詳細解説 タイBOI(投資委員会)制度
~タイ進出における基礎知識として必須の制度~
本記事では、タイ王国における投資奨励制度である「BOI(タイ投資委員会)」についてご説明します。BOI制度とは、タイ政府が国内外からの戦略的な投資を促進するために設けた奨励措置制度のことで、特定の条件を満たす事業者に対して、法人税や関税の免除、外資100%での会社設立、土地取得の特例、ビザ・ワークパーミットの緩和措置など、幅広いメリットを付与しています。
BOI制度の基本的な仕組みに加え、同制度を活用することで得られる主なメリット、そして申請から認可取得に至るまでの一連の流れについて、実務的な観点からわかりやすく説明します。
本記事は、丸全昭和運輸株式会社 海外事業推進部にご所属の加口(かぐち)氏による寄稿です。
目次
- BOI(タイ投資委員会)について
- BOIのメリット
- 補足: タイの外資規制について
- BOI奨励の注意点
- 申請から操業開始までの流れ
丸全昭和運輸㈱ タイ新倉庫ご紹介
1. BOI(タイ投資委員会)について
BOI(The Office of the Board of Investment)とはタイ投資委員会のことで、投資奨励法の実務を担う国の機関です。首相府の傘下に位置し、タイ経済発展のための投資促進において重要な役割を果たす政府機関として、国内外の投資家に税制上の恩典等を付与し、便宜を図っています。
タイに進出する際、BOIを活用することで法的・税制面で様々なメリットを得ることができます。
東京と大阪にもオフィスがありますので、日本で相談することも可能です。日本語のガイドブックも用意されています。
2. BOI制度活用のメリット
BOIの認可を取得することで、企業はタイ進出時に多くの優遇措置を受けることができます。特に、外資100%での会社設立が許可されること、土地取得が可能になること、外国人のビザ・ワークパーミットの条件であるタイ人雇用(外国人1名に対してタイ人4名)が免除されることは、外資企業にとって非常に大きなメリットです。
- 外資100%での運営が可能
- 法人税や関税の減免を受けることができる
- 土地取得が可能
- 就労ビザ取得が円滑に行えるようになる
- 外国人のビザ・ワークパーミットの条件であるタイ人雇用(外国人1名に対してタイ人4名)が免除される
- その他
業種グループ | 法人所得税に免除 | 機械輸入税の免除 | 研究開発に使用する原材料の 輸入税の免除 |
輸出向け原材料の 免除 |
税制以外の恩典 |
A1+ | 10-13年間 免除金額に上限なし |
〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
A1 | 8年間 免除金額に上限なし |
〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
A2 | 8年間 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
A3 | 5年間 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
A4 | 3年間 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
B | – | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
外国人事業法に基づき、規制業種を3種43業種に分け、外国法人の参入を規制しています。
この法律では、企業の総資本において外国資本が50%以上を占める場合、その企業は「外国法人」と見なされ、規制の対象となります。
一方、たとえばタイ資本が51%、日本資本が49%という構成で合弁会社を設立すれば、その企業は「タイ法人」として扱われ、本法の規制対象外となります。
なお、サービス業全般は規制の対象となりますが、製造業については原則として本法の規制対象外です。
※当社も現地パートナーであるユニタイグループとの間で合弁事業を展開しており、出資比率は外国資本が50%未満となっているため、外国人事業法の規制を受けておりません
3. BOI活用の注意点
一方、BOI制度を活用するにあたっては、いくつかの重要な注意点を十分に理解しておく必要があります。まず、BOIの認可は法人単位ではなく事業(プロジェクト)単位で付与されるため、同一法人内で複数の事業を行う場合、それぞれ個別に申請・認可を受ける必要があります。また、参入する業種によって受けられる恩典の内容が異なるため、事前に対象業種や適用条件を正確に把握することが求められます。
さらに、奨励の対象となるためには最低100万バーツ以上の投資額(土地代および運転資金を除く)が必要とされ、奨励証書の発給申請前に登録資本の4分の1以上の払込が完了している必要があります。奨励証書が交付された後は、原則として36か月以内に操業を開始しなければなりません。
加えて、BOIプロジェクトには監査および報告義務が課されており、定期的に進捗状況および事業結果を報告する必要があります。具体的には、毎年2月および7月にプロジェクトの進捗状況を、7月には年次の事業結果をBOIに提出しなければなりません。これらの要件を確実に履行することが、認可の維持と将来的な拡張において重要なポイントとなります。
4. 申請から操業開始までの流れ
① 申請書の提出
BOIの申請手続きは、オンラインで行われます。申請書は原則として英語またはタイ語で作成する必要があり、提出先は複数用意されています。具体的には、タイ本国のBOI本部(投資促進部)だけでなく、日本国内の東京および大阪に設置されているBOI海外事務所、あるいはタイ国内の各地方事務所でも受付が可能です。事前の準備資料の整備や記入言語への対応が必要となるため、申請前に各拠点と連絡を取り、要件を確認することが望まれます。
② BOI担当官によるインタビュー
