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ロジスティクス施設拡大の動向と背景

ロジスティクス施設拡大の動向と背景

トゥアス地区におけるロジスティクス施設拡大の動向と背景
(2022~2025年)

 

はじめに
近年、シンガポール西部のトゥアス地区では、物流施設の新設・拡張が急速に進んでいます。これは国家主導のインフラ整備や、地政学的・経済的な環境変化により形成された新たな物流戦略に基づくものです。本レポートでは、2022年から2025年にかけての主な背景と動向を5つの側面から解説します。

1. トゥアス・メガポートの建設と統合戦略
トゥアス・メガポートは、シンガポールのすべてのコンテナ港機能を2040年代までに集約する国家プロジェクトです。第一期は2022年に稼働し、最終的には年間6,500万TEUを処理できる世界最大級の自動化港湾となる予定です。隣接地には自由貿易区(FTZ)や倉庫群が整備されており、物流機能が一体化された「港湾連携型」サプライチェーンが構築されています。2024年にはPSAが約18.5万㎡の「Supply Chain Hub」を着工し、2027年の稼働を予定しています。

2. サプライチェーンの多様化とレジリエンス強化
コロナ禍や米中貿易摩擦などを契機に、多くの企業がサプライチェーンの再構築を進めています。中国一極集中からの脱却を図る「China+1」戦略のもと、ASEAN諸国を経由した物流が増加し、その中継地点としてシンガポールが再注目されています。また、国家備蓄品や民間在庫の保管需要も高まり、大型・高機能な倉庫の需要が急増しています。

3. EC市場の成長と都市型物流の変革
シンガポール国内のEC市場は2022年に約58億シンガポールドル、2027年には約92億シンガポールドルまで成長する見込みです。この成長に伴い、消費者の即時配送ニーズも高まり、企業は配送効率の向上と在庫管理の最適化を求めて倉庫の高度化を進めています。トゥアスでは、自動化・多層構造・省人化を特徴とした大型倉庫が建設され、物流効率の最大化が図られています。

4. 地理的優位性と地域貿易の拠点化
トゥアスは世界の主要航路であるマラッカ海峡に隣接し、マレーシアとの陸路(トゥアス・セカンドリンク)も活用できる立地です。この地理的優位性により、ASEAN域内の製造・流通拠点とシンガポール港湾・空港との接続が容易となり、マルチモーダル輸送の中心地としての地位を確立しつつあります。RCEP発効後の貿易量拡大にも対応可能な体制が整備されています。

5. 政府の支援策と長期ビジョン
シンガポール政府は、土地利用計画、税制優遇、インフラ投資、人材育成などを総合的に展開し、物流業界の強化と持続可能な成長を支えています。JTCによる埋立開発(172ha)や、EDB・Enterprise Singaporeによる外資誘致施策などが実行され、多数の外資系物流企業や不動産REITがトゥアスへの進出を進めています。

おわりに
トゥアス地区の物流施設拡大は、単なる土地開発ではなく、港湾機能、サプライチェーン戦略、地域貿易の中心地という多面的な意義を持っています。今後もシンガポールの物流ハブとしての競争力を高める拠点として進化していくことが期待されます。


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