トピック

プロジェクトマネージメント基礎知識-VOL.11

プロジェクトマネージメント基礎知識-VOL.11

5. CM の管理手法

5.1 プロジェクト遂行計画書
プロジェクト遂行とは、各々のフェーズのさまざまな場面で、計画に対する達成状況を正確に把握し、PDCA サイクルを回してタイムリーに軌道修正していく行為に他ならない。

そのために、プロジェクト立ち上げ時に、基準となる計画を詳細に策定し文書化しておく。この内容如何がプロジェクト成功の鍵を握っていると言っても過言ではなく、プロジェクト遂行要領書(以下、PEP: Project Execution Plan)と呼ばれる。

PEP は、ユーザー要求仕様書、契約内容などのプロジェクト遂行条件を基に役務所掌を特定したうえで、以下の手順で策定しプロジェクト関係者に周知する。PEP の構成を図 4 に示す。

① WBS (Work Break Structure) の階層に基づき、業務を実行可能な最小単位(WP: Work Package)に分解する。なお、WBS とは、プロジェクトの計画と管理を効果的に行うために、業務を階層上に細分化して構造化したもので、プロジェクトマネジメントの基本である。
② WP を実行するプロジェクトチームを組織する。
③ プロジェクトチームの役務区分ならびに役務区分間界面の調整方法を規定する。
④ WP の業務プロセスフローを確定し、これに期間とリソースを配分してスケジュールを策定する。
⑤ WP ごとの予算を確認し、プロジェクト全体の実行予算ならびに調達方針を策定する。
⑥ 以上を PEP の主内容として、これにプロジェクト内外のコミュニケーション方法(会議、リポーティングの内容、頻度を含む)、リスク分析の方法とタイミング、品質管理方針を加えて、PEP パッケージを作成する。
⑦ プロジェクトキックオフミーティングにて、プロジェクト関係者に説明を行い共有化する。


図4 プロジェクト遂行要領書(PEP)

5.2 コストならびにスケジュール進捗管理
計画に対する達成状況を正確に把握するためのプロジェクト進捗の評価方法の一つとして、スケジュールならびにコストを同一の測定基準で統合的に把握し可視化する EVM 法 (Earned Value Management:達成価値管理)[2~4] がある。図 5 にその測定概念を示 す。

ここで、BCWS(Budgeted Cost of Work Scheduled:計画予算)、BCWP(Budgeted Cost of Work Performed:達成価値(予算基準完成高))、ACWP(Actual Cost of Work Performed:実績高)、BAC(Budget At Completion:完成時予算)、EAC(Estimate At Completion:完成時予想高)が定義され[4]、これらはコスト管理上の一般用語となって いる。実施した作業の達成価値 BCWP と計画予算 BCWS を比較することにより、スケ ジュールの差異(SV: Schedule Variance) が把握され、実績高 ACWP と予算基準完成高達成価値 BCWP を比較することによりコストの差異(CV: Cost Variance) が把握される。これらの差異を是正するための対策を策定し実行することに加えて、完成までの予想コストカーブを想定して予想高 EAC を見積り、根本的な問題点を把握することにより、以降の プロジェクト遂行における重点管理項目についてプロアクティブに見直すことが可能となる。


図5 達成価値(Earned Value)による進捗評価表

6. 結言

CM は、発注プロセスの透明性、企画計画ならびにプロジェクト遂行に対する補完の点で、民間企業の建設プロジェクトだけでなく、公共工事にも採用されている。今後は災害復興、都市計画を含めて、ますます広く社会から求められることになるであろう。

プロジェクトは高品質な設備を工程どおりに完了させても、必要以上に多大な費用をかけたのでは成功とは認知されない。コスト見積りならびにコスト管理がプロジェクト遂行の KSF (Key Success Factor) となるゆえんである。また、コスト管理はリスク管理と表裏一体であることも事実である。

何ごとであれ、失敗する可能性のあるものは、何れ失敗する。(“Everything that can possibly go wrong will go wrong”) これは、有名なマーフィーの法則の一つであるが、CM には、常にリスクと向き合い、プロジェクトを成功に導くプロフェッショナリティを提供していく覚悟が必要である[6]。

参考文献

[1] B. S. Blanchard, Logistics Engineering and Management, Pearson Education, 2003.
[2] プロジェクト・マネジメント用語研究会編、『エンジニアリング プロジェクトマネジメント用語辞典』、重化学工業通信、1986.
[3] 公益社団法人日本技術士会登録技術図書刊行会編、『技術士ハンドブック 第 2 版』、オーム社、2014.
[4] クウォンティン・フレミング、ジョエル・コッペルマン、『アーンド・バリューによるプロジェクトマネジメント(第 2 版)』、日本能率協会マネジメントセンター、2004.
[5] 日本コンストラクション・マネジメント協会編、『CM ガイドブック 改訂版』、日本コンストラクション・マネジメント協会、2011.
[6] 藤岡徹夫、“建設における CM 方式”、オペレーションズ・リサーチ、vol.60 no7、pp.
392-397、2015

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