあたりは、現場視察のステップで、既出の入居企業にヒアリングするのがよいと思います。給水量については、特に大量の水を使用する場合に交渉が必要です。稼働中の排水処理のキャパシティと、入居企業が少ない団地では、稼働できているのかどうかも要確認です。各工場から団地へ排水できる水質の基準も、確認してください。これらの情報は、ウェブ上では公開されておりませんので、面談のときに資料を要求するのがよいと思います。

団地の管理体制
団地内の緊急連絡網がどのように機能しているのか、入居企業へはどのように通知しているのか確認します。万が一、ある工場で火災が発生した場合、ストライキが勃発した場合など、非常事態のときの機敏で確かな情報展開は、入居企業にとって基本的な安心材料です。

立ち上げサービス・団地主催のイベント等
「ワンストップサービス」として、現地法人立ち上げサービスを謳っている団地も少なくありませんが、具体的なサービスの内容を確認する必要があります。ビジネスライセンスを最短で取得するための立ち上げサービスですので、団地の運営会社の役員が当局と強力なコネクションがあるとか、何かバックとなる条件が揃っているはずです。団地側と当局との人的関わりを知っておきましょう。

また、ワーカーにとって魅力ある団地であることは、労働力の確保と維持につながりますので、団地運営側は、企業誘致策の一環としても、体育祭や一年の締めくくりのパーティなど、様々な催しを実施している場合があります。その他、団地側のソフト面での入居企業サポートについて聞いてみましょう。

環境・社会・ガバナンス (ESG) への取り組み
これは、社内決裁を仰ぐ際に、社長や株主への説明として求められる視点かと思います。環境負荷削減のための具体的な取り組み、地域社会への貢献、ESGに関する関連企業への要望体制と社内教育など、面談の際に確認します。会社概要とは別にESGポリシー資料を整えている団地もあります。

これらおさえるべきポイントを含めた工業団地比較・評価表のひな型を以下に添付いたしますで、ダウンロードしてご活用ください。ご自身の会社(決裁者)が何に重点を置くのかにより、確認情報に比重を置き加工されればよいと思います。

さて、比較表のフォーマットと、おさえるべきポイントを掴んだ上で、候補先リスト作成に移りますが、その前に、工場のマスタープラン(初期基本計画)はお済みでしょうか。一体どのくらいの工場を建てればよいのか?どんなエネルギーの供給が必要なのか?最適な間口と奥行きは?等を押さえておかないと必要敷地面積も分かりません。

工場のマスタープランをもとに、工業団地一覧から要望を満たす団地をリストアップします。すでに完売している団地や、希望敷地面積に見合う区画のない団地をリストアップしても意味がありませんので、その洗い出しをどのようにするかです。工業団地の土地開発・販売状況を把握しているのは、現地の不動産仲介業者(インダストリー専門の部署があること)、現地コンサルタント(特定の工業団地とエージェント契約しているケースも多く、サービスを利用する際には留意が必要)、現地に拠点のある銀行、そして、現地法人をもち建設実績ある日本のゼネコンでしょう。予算や海外進出に関わる業務知見、海外進出というセンシティブな情報の管理等の観点から、これらのサービスを活用するか否かを決めます。また、中堅・中小企業が対象になると思いますが、ジェトロの海外進出支援サービスも大変有益な助けです。もちろん、担当者が直接工業団地に問い合わせをして情報を得るやり方もあり、時間を要しますが、団地からのレスポンスの良さを知ることができます。

第2回では、工業団地視察のポイントと上手な面談の進め方についてお話しいたします。

執筆者
田山恵里子(タスクライティング代表)

♦工業団地比較・評価表をダウンロードする

第2回 海外工業団地選定のポイント