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プロジェクトマネージメント基礎知識-VOL.4

プロジェクトマネージメント基礎知識-VOL.4

第2章 PJ計画(PJの仕組み作り)

 

1. プロジェクトの期間

1章で紹介した通り、プロジェクトは「一連の調整され管理された、開始日と終了日のある活動からなり、時間、コストおよび経営資源の制約を含む特定の要求事項に適合する目標を達成するために実施される特有のプロセス」と定義されている。一口に医薬品工場の建設プロジェクトと言っても、それを担当する人の立場によって、開始日も終了日も異なる。

建設会社やエンジニアリング会社の担当者であれば、例えば施主から ITB (Invitation to Bid:入札要請 ) を受領した日が開始日となり、設計・建設を経て、所定の検査に合格し、契約に基づき引渡しできた日が終了日となる。施主にとっての建設プロジェクトは、要求仕様書作成から 製造開始、製造能力・製品品質検証までが対象となる。

なお、建設工事に充てられる時間、着工の投資判断時期は、安定製造開始目標時期を基点として、クリティカルパスから逆算し、経営からの要求事項としてマスター・スケジュールに組み込まれる。

2.プロジェクト遂行基本方針

いつから新工場で生産できるのか、いつ頃、いくらの資金が必要になるのか、社内のリソースがいつ、どれぐらい必要になるのか。

大型プロジェクト建設は、多大な投資が必要であり、会社の経営にも直結する重要な活動である。 その意味で、プロジェクトを「見える化」し、正確な情報をタイムリーにできるだけ分かり易く経営者を含めた社内外の関係者に伝えることは、プロジェクトマネージャー ( プロジェクトリーダーとも呼ばれるが、本稿ではプロジェクトマネージャーと表記する ) の重大な責務と言える。

「見える化」を進めるために、プロジェクトマネージャーがまず作成しなければならないものが、プロジェクト遂行基本方針である。プロジェクト遂行基本方針とは、プロジェクトマネージャーがどのようにプロジェクトを遂行したいのかを簡潔にまとめ、プロジェクトメンバーや社内外の関係者に示すシナリオである。プロジェクトマネージャーの思い ( 方針 ) が明確に示され、それがプロジェクトメンバーに共有され、チームとして一丸となって進めるようなシナリオでなくてはならない。

プロジェクト遂行基本方針の書き方に特に決まりはないが、最低限下記の項目を含めておく。

① プロジェクト概要
② プロジェクトの目的
③ Commissioning方針
④ プロジェクト遂行組織

a. 外部委託計画 ( 調達方針・契約方針 )
b. 社内組織
c. 役務分担 d. 動員計画

⑤ プロジェクトの運営方法

a. コミュニケーション要領
b. リポーティング要領
c. 会議運営要領
d. 図書管理要領
e. 変更管理要領
f. スケジュール管理要領 ( プログレス管理要領 )
g. リスク管理要領
h. 予算管理要領 i. 承認権限

3. プロジェクト遂行組織

プロジェクト遂行基本方針を立案する上で、最も重要なものがプロジェクト遂行組織であり、プロジェクトマネージャー自身がリーダーシップを発揮し、細心の注意を払い、設計すべきものである。プロジェクトの成否はこの過程に依存すると言っても過言ではない。

3.1 外部委託計画
プロジェクトマネージャーがプロジェクト遂行組織を立案する上で最初に考えなければならないことは、業務をどのように振り分けるか、必要なリソースをどこから集めるかと言う課題である。自社にエンジニアリング部門があり、各分野の専門家が潤沢にそろっているのであれば、プロジェクト業務を外部委託する必要はなく、全て自社で行うことが合理的である。しかしながら、全ての会社が自社で十分なエンジニアを保有できるわけではなく、少数の精鋭が外部のリソースに業務の一部を委託し、プロジェクトを遂行していかざるを得ない現状がある。

プロジェクトマネージャーは自社でできる業務、あるいは自社でしなければならない業務と外部委託する業務を切り分け、組織を設計していかなければならない。

「今回のプロジェクトは、会社にとって十数年ぶりのプロジェクトであり、自社に建設プロジェクトの経験者がほとんど残っていない。よって、ユーザー要求仕様・設計・施工・コミッショニングも含めて、建設会社又はエンジニアリング会社等に一括発注したい。」

これも一つの答えである。しかしながら、プロジェクトマネージャーは悩むであろう。この方式で、コストを抑えることはできるのだろうか、生産設備メーカーにこちらの要望が正確に伝わるのであろうか、そもそも自社の 仕様書 の取りまとめを外部委託できるのであろうか、これらに対する単純な答えは無い。プロジェクトの場面々々で、要所々々を押えて実行できるか否かによって、答えは YES にもNO にもなり得る。物事にはメリットとデメリットがあり、重要なことはそのどちらも把握して、コントロールしていくことである。

