- 2023 . 11 . 30
- タイ
- コラム 現地最新情報
製造業のタイ進出の手引き
製造業がタイへ新規進出するときの基本情報と、進出の手引きをアマタコーポレーションのActing Chief Marketing Officerである須藤 治氏に伺いました。
CM Plus:まずアマタグループの事業について教えていただけますか。
アマタさん:アマタは工業団地の開発、運営を行っている会社です。タイが本社で、タイの証券取引所にも上場している大手開発会社です。特にタイのチョンブリ県にある「アマタシティ・チョンブリ工業団地」は世界的にも最大規模の工業団地で、日系だけでも約500社、開発面積は4,000ヘクタールほど、現在さらに1,000ヘクタールを拡張中です。
アマタグループは、GMS、Greater Mekong Subregionと言われる地域、ASEAN北部5か国の頭文字を取ってCLMVTとも呼ばれますが、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム、タイに特化して開発を進めています。現在カンボジア以外ですでに事業を立ち上げました。ミャンマー事業は昨今の政変によって中断せざるを得ない状況ですが、ベトナムでは1994年にホーチミン郊外ドンナイ省に事業を立ち上げ、外資による工業団地の先駆けとして非常に高い認知度を得ています。現在はベトナム南部のドンナイ省に2か所、ハロン湾で有名なベトナム北部クアンニン省に1か所、工業団地を開発運営しております。最後にラオスでは中国との国境近く、高速鉄道の駅に隣接する地域2か所で、ラオス政府から約2万ヘクタールという広大な敷地での開発認可を受け、工業団地を第1期とした都市開発を推進中です。
アマタグループの特徴としては、短期的な利潤を求めるのではなく、長期的視点に立って商業施設開発なども含めた付加価値のある開発を進めるという点です。短期の利益のみ追求すれば、土地の造成、水や電気などの基本インフラを用意して工場のためだけの土地販売をするのが一番有効です。逆にすべてのステークホルダーへの貢献を考慮すると、投資を伴う商業施設開発やサービス事業を担当する子会社の設立などが必要になり、それを実践しているのがアマタの事業開発になります。
現在、アマタグループとして、1,400社以上の企業様が入居され、開発済面積は約100km2 (1万ヘクタール)、35万人の方が働いています。今後は100万人が居住し、働ける立地として拡張を進める計画で、2040年までにLow Carbon Cityを実現し、さらに今後の目標として開発面積700km2を掲げています。製造業の方々が安心して製造に注力できる場所の提供と、地域に根付いた社会貢献のできるプロジェクトの開発が私たちのビジョンであり、取り組んでいることです。
CM Plus: ありがとうございます。ではまず、タイ投資委員会(BOI)とタイ工業団地公社 (IEAT)の役割について教えていただけますか。
アマタさん:IEATはIndustrial Estate Authority of Thailandの頭文字をとっていまして、工業省傘下の組織です。BOIは文字通り投資を誘致促進する機関です。ベトナムのように省ごとに誘致活動するのではなく、オールタイランドとして外資企業を呼び込んでいるのがタイのやり方です。BOIは政府機関にも関わらず、サービスマインドが非常に高いのが特徴で、誘致の要となる優遇制度の方針を打ち出し、インセンティブを発行するのがBOIの大きな役割です。
一方、IEATの役割は工業団地の取りまとめです。タイにはIndustrial EstateとIndustrial Parkがありますが、Industrial EstateはIEAT傘下でないと名乗ることができません。IEAT傘下の工業団地に入居する企業に対し、土地利用許可、建築許可、操業許可をワンストップで発行しています。また、大規模な工業団地にはIEATの独自の事務所があります。アマタのチョンブリ県、ラヨン県の団地にも、アマタの事務所と同じビルにIEATの事務所があり、各種ライセンスを与える権限をもっていますので、手続きは非常に効率的です。
ベトナムとの違いですが、ベトナムの場合、外資が進出するには、まずプロジェクトに対して許可をとり、その後で企業登録が可能となりますが、タイの場合、法人設立とプロジェクトの申請は別のプロセスです。法の下企業登録をし、そして製造業でIEAT傘下の工業団地に入居するのであれば、IEATに土地使用許可を申請する流れです。つまり、進出場所、投資規模、投資スケジュール等が決まっていないと企業設立できないのがベトナムですが、タイの場合、会社設立は実際の事業申請とは関係なく実施可能です。
CM Plus:次に、インセンティブの申請について教えてください。
アマタさん:IEATに対する申請とは別の時間軸として、BOIに申請します。事業操業する前であれば、いつでも申請可能です。タイのインセンティブは非常に細分化されていますが、基本は立地によるのではなく、事業内容によるというものです。奨励事業リストがあり、そこに含まれる事業であればBOIからインセンティブが与えられます。インセンティブはAカテゴリーとBカテゴリーに分かれていて、Aカテゴリーだと法人税免税、減税も含まれますが、Bカテゴリーの場合含まれず、一般的なインセンティブ、たとえば、労働許可証が優先的に発行される、土地所有権がBOIから得られる、外貨送金の緩和、また、輸出のための製造の場合、原材料の輸入税を最初から払う必要がない、などの恩典を受けることができます。Aカテゴリーの中でも、A-1, A-2, A-3などクラスが分かれていて、それぞれ恩典内容が違ってきます。今年、BOIがインセンティブを刷新しました。新制度では地域統括本社をタイに構える、R&Dへ投資する、人材教育に投資する、または、既存事業の拡張プロジェクトにも新たなインセンティブが与えられるなど、様々な優遇内容が追加されました。タイも以前は僻地になるほど高いインセンティブが用意されていましたが、現在は場所にはまったく関係なく事業内容により判断されます。
CM Plus:かなり細分化されているので、投資家さんは、どんなインセンティブが受けられるのか自分では分からないと思うのですが、BOIで1社1社対応しているのか、あるいは工業団地でサポートされるのですか?
