トピック

プロジェクトマネージメント基礎知識-VOL.5

プロジェクトマネージメント基礎知識-VOL.5

4. マスター・スケジュール

プロジェクトを「見える化」するために、有効なツールのひとつがマスター・スケジュールである。ユーザーである製造部門から UR をヒアリングし、施設を建設し、一連の C&Q (コミッショニング&クオリフィケーション)を行い、製造部門に引き渡すまで何をしなければならないか、一つ一つ行うべきことを書きだし、順序付けし、それに期間を当てはめていく。マスター・スケジュールはプロジェクトを成功させるためのロードマップであり、ロジックである。
マスター・スケジュールの書き方に決まりはないが、最低限以下の項目に対し、プロジェクトマネージャーの遂行方針が明確になっていることが重要である。

① 経営者からの要求事項
② クオリフィケーション項目及び期間 ( クオリフィケーション遂行方針 )
③ 契約形態・発注区分 (PJ 組織 )
④ 重要な社内続き ( 経営判断等 )
⑤ 主要機器毎の納期 ( 特に長納期品 )
⑥ 施設の規模に基づく設計期間・工事期間
⑦ 官庁申請スケジュール ( 事前協議含む )
⑧ 開発機器のスケジュール ( 必要であれば )
⑨ クリティカルパス

図5はプロジェクト初期に作成するマスター・スケジュールの参考例 (50 億円規模の製剤工場を想定 ) である。
FS (Feasibility Study:企業化調査 ) が終了し、社内でプロジェクトチームが組織されたこの時期にわかっている情報は、生産量、主要機器構成、既設から想定した床面積等、非常に限られていると考えられる。
この少ない情報から、プロジェクトマネージャーが最初に作成できるスケジュールはこの様に非常に粗いものとなる。(一般産業分野ではクオリフィケーション以下の項目は関係なし)

しかしながら、この簡単なスケジュールの中にも、プロジェクトマネージャーがどの様な方針でプロジェクトを運営するかの以下の様なメッセージが詰まっているはずである。
マスター・スケジュールと対になるプロジェクト基本方針の中には運営方針が文書化され、プロジェクトメンバーと社内外の関係者に共有されている必要がある。以下に例を示す。

<スケジュール戦略 (医薬品工場の例、一般産業では⑥以降を参照されたい ) >
① PIC/S Annex15 の施行及び ISPE VOL 5 C&Q 2nd edition の発行に伴い、URB/URS を充実しリスクアセスメントの手法を活用したクオリフィケーションを行う。社内でも初めての試みとなるため、具体的方法についての検討期間を確保し社内の関連部門と調整するが、初版として『Lean Qualification Approach』2) を参考とした。
② 基本設計終了時にはDR (Design Review) を行い、GMP 適合、URB/URS とのトレサビリティーを確認する。
③ 主要機器のうち、 XX は海外調達となることから 18 か月の納期を想定する。また、実施設計で正確な機器情報を盛り込めるよう、投資判断後 2 か月以内に発注する。
④ 実施設計期間・工事期間は既設 XX 棟の実績を参考に各々 8 か月、15 か月とする。

⑤ プロジェクトのスケジュールに影響を与えるような開発機器はないが、新クオリフィケーションの手法等の不確定要素もあるため、現時点では 3 か月の余裕を持っておく。

<プロジェクト遂行方針>
⑥ 基本計画・基本設計は必要に応じてコンサル会社等の協力を得て自社のエンジニアリング部門で実施する。基本設計は、入札時の振れ幅を少なくするため、主要機器仕様・取合いを把握でき、工事量が拾えることを目的とし、詳細には展開しない。
⑦ 主要機器は、既設との連続性、仕様決定の透明性を重視し、直接発注を行う。

⑧ 建屋工事は建築・設備一括とし、ゼネコン数社に声をかけ、入札を行う。建屋工事には、実施設計・官庁申請を含む。

<官庁申請・社内手続き等>
⑨ 官庁申請に関しては、クリティカルパスとして建築確認申請期間 2 か月を考慮する。開発申請・諸官庁との事前協議は設計期間に完了しておく。(国によって事情は異なる。)
⑩ 基本計画完了時に、建設規模・概算投資金額を経営者に報告し、基本設計への移行承認を得る。

⑪ 基本設計完了後、建設計画、主要機器・工事会社の選定も含め、投資金額を経営者に報告し、建設工事への移行承認を得る。

一見、簡単に見えてもマスター・スケジュールはプロジェクトの遂行基本方針そのものであり、社内組織、発注形態、社内手続き等と密接に関連し、ひとつひとつ社内の関連部門の合意を得て作成していくことが必要になる。昨今では、PIC/S Annex15 の施行及び ISPE VOL 5 C&Q 2nd edition の発行に伴い、C&Q 遂行方針をマスター・スケジュールに盛り込むことも重要な課題となる。マスター・スケジュールはプロジェクトの進行に合わせ精度を高め、基本設計の完了時点では、基本設計の内容に基づき完成しておきたい。

次回「5.動員計画」へ続く。

 

シーエムプラス海外情報発信HP事務局


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