これらは、プロジェクトマネージャーの経験と洞察力が試されるところである。
なお、発注形態・契約形態の詳細については、関連記事として「建設における CM 方式 1)」を本章の末尾に掲載しているので、参照いただきたい。

3.2 社内組織
外部委託に関する方針と合わせて、考えていかなければならないものが社内組織である。むしろ社内組織の現状に合わせて、外部委託計画を考えると言った方が正しいかもしれない。いずれにせよ、両者を合わせてプロジェクト業務が隙間なく埋まるように組織を設計することが重要となる。

ここで一般の組織と PJ 組織の違いについて説明しておく。
下図は機能別組織の例で、工場長の下に QA 部、製造部、QC 部、工務部、総務部、等がある一般的な組織と理解いただきたい。この組織は通常の工場運営のために設計された組織であり、建設プロジェクトの様な一過的な活動を行うためには、責任の所在が不明確になり適していない。

そこでプロジェクトマネージャーの下、必要な担当者を専任しプロジェクトチームを結成する。これが図2のプロジェクト組織であり、大型のプロジェクトが複数進んでいる様な場合には効率的であるが、製造業でそのようなケースは稀である。

機能別組織を生かしながら、プロジェクトマネージャーを選任し、一定の権限を与え、プロジェクトチームを組織するために考えられたのが、図3のマトリクス組織である。
マトリクス組織の場合、各担当者は自分の出身の機能別組織とプロジェクトチームの兼任となる。

プロジェクト組織かマトリクス組織のどちらの組織を採用するにしても、プロジェクト遂行に関する強い権限をプロジェクトマネージャーに与えることが重要となる。

さて、具体的な組織設計に話をもどそう。経験のあるプロジェクトマネージャーであれば、外部委託計画を検討する中で、自分の作りたい社内組織のイメージが頭の中にできあがっているはずである。既にほしい人材の名前もリストアップされているかもしれない。このイメージを形にしたものがプロジェクト組織表である。図4は医薬品製造工場プロジェクト型の組織表であり、プロジェクトチーム内の指示命令系統が明確に示されている。プロジェクトは問題解決の連続であり、即断即決の対応を求められる場面が多い。そのためには下図の様に指示命令系統のはっきりした組織の方が適している。

3.3 役務分担
組織の形を設計した後、プロジェクトマネージャーはメンバーにどのように業務を割り振れば、最も効率的な組織運営ができるか頭を悩ますだろう。プロジェクトと言う限定された目的ために集められた一過的な組織を効率的に運営するためには、漏れがなく、また重複がなく業務を分割し担当を割り振ることが必要となる。ここでも「見える化」が重要であり、プロジェクトマネージャーが利用するツールが役務分担表である。

役務分担表の形式は様々であるが、縦軸に業務内容を、横軸に担当者名を並べ、マトリクスにしたものが一般的に使われている。この場合、各々のセルに主担当、副担当等の役割を入れ、業務内容毎の責任を定義する。例えば、コントラクターが海外子会社を含めた国際的な組織を組む場合は、1章で紹介した WBS (Work Breakdown Structure:作業階層構造 ) を何百何千にも分割し、一つ一つの作業に担当をあてはめていく。言葉も文化も環境も違う相手と組織を組む場合にはここまで明確に定義する必要がある。

日本国内の建設プロジェクトにおいては、後述する参考例の様に担当者がイメージできる程度に業務内容に分割できれば十分である。使って見て不都合があれば、もう少し細分化する等工夫していけば良い。業務内容は、製剤機器、包装機器、建築、設備等、専門分野毎に分割する場合もあるし、スケジュール管理、予算管理、通信窓口等のタスク別に分割する場合もある。あるいは、縦軸に設計図書名、横軸に担当者を列記し、各セルに作成、検討、承認等の役割を入れれば、設計図書作成に関する責任が明確になる。

下表は、業務内容として、専門分野とタスクを併用した役務分担表の簡単な参考例である。プロジェクトの進行に従って、タスクが変更になったり、担当者が増減したりするため、この表は常にメンテナンスし、プロジェクトメンバーに周知しておく必要がある。
また、タスクやプロジェクトメンバーに変更が無い場合でも、プロジェクトマネージャーは常に PDCA サイクルを回し、役務分担の最適化を行っていかなければならない。なぜなら、集められたメンバーの能力は一様ではなく、得手も不得手もある。メンバーの出身部門だけに拘り、単純に業務を割り振るのではなく、メンバーひとりひとりの長所を最大限に生かせる様に、時には役務分担の形を変え、チームとして最大限の力を引き出すことがプロジェクトマネージャーの腕の見せ所である。

次回「4.マスタースケジュール」へ続く。

 

シーエムプラス海外情報発信HP事務局


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