申請書の提出後、BOIの審査担当官とのインタビュー(面談)が行われます。インタビューの通知は、申請時に記載したタイ国内の連絡先宛に送付されます。申請者側は、通知を受領後、2週間以内に担当官との面談のアポイントを取得し、指定日時にインタビューを受ける必要があります。
このインタビューの目的は、提出された申請書では説明が不十分な点について補足情報を得ることで、主に投資の背景、計画している事業の内容、現在の事業の実態などが1~2時間程度かけて詳細に確認されます。使用言語はタイ語または英語で、必要に応じて通訳の手配も可能です。
③ 投資委員会での審査
インタビュー後、正式な審査プロセスに入ります。BOIへの申請書の受理から最終的な認可が下りるまでの期間は、投資規模に応じて異なります。
- 投資額が2億バーツ以下の場合:40営業日以内
- 2億バーツ超〜7億5,000万バーツ以下の場合:60営業日以内
- 7億5,000万バーツを超える場合:90営業日以内この審査期間中も、BOI側のタイ人担当官から追加資料や説明を求められるケースが多く、タイ語での応対が必要となる場合があります。
④ 審査結果通知、奨励受理の回答
BOI審査の結果は、申請者に正式な通知文として送付されます。この文書には、付与される恩典の内容と、それに伴う条件がタイ語で明記されています。申請者はこの通知を受け取ってから1か月以内に、記載された内容に同意するか否かの意思表示を行わなければなりません。
通知内容を精査し、提示された恩典や条件に誤解がないか慎重に確認したうえで、必要書類一式を整えます。通知には「奨励証書発給申請書」や「インフラ・人材関連調査票」など複数の補助書類が添付されており、これらを活用して次の手続きへ進みます。
⑤ 奨励証書発給
奨励証書の発給申請は、BOIからの認可通知に同意する旨を回答した日から180日以内に行う必要があります。申請が受理されると、原則として10営業日以内に正式な奨励証書が発給されます。申請に際しては、事前に送付された様式に沿った書類のほか、法人登記簿謄本などの関連証明書類を添付する必要があります。
この奨励証書の発給日が、すべてのBOI恩典の起算日(開始日)となるため、非常に重要なマイルストーンとなります。
⑥ 恩典利用の申請
BOIから付与された恩典を実際に行使するには、恩典ごとに所定の申請手続きが必要です。たとえば、法人所得税の免除を適用する場合は、決算日から120日以内に監査報告書をオンラインでBOIへ提出し、税務恩典の申請を行う必要があります。
なお、受ける恩典の種類により、申請様式や必要資料は異なりますので、適用条件を事前に確認しておくことが重要です。
⑦ 操業開始許可申請
事業を本格的に開始する前に、BOIに対して操業開始の許可申請を行う必要があります。これは、実施される事業が奨励証書に記載された内容および条件に即して遂行されているかを確認する手続きです。申請には、操業申請書や株主リスト、設備情報など多数の関連書類を準備・提出する必要があります。
⑧ 操業開始許可書の発給
BOIによる確認が完了し、提出された書類に問題がなければ、正式に操業開始許可書が発給されます。たとえば、弊社では2023年7月12日に申請書を提出し、同年10月12日に審査結果通知書を受領しました(申請から審査通知まで3か月)。その後、11月15日に奨励受理の回答を行い、2024年4月25日に奨励証書発給申請を行ったところ、申請から18日後の5月13日に奨励証書が発給されました。
なお、奨励証書の交付日から36か月以内に操業を開始する必要があるため、弊社では2027年5月12日までのフル操業を目指して準備を進めています。
丸全昭和運輸㈱ タイ新倉庫ご紹介
丸全昭和運輸株式会社は、タイ東部経済回廊(EEC)の要所であるチョンブリ県・ロジャナレムチャバン工業団地内において、現地法人「サイアム丸全昭和(Siam Maruzen Showa Co., Ltd.)」を設立し、物流拠点の構築を進めています。
本拠点は、タイBOI(投資委員会)より「Distribution Center(DC)」事業としての認可を正式に取得し、丸全昭和運輸100%出資による独資体制にて運営されます。施設内には一般倉庫に加え、危険物対応倉庫および空調管理設備を備え、業種・業態を問わず多様な物流ニーズに即応できる高度なオペレーション体制を構築します。
立地面では、タイ最大の国際港湾・レムチャバン港から車で約20分、主要幹線道路であるモーターウェイ沿いに位置しており、バンコク市内からのアクセスにも優れており、EEC地域における戦略的物流拠点として、今後の需要増加にも柔軟に対応可能な環境です。
竣工は、2026年8月。丸全昭和運輸がタイ市場に参入して以来30年以上にわたり構築してきたネットワークと現地実績を活かした、より高度なロジスティクスサービスが期待されています。
倉庫保管、輸配送、サプライチェーン最適化など、タイ国内での物流業務に関してご関心・ご要望等ございましたら、加口氏までぜひお気軽にご相談ください。
お問い合わせ先:
Siam Maruzen Showa Co., Ltd.
氏名 小泉 優
電話番号 +66(0)2 714 3141
メールアドレス koizumi-m@maruzenshowa.com
Maruzen Showa Unyu Co., Ltd. 海外事業推進部
氏名 加口 諄
電話番号 03-6722-4580
メールアドレス jun-kaguchi@maruzenshowa.co.jp
ホームページ https://www.maruzenshowa.co.jp/
参考:
BOIホームページ(https://www.boi.go.th/ja/index/)
ジェトロホームページ(https://www.jetro.go.jp/world/asia/th/invest_04.html)
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