トピック

プロジェクトマネージメント基礎知識-VOL.6

プロジェクトマネージメント基礎知識-VOL.6

5. 動員計画

マスター・スケジュールとプロジェクトメンバーの役務分担が決まれば、そのメンバーがいつからいつまで必要なのか、社内の関連部門と調整することになる。その時に役に立つものが、マスター・スケジュール、役務分担表、動員計画の三点セットである。
図6は、マスター・スケジュールを基に作成した一般的な動員計画表である。表中の数字は、その月において専任であれば 1FTE (Full-Time Equivalent)、半分の仕事量であれば 0.5FTE と表現した。0.5FTE で配員されたメンバーは、残りの 0.5FTE は、機能別組織下の仕事を行うことになる。(注:クオリフィケーション作業以後は一般産業ではほぼ関係しない。)

6. プロジェクトの運営方法

「あの時こう言ったはずだ。」、「いや私は聞いていない。」

社内でも対社外でもこの様な会話が聞こえてくるようなら、そのプロジェクトはうまく行っているとは言えない。プロジェクトに関わる重要事項はあらかじめ決められた手順で協議され決定されなければならない。これは関係者の自由な意見交換や議論を制限することではない。プロジェクト遂行基本方針の中には、あるいは別図書としてでも、プロジェクト運営に関わる基本的なルールは文書化しておくべきである。

ルール化すべき項目としては、2.2 プロジェクト基本方針でも触れたように以下を含めると良い。できれば、この運用に使用するブランクフォームをプロジェクト遂行基本方針に添付しておくことが望ましい。

a. コミュニケーション要領
公式に残すべきと考える社内外の通信連絡に関しては、電話、Email 等の媒体に関わらず、使い方のルールが必要となる。大事なことは、後で誰もがわかる形で文書化され、ファイリングされていることである。電話連絡は基本的に後に残らないため、重要事項は「電話連絡確認書」等で文書化しておく運用も必要となる。
なお、社外に出す公式文書は必ずプロジェクトマネージャーの承認を得て、プロジェクトマネージャー名で発行する事をお勧めしたい。
コレポンシステム等の IT ツールを利用すれば、全てのコレポンはサーバーに保管され、社内回覧、閲覧、検索に加えて、承認作業の管理が可能となる。

b. リポーティング要領

プロジェクトの「見える化」の手法を用い、スケジュール進捗状況、予算管理状況など、極力、図表などを用いて誰にでもわかり易い形にすることが重要である。プロジェクト遂行基本方針には報告の頻度、提出先、報告会の有無等を記載し、関係者の合意を得ておく。

c. 会議運営要領

会議には、月例・週例等、定期的に開催される定例会議と議題に応じて召集される不定期会議がある。定例会議は、出席者、主要議題 ( アジェンダ )、開催予定日時 ( 毎週金曜日 15:00 ~ 17:00 等 ) をあらかじめ決めておけば、出席予定者のスケジュール調整で苦労することはない。また、定例でも不定期でも、社内会議でも社外会議でも、議事録が重要なことは言うまでもない。時には議事録を作らないフリーディスカッションもあるかもしれないが、原則としては議事録を作成し、出席者のレビューを得て、公式文書として残しておく必要がある。議事録の書き方、レビュー方法についても、しっかりとルール化しておく。

d. 図書管理要領

プロジェクトメンバーが多大な苦労してプロジェクトに関わる書類を文書化してもそれが使いやすい形で保管・管理されていなければ、無用の長物となってしまう。分厚いファイルに保管されていることは分かっているが、ファイリングのルールがなく、探すのに手間がかかり諦めてしまった、最新の改訂番号ではない図面で施工をして工事のやり直しをした、等の経験をお持ちの方もいるのではないだろうか。昨今では、電子ファイルで保存しているが、個人のパソコンのフォルダーの奥深くに保存され、探すことが困難なケースもあるかもしれない。 そこで重要なのは、図書の付番要領、管理台帳の形式、電子でも紙でもファイリング要領である。昨今の IT 技術を利用すれば、システム上で図書フォルダーを構築してキーワード検索も可能となり、業務効率アップにつながる。プロジェクトは次から次へとやってくる情報との戦いである。

e. 変更管理要領

プロジェクトには変更がつきものである。変更自体はいたしかたがないが、問題はそのタイミングである。プロジェクトマネージャーは変更の内容を把握し、その影響を正確に見極め、対策を立案しなければならない。特にスケジュール、コストに変更がある場合には、社内のルールに従い承認を得る必要があるだろうし、変更内容によっては、クオリフィケーション上の手続きも必要になる。いずれの場合も重要なことは、プロジェクトマネージャーは変更を事前に把握し、実施の可否を判断することである。変更を知った時には既に実施済で追加コストを払わなければならない様な状況は避けたい。そのためには、変更に関するワークフローを確立し、社内外の関係者に徹底しなければならない。プロジェクト遂行基本方針の中で、是非強調してきたい項目である。

f. スケジュール管理要領 ( プログレス管理要領 )

