- 2024 . 07 . 26
- ホワイトペーパー
プロジェクトマネージメント基礎知識-VOL.9
<参考記事>
建設における CM 方式
建設プロジェクト管理の主な要素は、製造業と同じく Q(品質)、C(コスト)、D(納期)であるが、その多くはコストに帰結される。すなわちプロジェクト成功の可否は、精度の高い予算策定と綿密な予算管理に影響を受ける。本稿では、建設プロジェクトの一般的なフェーズと各フェーズにおける見積りの目的と手法、契約の種類と入札のプロセスについて、ユーザー側の立ち位置から概説した後、プロジェクト遂行における CM (Construction Management) サービスへのユーザーの期待とその効果について述べる。さらに、プロジェクトを成功に導くマネジメント手法について、遂行計画の重要性、進捗モニタリングの可視化、リスクのコスト化(リスクマネー)について紹介する。
キーワード:EPC(Engineering, Procurement, Construction), ランプサム, 実費償還, 最高限度額保証(GMP), ピュア CM, CM at Risk, EVM 法, コンティンジェンシー, アローワンス
1. 建設プロジェクトのフェーズと見積り
建設プロジェクトでは、計画・管理を効率的に実施するため、一般にプロジェクトを、投資調査(FS: Feasibility Study)、基本設計(FEED: Front End Engineering Design)、詳細設計 (E: Engineering) 、調達 (P: Procurement) 、施工 (C: Construction) 、試運転 (C: Commissioning) のフェーズ(段階)に分ける。医薬品、医療機器、化粧品、再生医療、食品、洗剤などのライフサイエンス関連工場建設の場合、各フェーズの標準的な期間は、図 1 に示すようになる。
図1 ライフサイエンス系建設プロジェクト標準工程
以下に、各フェーズの概要を述べる。
1.1 投資調査フェーズ(基本計画)
生産プロセス、年間生産量を基に施設規模、施設の概略レイアウト、必要ユーティリティなどの概念設計を行う。新設または既設改修のケースを加味して複数案の検討を行い、投資額(CAPEX: Capital Expenditure)と運用費(OPEX: Operating Expenditure) を見積り、事業の投資採算性を評価して、プロジェクトの実現可能性可否の判断を行う。
1.2 基本設計フェーズ
概念設計に基づき、生産プロセス、必要設備とそのレイアウト計画、建築計画、空調/ユーティリティ計画、電気計画、プロジェクト工程計画などを確定し、プロジェクト要件を定
義する。そしてプロジェクト予算を見積り、プロジェクト遂行の最終意思決定を行う。
この段階までの成果が、プロジェクト費用の 80%程度に影響するといわれているとおり[1]、基本設計は、プロジェクト成功を左右する重要なフェーズである。なお、国内のライフサイエンス系プロジェクトにおいては、基本設計図書を引合い図書の一部として、ゼネコン、エンジニアリング会社などの EPC (Engineering, Procurement, Construction) コントラクターに対し、一括請負方式で競争入札を行うケースが多い。
1.3 詳細設計フェーズ
基本設計に基づき、調達ならびに施工が可能となる図面、仕様書を作成する。この段階で機器費、工事材料数(BM: Bill of Material)、労務工数(BQ: Bill of Quantity) の正確な見積りが可能となる。EPC コントラクターにより工事価格の精算見積が提示され、契約価格を確定するケースもある。なお、海外での工事入札は、BM/BQ が明確となる詳細設計図にて実施するケースが多い。
1.4 調達フェーズ
機器調達、工事発注を行う段階である。設計と施工を一貫責任で実施する「設計・施工一括請負(Design-built)」の EPC コントラクターを起用する場合、調達は 1.2 および 1.3 に述べたとおりとなる。一方、工事会社にユーザーが直接発注する場合は、BM/BQ の算出が可能となるレベルの詳細設計図書で引合い図書を構成し、入札をする必要がある。海外プロジェクトでは、このケースが多い。機器については、ユーザーが調達しコントラクターに支給するケース、コントラクターが調達するケース、あらかじめユーザーが調達してコントラクターに発注書を委譲するケースなど、契約によりまちまちである。
