世界の建設コスト状況 2022
世界の建設コスト状況 2022
1.予測できない年
CMPlus のアジア提携会社(マレーシア、フィリピン、タイ等)に最新の建設コスト状況をヒアリングしたところ、全員が、大きく変動しており、予測できないという回答が来た。物流の混乱が各資材の物価上昇以上に建設コストに影響を与えており、通常の積算ができない状況は各国とも共通している。
Arcadis最新の2022年版では、毎年掲載していた昨年比を示していない。内容は、物価上昇と不確実性においてどのように対応すべきかという各国のコスト専門家のアドバイスとなっている。このレポートでは、欧米の建設費は2021年度に10%以上上昇したが、アジアでは地域によってばらつきがありながらも、比較的安定していた。例外はシンガポールで労働者不足により大幅に上昇した。中国の各都市も建設費が大幅に上昇している。
建設物価は、2021年第四半期で、主要資材である アルミ(40%上昇)銅(70%上昇)鉄及び木材の価格上昇により建設費が上昇した。2021年後半になると石油価格上昇の影響を受けるセメント、ガラス、タイルが上昇し建設費を押し上げた。セメントは材料費の38%、ガラスは23%が燃料価格である。米国で急増した住宅建設により、木材価格は一貫して上昇している。大雑把に建設資材費統計を均すと、2021年は建材が平均約25%上昇した。マレーシアでは 弊社提携設計会社のVeritasも建設コストを発表しているが、2022年度は建設費統計の平均値は出せないと言っている。
2.中国
Arcadisが公表している2022年建設費動向には、中国の建設費は、2021年に5.5%上昇という記録的な数値となり、2022年、23年も毎年3%上昇すると予測している。その原因として、労務費の上昇(4%)、各資材の高騰など。
3.マレーシア
マレーシアの建設費指数は下記の通り。2021年は2.9%の上昇、2016年から5年間で4.1%の上昇である。しかし、上述した通り、今年2022年はプロジェクトにより大きくばらついているとのことで、今年の平均値は出しても意味がないという。
VEIRTAS マレーシア建設工事費指数
4.フィリピン
フィリピンの建設費はコロナ禍前から急上昇していた。コロナにより高止まりしていたが、本年は再び上昇に転じている。
ARCADIS資料より
5.シンガポール
シンガポールの建設費は、2020年、約3%、2021年8.2% 上昇し、2022年もこの上昇傾向が続くとされている。
6.世界の建設費動向
Turner(アメリカ本社の建設会社)も毎年建設コスト状況を公表している。2021年版の予測値は下記の通り。
建設物価上昇概況 2020年実績と2021年時点での予測
% | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 |
アフリカ | 5.0 | 8.0 | 5.8 | 4.2 |
アジア | 2.4 | 3.6 | 3.4 | 3.1 |
豪州 | 0.5 | 3.6 | 3.2 | 2.4 |
欧州 | 1.6 | 3.3 | 2.5 | 2.4 |
中東 | 0.1 | 2.9 | 2.7 | 1.1 |
北米 | 3.1 | 3.9 | 4.1 | 3.8 |
南米 | -1.0 | 7.5 | 4.9 | 4.6 |
アメリカ建築家協会AIAは、世界の設計事務所の繁忙度を指数化した資料(Global Architectural Billing Index, GABI)を発表している。設計事務所の繁忙度は建設動向の先行指数として有効とされており、設計事務所が忙しくなれば、アメリカでは約11か月後に建設工事着工件数が増えると分析されている。
GABIの最新資料 2022年第1四半期レポートでは、世界の設計事務所の繁忙度は、2021年第4四半期から上昇している。建設費は高騰しているが、新規プロジェクトは堅調であるということになる。AIAではその主な理由として、地球温暖化対策や、SDGsにより、多くの建設投資が必要とされている事もあると報告している。
エネルギー消費量を抑制するため、より省エネとなる施設へ移行していく必要があり、ゼロエネルギービル(ZEB)などの引き合いが増えている。また、パンデミックにより都市郊外の不動産価格が上昇しており、特にアジアでの上昇率が高いと報告されている。不動産価格の上昇も、建設投資が堅調な要因となっている。
このように、需要が堅調なため、建設費は今後大幅に上昇していく傾向にある。プロジェクトにおいては、より慎重なコスト管理が必要となる。
【執筆者】
シーエムプラス海外情報発信HP事務局