トピック

プロジェクトマネージメント基礎知識-VOL.7

プロジェクトマネージメント基礎知識-VOL.7

7. キックオフミーティング

プロジェクトマネージャーが、プロジェクトのシナリオ及びメンバーを社内関係者にお披露目する機会がキックオフミーティングである。プロジェクトメンバーはもとより、自身の上司、機能組織の部門長、場合によっては経営者の出席もあるであろう。

この時に説明する資料が、プロジェクト遂行基本方針やマスター・スケジュールである。徹底的に検討し、場合によっては必要な根回しを行い、出席者の賛同が得られるシナリオになっているだろうか、キックオッフミーティングはプロジェクトの開始を宣言する重要なイベントであり、紛糾しそうな議論は事前に終わらせ、スムーズに進められるように、プロジェクトマネージャーは努力すべきである。

この場で、出席者がプロジェクトのシナリオを理解し、協力関係が構築できれば、キックオフミーティングの目的は達成されたと考えて良いであろう。
参考までに、キックオフミーティングのアジェンダの例を以下に紹介する。

① プロジェクトメンバーの紹介 ( 各メンバーからのコミットメント )
② プロジェクト概要
③ プロジェクトの目的
④ プロジェクト遂行方針
⑤ プロジェクト組織
⑥ プロジェクト運営方法
⑦ マスター・スケジュール
⑧ リスクアイテムと緩和策
⑨ 質疑応答

8. プロジェクトのリスク管理

8.1 リスク管理とリスクマネー
プロジェクトには計画時に予見が困難な不確実性 ( リスク ) が内在しており、プロジェクトの進捗と共に顕在化して想定外の事象 ( クライシス ) を発生させる可能性がある。従い、リスクを特定して管理し顕在化させないことが、プロジェクト成功に向けての大きな要因である。欧米では、リスク管理(Risk Management)よりも損失予防(Loss prevention)と称されることが多い。これは、安全、環境を含めて殆どのリスクの顕在化がコスト損失に帰結される側面を持つことによる。

リスクは、自然災害、事故、賠償責任、設計ミス、設備の性能ならびに機能不全、輸送遅延、工事遅延などの「純粋リスク」および景気変動、物価上昇、代金未回収、倒産などの経済的、経営的そしてテロを含む社会的リスク、総称して「投機的リスク」に分類される。
純粋リスクについては、プロジェクト単位での管理が可能であり、計画時にリスクの洗い出しを行い、損失を回避、低減する対策を取る。

プロジェクトの遂行に於いては、基本計画または基本設計の完了後に、各技術分野の専門家
(SME: Subject Matter Expert) を招集して、ブレーンストーミングを行い、リスクを特定する。この時に、類似事例 ( 失敗事例、成功事例 ) を参考にすることが望ましい。その後に FMEA の手法を用いて、発生頻度、発生した場合の影響度について定性的に評価して、リスク分析表に取り纏めることが一般的である。
リスク分析表では発生頻度の多少、影響度の大小により、領域 ( リスクエリア ) を区分 ( リスクマトリックス ) して領域に応じた対処方法を策定する。対処方法は原則として保有、低減、回避、転嫁・移転の 4 種類に分類される。

  1. リスク保有
    リスクが、受け入れ可能な影響度であると判断された場合に、特に対策をとらず、その状態を受け入れる。
  2. リスク低減
    リスクの発生頻度を下げる、もしくはリスクが顕在した際の影響度を小とする。または、それら両方の対策をとる。
  3. リスク回避
    リスクを生じさせる要因そのものを取り除く。リスク破棄とも呼ばれる。
  4. リスク転嫁、移転
    リスクをプロジェクトの管理範囲外に「転嫁、移転」する行為で、リスク共有とも呼ばれる。最も典型的な対策は、設計・工事賠償保険の付保である。また、リスク低減、回避を目的として、専門家に業務をアウトソースする行為も該当する。プロジェクトの初期段階で、リスク保有、低減、回避について検討し、その結果をプロジェクトチームで共有してリスク転嫁、移転の必要性を議論しておくべきである。
    図7にリスク分析表 ( 基本設計完了時 )、図8にリスクマトリックスの具体例を示す。この例に於いては、リスク低減について頻度低減、影響度低減に分けて検討している。


図7 リスク分析表(例)


図8 リスクマトリックス(例)

なお、リスク分析結果に基づいて、対処方法の具体策を立案し、その効果を予測してリスクを再評価する一方、リスクモニタリングを継続し、PDCA サイクルを廻してリスク領域を下げて行くことが必要である。この一連の行為が、リスクを最小化するためのリスク管理である。
また、リスクの発生頻度 ( 確率 )、発生した場合の対策費用、損害予想額を可能な限り定量化して把握しておくことも必要であり、これをリスクマネーと呼ぶ。リスクマネーは、以下の 3 種類に分類される。