スケジュール管理の第一歩は、長い道程の中で、今自分がどこを走っているのかを正確に把握することである。基本設計完了、実施設計完了、着工等のマイルストーンを設定し、その達成を管理することも一つの方法であるが、通常これだけでは十分でなく、直前になってマイルストーンを達成できないことが判明する事態が起こり得る。これを回避するためには、各マイルストーン間においても、自分の置かれている状況を理解し、適切なアクションを遅滞なく取ることが必要となる。その助けになる手法がプログレス管理であり、誰もが理解できる形に達成度合を「見える化」することである。具体的には、設計、調達、建設、クオリフィケーションの各アクティビティーに適切なプログレスの測定方法を設定し、その達成度合を数値化し、計画に対する実績を評価する手法である。この数値を基にプログレスカーブを作成し、計画と実績の比較を行えば、プロジェクトの達成状況の把握が容易になる。
このプログレスカーブはマンスリーで更新し、マンスリーレポートに組み込むことをお勧めしたい。

g. リスク管理要領

プロジェクト遂行方針を立案する中で、リスクアイテムをリストアップし、その緩和策を検討し、最終的に保有することに決定したリスクアイテムについて、リスク管理要領を策定する必要がある。具体的には個別のリスクに対して、想定される時期、発生した場合の影響度、対策を、マンスリーレベルで評価し、必要に応じて見直して行く作業になる。この評価結果は、マンスリーレポートにも組み込まれ、プロジェクト関係者全員で共有する必要がある。経営者にとっても、有益なレポートとなるはずである。 8.「プロジェクトのリスク管理」に詳述する。

h. 予算管理要領

いくらすばらしい施設ができたとしても、いくら短納期で仕上げたとしても、予算オバーであればそのプロジェクトは成功したとは言えない。1章で説明した通りプロジェクトの目的は QCD の全てを達成することであり、その一つも欠けてはいけない。C (Cost) を効果的に使いながら、Q (Quality) と D (Delivery) をバランスよく達成することが求められる。 プロジェクトマネージャーは、WBS や発注単位等の項目毎に、予算に対して、発生したコスト、完成までに発生すると考えられるコスト、アローワンスを明確し、管理していく必要がある。予算とコストを対比し、完成時点でのコストが予測できるような管理表を作成しておくことをお勧めしたい。管理方法の詳細については、参考記事の「建設における CM 方式:5.2 コストならびにスケジュール進捗管理」を参照いただきたい。

i. 承認権限

GEP (Good Engineering Practice) を正しく実践する上で、図書の承認体系が極めて重要となる。GEP をどのように進めるかは、各社各様の考え方があるはずであるが、少なくとも図書の承認権限に関するルールを文書化し、その通り実行することが不可欠となる。文書化の方法としては、3.3役務分担で紹介した様に、図書の種別と担当者 ( 担当部門 ) のマトリクスを作成し、作成、検討、照査、承認等の役割を当てはめれば良い。なお、設備・施設のクオリフィケーションにおいて、GEP を GMP の土台と考える場合には、GEP 図書においても承認作業は PIC/S GMP Guide Annex15 1.2 にもある通り、「適切に訓練された従業員」によってなされるべきである。つまり、承認、照査等の役割別に、必要な社内、社外の資格・訓練記録等も規定しておくことが望ましい。その際、教育訓練のアウトソーシングも有効な選択肢となるであろう。各極 GMP 規制にはコンサルタントに関する条項 (EU-GMP Part I の 2.23、PIC/S GMP Part II の 3.3、米国 21CFR 211.34) があり、自社の教育訓練に外部サービスを利用することは、決して特殊なことではない。

 

次回「7.キックオフミーティング」に続く

 

シーエムプラス海外情報発信HP事務局


これらの記事、写真、図表などの無断転載を禁じます。
Copyright © 2024 海外情報発信HP事務局 / CM Plus Corporation