- 2026 . 03 . 26
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ベトナム食品安全規制政令46号に見る食品安全規制の再編動向
ベトナムの食品関連実務に関わる現場では、ここ数週間、食品安全規制の新政令46号への関心が急速に高まっています。 施行直後に通関や流通の現場で混乱が生じ、政府が異例の一時停止措置に踏み切ったことで、日系企業の駐在者や法務・通関実務者の間でも、「何が変わったのか」「どこに実務影響が及ぶのか」を確認する動きが広がりました。
その背景にあるのが、ベトナムの食品安全管理制度を大幅に見直した新政令(Decree 46/2026/ND-CP)です。 同政令は2026年1月26日に公布・施行されましたが、制度変更の影響は施行直後から輸入通関や市場流通の現場に及び、政府は2026年4月15日まで同政令の運用を一時停止するという異例の措置を講じました(2026年2月4日発効No. 09/2026/NQ-CP)。 本稿では、この一連の動きを手がかりに、政令46号が示すベトナム食品安全規制の再編の方向性と、実務上の含意を整理します。
現状
今回の混乱の主因としては、制度変更が「管理範囲の拡張」「検査プロセスの強化」「電子化による監督強化」という複数の抜本的転換を同時に伴っていたことに加え、検査手順や基準の詳細ガイドライン(Circular等)が未整備のまま施行されたという運用面での問題が挙げられます。 従来制度の下で運用されていた手続や実務慣行は、新政令の発効によって急激な変更を迫られました。 その結果、企業側・地方当局側の双方で解釈と運用の統一が追いつかず、検査区分の判断も混乱し、港湾での貨物滞留が深刻化しています。 とりわけ、「施行前に出荷済みの貨物」や「旧政令下での登録製品」の扱いについて現場の対応が間に合わず、今回の運用停止につながった可能性が高いと考えられます。

新政令での大きな変更
新政令の変更点は多岐にわたりますが、その中でも特に影響が大きいとみられる項目を二点に絞って整理します。
まず、食品―すなわち包装済みの加工食品、食品添加物、食品加工助剤、食品容器および食品包装(新政令では「食品と直接接触する容器および器具」「食品に直接接触する包装材」と明示)―の安全基準に関する申告・登録制度の見直しです。 旧政令では、包装済み加工食品等について、事業者が自ら製品の適合性を確認し、自己宣言書および試験結果書を提出すれば、直ちに生産・販売を開始できる「自己申告制度」が採られていました。 この制度は、製品の安全性に関する責任を事業者が全面的に負うことを前提とし、市場参入の迅速性を確保する一方で、安全性の担保は主として事業者の自律的な管理体制に委ねられていたものです。
これに対し新政令では、同様の食品等について適合宣言の「登録」が義務化され、有効期間も最長三年と明確に定められました。 これにより、安全性評価の客観性が高まり、市場に流通する製品の質的水準の底上げも期待できます。 加えて、登録内容は電子情報ポータルで公開されるため、制度運用の透明性や製品のトレーサビリティも向上していくはずです。 さらに、有効期間の設定や技術基準改正時の再登録義務が明確化されたことで、単発的な確認にとどまらず、製品に対する継続的な行政管理を制度として担保する仕組みになったと位置付けられます。
次に、輸入食品、添加物、包装材等(新政令では食品と直接接触する容器と明記)に適用される検査区分と検査内容の変更です。
両政令とも「軽減(簡易)検査」「通常検査」「厳格(強化)検査」の3区分で構成されています。ただし、旧政令ではこの3区分が、輸入時の状況に応じて選択される並列的な規定でした。 これに対し新政令では、「通常検査」と「厳格検査」の2区分が原則的な対象区分として前面に出されています。 一方、「軽減検査」は、条件を満たした場合にのみ事後的な移行が認められる特例的な区分として位置づけられており、その点がより強く打ち出されています。 なお、旧政令では「認証(ISO等)」があれば「簡易検査」の対象となりましたが、新政令ではその条件は見当たりません。
また、新政令では、国家検査機関が通常検査から縮小検査への検査方法変更に関する通知を発行した日から、最大12か月間が軽減検査の対象になることが追記されました。 さらに、12ヶ月以内に3回連続で通常検査に適合しなかった場合には、自動的に「通常検査」対象に戻ることも明記されています。
| 新政令 | 旧政令 | |
| 軽減(簡易)検査対象 |
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| 通常検査対象 |
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| 基本的に全貨物対象であることは変わらないが、軽減期間が終わると自動的に通常に戻るサイクルが明記 | ||
| 厳格(強化)検査対象 | 不適合や警告があった場合 | 不適合や警告があった場合 |
