トピック

プロジェクトマネージメント基礎知識-VOL.10

プロジェクトマネージメント基礎知識-VOL.10

3.プロジェクト実施体制と契約方式、入札方法

プロジェクトの実施体制、契約方法はプロジェクトの管理方針に大きく影響する事項である。以下では、その概要を説明する。

3.1 設計施工分離方式、一括方式
設計・施工分離方式とは、設計を設計会社に、施工を工事会社に分離して契約する方式である。さらに工事に対しても、建築工事、機械設備工事、電気工事、生産設備工事、配管工事のように分離して契約するケースもある。

これに対して一括方式とは、設計からすべての工事までを一括して契約する方式でありランプサム(LS: Lump Sum) 契約といわれる、さらに試運転まで実施してユーザーに引渡すケースは、LSTK (Lump Sum Turn Key) と呼ばれる。ユーザーは設備の運転キーを回すだけでよいとの意味合いがある。図 2 にプロジェクト実施体制と契約方式の概念図を示す。

ユーザーにとり、設計・施工分離方式のメリットは設計、各工事の内容、進捗状況、コストが明確になることである。一方デメリットは、設計と工事の一貫性が欠けることによるコスト増のリスクを伴うこと、各工事間の界面を調整する必要がありオーバーヘッドがかかることでユーザー側に負担が生じることである。

一方、一括方式は分離方式のデメリットをコントラクター側に負わせることが可能となるが、コントラクター側でリスクコストを計上することにより見積価格が高くなる傾向がある。また、コントラクターの協力会社選定までに口を挟めない、プロジェクト遂行のプロセスが詳細に報告されないなどのデメリットもある。


図2 プロジェクト実施体制と契約方式

3.2 契約価格の規定方式
契約価格には、固定価格(Fixed Price)、実費償還(Cost Reimbursement)、コストオン (Cost Plus Fee)などがある[2]。

固定価格は、契約業務に対して発注価格を定額で決定するものが主流であり、設計施工分離、一括方式の双方において、国内では一般的に採用される方式である。契約単価を固定して見積 BQ を工事完了時に検測(re-measure) して精算する方式も含まれる。

一方、実費償還は、契約業務の遂行に費やした実費を経費も含めてすべて請求する方式である。この場合、実費請求が青天井になることを回避するため最高額限度保証(GMP:
Guaranteed Maximum Price) を設定する。この方式は、欧米の契約で一般的である。

コストオンは、調達、工事などのコストを開示して(Open Book)、定率のフィーを上乗せする方式であり、国内では生産設備の調達プロセスをユーザー主導で進め、発注をコントラクターの契約に含める場合に採用される場合がある。

3.3 入札方法
入札は一般的に、1) 技術仕様、役務所掌範囲の決定、2) 調達工程(役務所掌に対応す
る工程)の決定、3) 予算の確認、引合い先の選定、4) 入札スケジュールの決定、5) 入札図書作成、6) 引合い、7) 見積りの入手、評価ならびに発注先選定、8) 交渉、そして、9) 発注、契約の流れからなる。その留意点は、以下のとおりである。

①大物機器の調達工程については、建設工程と十分摺り合わせのうえ、据付期日(CRD: Construction Required Date) から逆算して計画する。
②引合い先選定の際には、必要に応じて財務状況の確認を行う。
③入札図書は技術仕様書(ユーザー要求仕様書:URS: User Requirement Specification を含む)に加えて、納期、保険、保障、提出図書等の契約条件などを記載した調達仕様書にて構成する。図 3 に、入札図書の構成例を示す。
④見積りを入手後、必要に応じて引合い先に見積り、提案説明のためのプレゼンテーションを依頼する。また、見積内容に対する確認を十分に行い、見積りの評価を行う。評価結果については見積分析比較表にまとめ、コスト評価、技術評価の点数付けを行い、その後の交渉先候補を絞る。


図3 入札図書構成例

4. CM の機能

4.1 ユーザーのプロジェクト環境
近年、株主、投資家などのステークホルダーは、経営効率の改善ならびに向上を、取り組むべき最重要課題として企業に求めている。そのため、特にライフサイエンス業界においては、コアコンピタンスである研究開発、製造、品質保証/管理に経営資源を厚く配分し、工務部門の多くは規模を縮小した結果、工務部門のマンパワーが恒常的に不足する状況が生じている。

また、建設プロジェクトへの投資頻度(特に大型案件に対して)が相対的に低く、いざプロジェクトを実施する際にプロジェクト経験者の不足、技術情報、コスト情報の不足が否めない状況にある。一方、ステークホルダーに対しては、発注プロセス、発注価格の透明性、プロジェクト遂行に関わる意思決定に対する説明責任を担わなければならない。

4.2 CM の必要性、方式
前項で述べた状況を背景に、普遍的なプロジェクト遂行技術力ならびに高度な設計技術力、確実な施工管理力を保有する CM が、ユーザーの立場でプロジェクトの各フェーズにおいてサポートを行う業態が必要とされている。

CM の方式については、マネジメント業務のみを提供する「ピュア CM」、マネジメント業務に加えて施工のリスクを負う「CM at Risk」に大別される。前者は CM がプロジェクト遂行の管理を行い、ユーザーが責任主体となる。後者は、CM がユーザーと GMP(Guaranteed Maximum Price、最大限度保証額)を合意し工事会社と直接の契約を締結することになり、CM が実費償 還契約コントラクターとしての顔をもつことになる。これは、主に欧米で主流の方式である。

4.3 CM に期待される効果
ユーザーが業種を問わず、共通して CM にサポートを期待する業務を、以下にフェーズごとに列挙する。CM は、体系的、機能的、そして組織的にサービスを提供し、ユーザー満足を得ることが肝要である。
1) 投資調査フェーズ
①要求仕様の整理
②概念設計
③投資コスト、運用コストの算定
2) 基本設計フェーズ
①基本設計図書作成またはレビュー
②プロジェクト遂行方針ならびに方法の策定
③工事発注、機器調達方針の策定
④スケジュール、コスト管理方法の策定
3) 詳細設計、調達フェーズ
①3.3 項の入札方法で述べた発注ならびに契約までの業務
②コントラクターに対する詳細設計レビュー
③生産機器ベンダーに対する製作設計レビュー、製作工程ならびに品質管理
④工場検査の実施
⑤設計変更追加管理
⑥生産機器~建築および建築設備間の設計調整管理
⑦設計進捗測定と管理
4) 施工、試運転フェーズ
①工事計画の確認
②生産機器搬入計画の確認
③工事取合い調整
④安全管理、品質管理
⑤工程調整と管理
⑥工事進捗測定と管理
⑦変更追加管理
⑧試験、検査要領書の確認、検査立合い、記録確認
⑨残工事管理
⑩工事変更追加管理
5) 検収、引渡しフェーズ
①引渡要領(管理権移転、検収)の策定
②完成図書、取扱説明書、予備品リスト、アフターサービス網の取り纏め
③製造部門への引継ぎ(オペレータトレーニング)

 

プロジェクトの成功の可否は、最終的にはコストに帰結する。したがって、ユーザーが CM に特に期待をする点は、事業性に関わる意思決定のための見積りの正確性、基本設計図書ならびに入札図書の完成度、入札プロセスの健全性と透明性、見積評価の正当性、変 更管理の適切性、コスト管理の詳細性と正確性ならびに適時性、進捗管理を含めた報告の明確性と適時性である。

次回「5. CMの管理手法」へ続く

参考文献

[2] プロジェクト・マネジメント用語研究会編、『エンジニアリング プロジェクトマネジメント用語辞典』、重化学工業通信、1986.

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