1.5 施工フェーズ
プロジェクト工程の半分以上の期間を要する段階であり、設計のとおりに工事が進められているかを確認する工事監理、工程・安全・品質・環境を管理する工事管理が実施される。この段階での追加・変更管理の巧拙が、プロジェクトを実行予算内で完成できるかに大きく影響を与える。
1.6 試運転フェーズ
施設の検収引渡しに向け、検査立ち上げを行う段階である。ユーザーとコントラクターの所掌区分、検収条件は、あらかじめ契約に規定しておく必要がある。ライフサイエンス系プロジェクトでは、設備の運転時適格性評価(Operation Qualification) までをコントラクター側の所掌とすることが一般的であるが、石油、化学プラント系ではメカコン(Mechanical Completion:静的な機械的完成)とするケースが多い。定義はさまざまであるが、双方の想定外の出費を抑えるべく、スムーズな引渡しを可能とし、瑕疵担保責任などの保証が明確になるよう契約で詳細に取り決めておく。
2. 各フェーズでの見積りの目的と手法
各フェーズにおける見積りは、その目的と設計の進捗度(詳細の程度)に合わせ、異なる手法を用いる。
投資調査フェーズでは事業投資の採算性を評価することが目的であり、見積精度よりも時間が優先される。また見積りを行うための設計資料が充実していないことから、生産量や機器能力に対するコスト比率(Index)により超概算の値を求めることになる。これはOME(Order of Magnitude Estimate) と呼ばれ、精度は±30~50%と考えられている。
コスト比率としては、生産能力と建設費の相関(コスト・キャパシティカーブ)、機器費と工事費の相関(0.6 乗則などの指数法)を用いる。0.6 乗則とは、同種の機器の容量、能力と建設費を対数表にプロットした直線の傾きが 0.6 で近似されることに由来する。コス
ト比率を効果的に用いるには、社内コスト相関データを充実しておく必要がある。
基本設計フェーズは、プロジェクト予算を確定して、プロジェクトを開始することがその目的であり、プロジェクトの開始を決定できるだけの見積精度が必要となる。基本設計図書を基に、原則として積上げによる見積りを行うが、BM/BQ が明確に算出できない場合が多く、建築外装内装面積、鉄骨概算重量、開口比率、空調設備規模、生産機器エンジニアリング情報(電気負荷、熱負荷、必要ユーティリティ量)などのコスト関連情報とコスト比率により概算を求める。ここでの見積りは PCE (Preliminary Cost Estimation) と呼ばれ、その精度は±15~30%とされている。概算の信頼性を向上させるために 3 点見積法を採用する場合もある。なお、基本設計図書にて精度の高い見積りを実施するためには、過去プロジェクトの実績コストデータと分析の蓄積、工事材料/労務単価の変動、ならびに経済動向指数の把握を行い、社内コストデータに反映させておく仕組みが必要である。また入札時には、PCE を査定価格として見積評価を行い、コントラクターに対する発注価格との差異をプロジェクト実行予算策定にフィードバックし、以降のコスト管理のベースとする。
詳細設計フェーズでは、コントラクターが設計を実施し BM/BQ を算出して見積りを実施する。コントラクター側の実行予算の確定、最終契約のための精算見積の提出が目的である。これは DCE (Definitive Cost Estimation) と呼ばれ、精度は±5~15%とされている。その際ユーザー側には、設計変更管理、見積査定、交渉、VE/CD (VE: Value Engineering;
CD: Cost Down) においてコントラクターをリードすることが求められる。
次回「3. プロジェクト実施体制と契約方式、入札方法」へ続く
参考文献
これらの記事、写真、図表などの無断転載を禁じます。
Copyright © 2024 海外情報発信HP事務局 / CM Plus Corporation