| 新政令では「不適合の結論」に関する表現がより具体的に明記 | ||
輸入食品等に関する新政令の最大の変更点は、区分ごとの検査内容、なかでも「通常検査」と「軽減(簡易)検査」が大幅に強化されたことにあります。
旧政令では、「通常検査」は「輸入ロットに対する書類検査のみ」と規定されており、物理的な商品の確認や試験を伴わない、事務的な手続きが中心でした。 これに対し新政令では、この定義が抜本的に見直されています。 すなわち、「書類検査」に加えて、「商品の実際の状態検査」、さらに「書類内の品質・食品安全基準群の中から選択された項目に対するサンプリング試験」まで包む内容へと改定されました。 また、「軽減(簡易)検査」の手法についても、旧政令では「全ロットの一部を抜き取って書類を確認する」形式でしたが、新政令では「原則として全貨物の書類を精査する」とされています。
旧政令では、書類だけで通過できた「通常検査」が、新政令ではサンプリング試験を伴うものへ変わりました。そのうえで、新政令が定める「12ヶ月以内に3回連続合格」という実績を積み上げて初めて、旧政令の通常検査に近い「書類審査のみ(新・軽減検査)」の恩恵を受けられる構造になっています。
| 新政令 | 旧政令 | |
| 軽減(簡易)検査内容 | 書類検査 | 1年以内に輸入したロットの総数の最大5%を無作為に抽出し、書類検査を実施 |
| 通常検査内容 | 申告書類に記載された品質・食品安全基準項目群の中から選定した基準について、書類審査、貨物の現物確認、およびサンプリング検査を実施する | 書類検査のみを実施 |
| 厳格(強化)検査内容 | 本政令第22条第3項に基づき、不適合または警告対象となった基準(該当する場合)を含め、申告書類との適合性について、書類審査、貨物の現物確認、および品質・食品安全基準項目群のサンプリング検査を実施する | 書類検査とサンプル採取の両方を実施 |
まとめ
本政令の一時停止は、制度そのものを後退させるための措置というより、急激な制度転換に伴って生じた運用上の不整合や実務負荷を是正するための調整措置とみるのが妥当です。 政策の方向性自体は維持されており、輸入食品および関連資材に対する国家管理は、従来の事業者自己責任型モデルから、登録制度を軸とする、より体系的かつ予防的な監督モデルへ移行しつつあると考えられます。
制度運用が安定するまでの過渡期には、当局の実務運用に解釈差が生じ、個別案件ごとの裁量的判断が増えることも想定されます。 こうした局面では、条文を理解するだけでは足りません。 実務レベルでの運用対応力こそが、企業のリスク管理において決定的な意味を持ちます。 登録・検査関連書類の標準化、用途証明の整備、当局との事前協議体制の構築、通関リードタイムの再設計など、制度変更を前提とした内部統制の再構築が求められます。
足元で現地実務者や日系企業の関係者の間に確認や照会が相次いでいるのは、この制度変更が一時的な混乱事象にとどまらず、ベトナムの食品安全規制が構造的な転換局面に入ったことを示しているからにほかなりません。 今後示される通達やガイドラインの動向を継続的にモニタリングしつつ、制度解釈の変化にも機動的に対応できる体制を整えることが、現地実務に関わる企業にとって重要になります。 今回の政令46号をめぐる一連の動きは、単なる制度改正のニュースではなく、輸入・通関・販売の実務を見直すべき局面に入ったことを示すシグナルとして受け止めるべきでしょう。
【出典】
・ 旧政令:Nghị định số 15/2018/NĐ-CP, “QUY ĐỊNH CHI TIẾT THI HÀNH MỘT SỐ ĐIỀU CỦA LUẬT AN TOÀN THỰC PHẨM”
Nghị định 15/2018/NĐ-CP hướng dẫn Luật an toàn thực phẩm mới nhất
・ 新政令:Nghị định số 46/2026/NĐ-CP, “QUY ĐỊNH CHI TIẾT THI HÀNH MỘT SỐ ĐIỀU VÀ BIỆN PHÁP ĐỂ TỔ CHỨC, HƯỚNG DẪN THI HÀNH LUẬT AN TOÀN THỰC PHẨM”
Nghị định 46/2026/NĐ-CP sửa đổi Nghị định 15/2018/NĐ-CP hướng dẫn Luật an toàn thực phẩm mới nhất

【執筆者】田山 恵里子
株式会社シーエムプラス海外戦略室所属。工業用地の選択等、東南アジア(特にベトナム)への日本企業進出支援に従事。ベトナム在住20年。シンガポール系デベロッパーによるベトナム南部工業団地のマーケティング・顧客進出支援、日系ゼネコンの営業を経て、2019年TaskLighting Co., Ltd.をホーチミン市に設立。ベトナムでの事業展開に関わる営業請負いサービスを提供する。2023年から株式会社シーエムプラスに参画。
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