アマタさん:BOIは主要都市に支店を構えていて、日本にも東京、大阪に拠点があり、進出計画されている企業さんの対応をしています。タイのBOI本部の担当者の紹介、ビジネス内容によるインセンティブのマッチングもしてくれます。基本的にサービスマインドのある担当者がお客様待遇をしてくれるのがBOIです。このようなホスピタリティの精神はタイの文化に根付いたものだと思いますし、だからこそこれだけ多くの外資企業が集積されているのでしょう。
CM Plus:インセンティブを受けるには、どれくらい時間がかかりますか?
アマタさん:事業規模によって、40日から90日(営業日)が認可にかかる期間です。ただし、申請書類の準備や承認後の手続きなどを考慮して、余裕を持って申請することをお勧めします。BOIのウェブサイトに日本語で情報が細かく出ていますので、容易に情報を得ることが可能です。一度アクセスしてみてください。
CM Plus:インセンティブを申請するタイミングは、現地法人設立してからになりますか?
アマタさん:現地法人を設立する前でも申請可能です。ただし、基本的に奨励証書を発行する段階では現地法人が設立している必要がありますので、同時進行で手続きを進めておくことが重要です。また、インセンティブを受けたまま、いつまでも現地で事業を立ち上げないということは許されないので、有効期限はあります。
CM Plus:環境影響評価報告書、いわゆるEIAに関してはタイではどうなっていますか?
アマタさん:タイではすべての製造業がEIAを取得するのではなく、EIAを実施する必要があるかどうかは該当リストがありますので、それに準じます。IEAT傘下の工業団地の場合ですが、土地利用許可の申請の際に、生産品目や事業規模、生産プロセス情報を出しますので、その際にEIA対象業種かどうかの確認もされます。もし該当するのであれば、あらかじめEIAを取得してからIEATに土地使用許可申請をすることになります。半年から10か月とかかることもありますので、事前に確認が必要です。
CM Plus:土地の所有は工業用地に対して適用されますか?
アマタさん:IEAT傘下の工業団地に入居した場合、事業内容に関わらずIEATから土地所有許可をもらえます。IEAT傘下でない場合は、製造業の場合BOIの恩典として土地所有権をとることになります。アマタの場合、土地利用許可書、土地所有権利書も、アマタが窓口になりワンストップでサポートしています。
CM Plus:土地を所有するのではなくリース契約することも可能ですか?
アマタさん:30年リース契約を提示することもできますが、固定資産をできるだけ持ちたくない企業さんの場合は、リースではなく、レンタル工場あるいはBuilt to Suit (注文式建築長期レンタル)を選択されますね。土地所有のメリットは、使用期限付きのリースと違い、たとえば70年後でも土地の価値が下がらず、むしろ上がることが期待されることです。
CM Plus:工業団地の開発は地方にも分散して進んでいるのでしょうか。
アマタさん:一般的にタイでは立地のよいエリアに集中しています。先ほど説明したように、オールタイランドとしてBOIが誘致し、国が主体となり生産性ある産業インフラの整備、工業団地の開発や、港湾、道路のインフラなどを行っていますので、必然的にそういったエリアに投資が集中します。各省ごとに投資を呼び込み、インフラ事業を推進しようとしているベトナムとの違いですね。省ごとに競争して、プロアクティブに様々な誘致活動を行っているのは、質の向上にもつながり良い点だと思います。基本的に北部、中部、南部と市場が分かれていますが、広範囲に事業誘致ができているのも強みだと思います。ただ、認可は下りているが稼働していない工業団地や、開発の進まない港湾事業計画も多々見受けられます。双方、良し悪しがありますね。
CM Plus:最後にベトナムと比較して、タイへ進出する場合の特徴を教えてください。
アマタさん:ベトナムには、製造業にとっての魅力がいろいろあると思います。まず、1億超えも間近だとされる人口と、その労働力。20年、30年スパンで考えた場合、自国民で労働力を確保できることは大きなメリットです。また、電力不足など問題はありますが、水も含めて、ユーティリティ価格がまだまだ安い。さらに、港や道路の整備も各段に進んでいます。このように、製造業にとって、投資環境のバランスが良いのがベトナムで、魅力的なはずです。また、ハイテクからローテクまで幅広く取り込めるのもベトナムの強みです。
一方、タイの場合は、すでに労働集約型の投資先ではないといえます。その代わり、ベトナムには無い、自動車をはじめとするサプライチェーンが圧倒的に整っています。そのお陰でコストダウンできるということは、ベトナムが敵わない点です。また、物流に関する競争力もタイが勝っています。タイでは、どんな田舎にもすぐそこにコンビニがあります。それだけ、冷蔵冷凍車の普及ふくめ、物流網が完備されているということです。
現在香港やシンガポールではなく、タイに地域本社を置く企業さんが、どんどん増えています。そこに製造拠点を置くメリットはあると思います。
それぞれに特色がありますので、その違いを理解した上で、自社のプロジェクトに適した国を選ぶことが大切です。
CM Plus: ありがとうございました。
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