① コンティンジェンシー (contingency)
経験上で発生の可能性はあるが、定量化することが困難なリスクに備えるため、プロジェクト総額に一定の係数を乗じて算入しておく予備費
② アローワンス (allowance)
基本計画や基本設計時には、工事 BM/BQ( 注記 *1) などの見積数量の明確な把握が困難であるために、資材、工事の各項目に一定の係数を乗じて算入しておく予備費
③ エスカレーション (escalation)
市場要因による資材や労務費の高騰、一般物価水準の変動などに備え算入しておく予備費

 

リスクマネーをユーザー、コントラクターのどちらで見込んでおくかは契約内容に拠る。原則として、一括請負方式の Fixed Price ( 固定価格 ) ではコントラクター側、Cost Reimbursement ( 実費償還 ) ではユーザー側で計上しておくことになる。リスクの発生頻度やその影響度は、プロジェクトの進捗と供に収束して行く。従い、リスク分析表、リスクマネーについてはフェーズ毎に見直しをして、コスト管理に反映する必要がある。

8.2 各フェーズでのコスト及びリスクマネー見積手法
各フェーズでの設計の進捗度 ( 詳細の程度 ) により見積手法が異なる。

基本構想または基本計画フェーズでは、事業投資の採算性を評価することが目的であり、見積精度よりも時間が優先される。また、積算を行うための設計資料が充実していないことから、生産量や機器能力に対するコスト比率 (Index) により超概算を求めることになる。OME (Order of Magnitude Estimate) と呼ばれ、精度は± 30 ~ 50% と定義されている。

コスト比率については、生産能力と建設費の相関 ( コスト・キャパシティカーブ )、機器費と工事費の相関 (0.6 乗則 ( 注記 *2) などの指数法 ) を用いる。そのために、社内コスト相関データを充実しておく必要がある。このフェーズでのリスクマネーはコンティンジェンシー、アローワンス、エスカレーションを纏めて、OME の 8% ~ 15% にて設定することが一般的である。

基本設計フェーズではプロジェクト予算を確定 (Commitment) し、マネジメントの承認を得て、コントラクターに対して入札を行い、プロジェクトをキックオフすることが目的であり見積精度が必要となる。原則として、基本設計図書を基に積上げ積算を行うが、BM/BQが明確に算出出来ない場合が多く、建築外装・内装面積、鉄骨概算重量、開口比率、空調設備規模、生産機器エンジニアリング情報 ( 電気負荷、熱負荷、必要ユーティリティ量 ) 等のコスト関連情報とコスト比率 (Index) により概算を求める。PCE(Preliminary Cost Estimation) と呼ばれ、精度は ± 15 ~ 30% と定義される。概算の信頼性を向上させるために三点見積法 ( 注記 *3) を採用する場合もある。
このフェーズでのコンティンジェンシーは、リスク分析表を基に、発生頻度を確率 (P) として、影響度をインパクトコスト(I)として数値化し、その総和(=ΣP×I)を損失額予想値として求める。この予想値と PCE のバランスを考慮して、必要に応じてリスク分析の見直しを行う。アローワンスについては、過去の類似プロジェクトの実績から設定するが、一般的には 3% ~ 5% 以下に抑える。

エスカレーションについては、コントラクター側は管理範囲外の投機的リスクとして見積、契約事項範囲外とすることが常である。従い、ユーザー側としては工事材料 / 労務単価の変動並びに経済動向指数 ( 経済指標 ) の把握に努め、価格上昇の有無、程度を想定しておく必要がある。

図9に経済指標、図10に建築資材 ( 鉄骨 ) 単価の推移表 ( 当社資料 ) を示す。


図9 経済指標の推移 (2008.06~2020.05)


図10 建築資材(鉄骨)単価の推移(2008.06~2020.05)

なお、入札時には、PCE を基準価格として見積査定、評価の上、価格交渉を行う。発注後、コントラクターに対する発注価格と PCE に差異がある場合には、これをフィードバックしてプロジェクト実行予算を再設定して、以降のコスト管理のベースとする。
更に、詳細設計フェーズでは、国内に於いてはコントラクターが設計を実施し BM/BQ を算出して精算見積を行うケースが常である。コントラクター側の実行予算の確定、工事契約のための見積の提出が目的である。DCE(Definitive Cost Estimation) と呼ばれ、精度は± 5 ~ 15% と定義される。ユーザー側には、設計変更管理、追加見積査定、交渉、VE/CD (注記 *4) に於いてコントラクターをリードする力量が求められる。

注記 *1  BM: Bill of Material ( 材料集計表 )、BQ: Bill of Quantity ( 作業量集計表 )
注記 *2  同種の機器の容量、能力と建設費を対数表にプロットすると直線となり、その傾きが 0.6 で近似される。
注記 *3  O: 楽観値、N: 標準値、P: 悲観値として、見積値 =(O+4N+P)/6 として計算する。
注記 *4  VE: Value engineering, CD: Cost Down

次回「8.3 BCPとリスク管理(災害に強い設備を構築するために)」へ続く

 

シーエムプラス海外情報発信HP事務局


これらの記事、写真、図表などの無断転載を禁じます。
Copyright © 2024 海外情報発信HP事務局 / CM Plus Corporation