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海外建設プロジェクトにおけるコスト管理-VOL.2

海外建設プロジェクトにおけるコスト管理-VOL.2

海外建設プロジェクトにおけるコスト管理

2. 発注方法とコスト管理

前回は、東京の建設費が世界で一番高い事、その理由は日本の独特な建設状況と、堅調な国内建設需要にあることを、 Turner & Townsend 社の2021年調査報告書の数値を使用しながら解説しました。第2回は、日系の会社が海外で工事発注する場合の各種方式と各方式のリスクやコストに関して解説します。「海外工場建設プロジェクトの進め方 - VOL.3」では、下記3つの方式に区分できるとしました。

  1. 建築実施設計を現地設計会社へ発注し工事会社と分離する。また、製造機械は施主が別途購入、据付する。
  2. 建築工事会社に建築実施設計と工事を一括発注し、製造機械は施主が別途購入、据付する。
  3. 製造機械購入、建屋も含めて全てゼネコン、もしくは、エンジニアリング会社に発注する。

どのような建設プロジェクトでも建物施工ゼネコン(General Contractor GC)、製造機械(Production Equipment PE)をどのように発注するのかにより色々な発注形態があります。建物や機械の詳細な設計や仕様を決めない限り、適切なプロジェクトコストを見積もることができません。設計や仕様を全て自社内で行う形式を含め、上記3区分を下記のように再整理できます。

O形式  発注者(Owner)の自社内で設計や仕様を全て決め、GC及びPEを発注する。
PM形式  コンサルティングコンサルティング会社にプロジェクト管理(PM)と設計を依頼し、ゼネコンGCやPEを別発注する。上記1)はこのバリエーション。
GC形式 ゼネコンにPM、設計、施工を一括発注する。上記2)と3)はこのバリエーション。
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各形式には各種バリエーションがあります。どこまでの設計をどの会社に依頼するのか、また、海外プロジェクトでは日系会社に発注するのか、海外会社に発注するのか、などにより、選択肢が多くなります。

下表に、各形式のリスク分析をコスト中心に示します。

形式 リスク 対策
O形式
自社内で設計や仕様を全て決める
設計内容、業者選定、契約金額の妥当性が社内部門の判断のみで客観性を確保できるか。特にトラブル発生時の客観的な説明が難しい。 プロジェクトの各段階で第三者によるレビューを行う。レビューの頻度が多いほどリスクは回避でき、第三者を常時雇用すると実質的にPM形式となる。
PM形式
コンサルティング会社にプロジェクト管理(PM)と設計を依頼
日本の仕様と海外建設地の仕様の両方を熟知したコンサルタント会社であれば、最適なコスト管理が行える。ゼネコンやメーカーから提出される金額を適切に査定が可能となるが、コンサルタント会社の能力が大きくリスクに影響する。 コンサルタントは、日本の会社と現地会社を適切に組み合わせることで、日本と現地、両方の情報を得られ適切な判断が可能となる。
GC形式
ゼネコンにPM、設計、施工を一括発注する。
海外ゼネコンはリスクを別途契約とし、契約後に各種追加請求する傾向がある。他方、日系ゼネコンはプロジェクトの全てのリスクを見積もり価格に転嫁する傾向がある。また、現地での施工実績が少ない場合は国内工法を採用する傾向が強く、現地では割高な工法となる。ゼネコンからこのような傾向で提示された金額の妥当性が検証できない。   0形式同様に、プロジェクトの各段階で第三者によるレビューを行う。レビューの頻度が多いほどリスクは回避でき、第三者を常時雇用すると実質的にPM形式となる。

海外プロジェクトは国内と比較すると収集できる情報が圧倒的に少なくなります。また現地の商習慣、法規制などは日本での常識が全く通用しないことも多くあります。従って、複数の情報源を持つことがリスク回避の面で最も重要となります。このように考えると、海外では上記O形式やGC形式より、情報源が複数となるPM形式が好ましいことがわかります。PM形式において、どこまでをコンサルタントが支援又は管理するのかは、プロジェクトの規模、内容、場所に応じて柔軟に検討していく必要があります。

プロジェクトの要はやはりコストとなります。第1回において日本の建設コスト、すなわち日系ゼネコンのコストが世界で最も高いことを概説しました。日本と海外との商習慣の違いから単純に比較できませんが、日本の建設コストの算出方法が世界から見ると独特の方式となっていることもその一つの理由として考えられます。海外プロジェクトを実施する場合、海外でのコストの考え方や算出の仕方を理解し、コスト専門家をプロジェクトチームに入れることで、適切なコスト管理が可能となります。日系ゼネコンに依頼する場合でも、彼らは現地サブコンと海外方式でコスト交渉をしていますので、このような専門家の活用は有効です。建設工事におけるこのようなコスト専門家を Quantity Surveyor QSと称します。QSの役割は、日本の建築積算士とかなり異なりますので、次回第3回で その役割を解説します。

ライフサイエンスプロジェクトは、清潔度管理GMP認証が必要など、集合住宅やオフィスビルプロジェクト等と比較すると、建設プロジェクトの中では複雑な部類となります。コストを上げる要素が多いため、プロジェクト内容とコストとを熟知したチーム編成をすることがプロジェクトリスクを回避する最短の方式と言えます。

【執筆者】
シーエムプラス海外情報発信HP事務局

海外建設プロジェクトにおけるコスト管理-VOL.1

海外建設プロジェクトにおけるコスト管理-VOL.3

 


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