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発注者視点で読み解く 海外建設プロジェクトのクレーム管理 (2)

発注者視点で読み解く 海外建設プロジェクトのクレーム管理 (2)

前回は、発注者による変更や遅延が、どのように追加費用や工期延長のクレームに繋がるのかを解説しました。 今回も引き続き、発注者側責任者として理解しておくべき、設計・調達・施工の各過程、および現地条件の変化に起因する追加クレーム要因についてみていきましょう。

1.発注者による変更や遅延
2.設計・調達・施工
3.現地条件の変更・予期せぬ事象
4.契約・法令・規制の変更
5.労務・安全・現場管理
6.クレームの承認・却下

 

■設計・調達・施工に起因する追加要因
設計・調達・施工の各過程においても、さまざまな追加クレーム要因が発生します。 発注者が別途手配する特殊機器や海外調達品の納期が遅延した場合、工事会社は現場での待機を余儀なくされ、その待機費用が追加コストとして発生します。

また、前述のとおり発注者手配品の設計変更が生じた場合、それに接続する工事会社側で製作済みの機器や施工済みの一部設備をやり直さなければならないケースもあります。 さらに、試運転段階において、追加試験の実施や性能未達に対する再調整、あるいは追加設備の導入が必要になることもあります。

これらの対応は、発生時期が後ろ倒しになるほど影響が大きくなり、最悪の場合、プロジェクト全体に致命的な影響を及ぼします。 特にユーティリティ容量の不足や、設備が物理的にスペース内に収まらないといった事態が発覚した場合には、本工事そのものの工程や追加工事費用に極めて大きなインパクトを与えることになります。

以前、発注者手配のスプレードライヤーが契約締結後に大型化し、既に建設済みであった構造体を改造せざるを得なくなった事例がありました。 このケースでは、当然ながら費用増加と工期延長のクレームが発生しました。 発注者側にも特別な事情があったものの、発注者責任者としては、可能であれば未然に防ぎたかった事例の一つです。

海外工事において海外調達品を使用する場合、こうした事態を防ぐためにも、より慎重な工程管理が求められます。 特に、当初から長期納入品であることが分かっている機器については、プロジェクト工程管理上、最も注意すべき項目の一つと言えるでしょう。 近年は半導体不足の影響もあり、従来以上に長納期化する傾向が強まっています。

これらの事象を防ぐためには、まず実現性の高い「マスタースケジュール」を策定し、その中で想定されるリスクを事前に洗い出したうえで、計画的にリスク管理を行うことが重要です。 リスク管理の多くは経験に基づく部分が大きく、前述のとおり、相手がある話である以上、最終的にはbeyond controlとなる可能性も否定できません。 その前提を踏まえたうえで、過度な楽観を排し、一定の余裕を持った姿勢でリスクと向き合っていくことが求められます。

■現地条件の変更・予期せぬ事象
現場条件の変更や予期せぬ事象も、プロジェクトの進行に大きな影響を与える要因です。 契約前に実施された地盤調査と、実際の地盤条件が異なった場合、基礎工事の設計変更や施工方法の見直しが必要となり、追加費用が発生します。

地下から埋設物や汚染土壌、既存構造物などが発見された場合には、それらの撤去や処理に要する費用と時間が新たに必要となります。 これらのリスクを最小限に抑えるためには、契約前の十分な現地調査に加え、契約交渉段階でリスク分担条項を明確にし、一定のリスクを工事会社側に負担してもらうことも検討すべきでしょう。

既存工場敷地内で新棟を建設する工事において、地中2~3m付近に埋まっていたコンクリート部材(過去工事で廃棄されたと推測されるコンクリート杭)に新規の打ち込み杭が接触し、杭が破損した事例がありました。 このケースは、契約前の地盤調査で発見できなかった地中障害物に該当し、結果として追加クレームの対象となりました。

さらに、異常気象や地震、洪水などの自然災害によって工期が延長される場合もあります。 これらは通常、契約書上では不可抗力(Force Majeure)条項として規定されていますが、費用負担の取り扱いがどこまで明文化されているかを事前に確認しておくことが重要です。 日本国内では発注者が追加費用を負担するケースが多い一方で、海外プロジェクトでは、発注者と請負者がそれぞれ自己の損害を負担する契約形態も存在します。

近年の異常気象下では、洪水に至らなくとも、長期にわたる大雨だけで工事が遅延し、不可抗力条項を根拠としたクレームを受けるケースも見られます。 その際、工事会社側が過去の気象データと今回の事象を比較し、いかに「異常」であったかを合理的に立証できるかどうかが、クレームを承認するか否かの重要な判断基準になります。

実際に、ローカルゼネコンによる設計遅延に、長雨による基礎工事の遅れが重なった事例も有りました。 このような場合、遅延の主因が設計にあるのか、天候にあるのかが曖昧になり、責任区分が不明確になるという厄介な事態となりかねません。 我々はこの経験を通じて、日常的な進捗報告の徹底と、遅延原因を時系列で記録しておくことの重性を、あらためて認識することとなりました。

 

ここまで、発注者による変更や遅延、ならびに設計・調達・施工プロセスや現地条件の変化といった、主にプロジェクト実行段階で顕在化しやすい追加クレーム要因について見てきました。 これらは比較的「目に見える」事象である一方、その背景には契約条件の解釈や、法制度・労務環境といった、より構造的な要因が関係しているケースも少なくありません。

次章では、こうした実務上の事象を支える土台として重要となる、契約条件や法令の変更に起因するクレーム、および労務・安全管理に関わるクレームについて取り上げます。 これらは一見すると間接的な要因に見えますが、ひとたび顕在化すると、プロジェクト全体に長期的かつ深刻な影響を及ぼす可能性があります。

発注者側責任者として、どのような点に留意し、どの段階で手を打つべきなのか。 引き続き、具体的な事例を交えながら整理していきたいと思います。


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