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【インド】南東部 タミルナドゥ州への進出の手引き

【インド】南東部 タミルナドゥ州への進出の手引き

国連人口基金(UNFPA)が2024年に発表した世界人口白書2024によると、インドは中国を抜いて世界一の人口大国に(約14億4170万人)。平均年齢29.8歳、15歳から64歳までの生産年齢層が68.7%を占める *1 。コロナ禍でマイナス成長となった実質GDP成長率も2021年には9.0%とV字回復をし、2023年は5.9%と高水準を維持した。日本からの進出企業は、約4,900社。ジェトロの2023年度「海外進出日系企業実態調査」では、インド日系企業の7割以上が、営業利益黒字見込み、今後の事業展開の方向性について「拡大」と回答している。豊富な労働力と圧倒的な内需市場、東アジア・東南アジアと中東・欧州を繋ぐ輸出拠点としての魅力、IT 分野を中心に優秀な高度人材を輩出し続けるイノベーション大国、また研究開発拠点としても注目されるインド。
今回は、アジアを中心に6か国で9つの工業団地を開発・運営する住友商事の工業団地ユニット、現地合弁法人(Mahindra Industrial Park Chennai Limited)にてマーケティング・カスタマーサービスを担当する山下健人氏に、インドの南東部タミルナドゥ州へ製造業が進出する際の基本情報と手引きについて伺った。
*1: 出所: CIA-The World FactBook

CM Plus:最初に、製造業がインドへ法人設立、稼働となるまでのプロセスについて教えてください。簡単に調べたところによると、①基本税務番号 (PAN), 電子署名証書 (DSC)登録の準備、②商号申請、③会社設立登記、④取締役会開催、口座開設、事業開始とありますが、製造業にも当てはまりますか?
山下氏:はい、大まかにはその理解で問題ありません。会社設立登記申請が承認されると、設立証明書(COI)、取締役識別番号(DIN)、納税者番号(PAN)・源泉徴収番号(TAN)が発行されます。設立証明書の発行日から30日以内に取締役会を開催し、その後、資本金の振り込み、事業開始の届け出をします。この届出は、設立証明の発行日から180日以内に提出する必要があります。プロジェクトの詳細や稼働スケジュール、投資規模などについては、商号申請の際に提示が必要です。法人設立に必要な期間は約4か月です。

CM Plus:工業団地との契約は、どのようなステップになりますか?
山下氏:大きく分けて州政府が運営する工業団地と民間企業による工業団地とでステップが異なります。民間である弊社の運営する工業団地では、2ステップあります。まず、LOI (Letter of Interest) を締結し、予約金として土地代金の10%をお支払いいただきます。LOIから約1, 2か月で、Lease Deedと呼ばれるいわゆるリース本契約を結び、残金の90%をお支払いいただきます。LOIから本契約の間に、各種デューデリジェンス (Due Diligence)、土壌調査等をしていただきます。Lease Deedは、原則現地法人との契約になります。デューデリジェンスは任意ですが、一般的には行うという理解です。

CM Plus:ありがとうございます。優遇制度について情報をいただけますか?
山下氏:大きく2点あります。ひとつは、インド全体の優遇政策、いわゆるPLI(Production-Linked Incentive)と呼ばれるものがあります。従来、インドは中央政府主導の優遇政策はほとんど無く、、基本的に州政府主導で進められてきましたが、モデイ首相になり2020年5月にSelf Reliant India (SRI)政策が発表され、誘致重点産業については、売上に応じて補助金を出すというスキームが実施されています。これは、非常に画期的な政策です。対象産業としては、携帯電話製造、自動車関連、太陽光モジュール、医薬品など13項目あり、日系では、スズキ様はじめ主に自動車関連で多く採択されていますが、他にも携帯電話でTDK様、繊維では東レ様、家電ではダイキン様、パナソニック様などが挙げられます。これは、中央政府の予算によるもので、予算がつくたびに募集がかかり補助金がつきます。二つ目は、タミルナドゥ州の州政府による優遇制度です。2021年10月「タミルナドゥインダストリアルポリシー2021」の中で、各種恩典が発表されており、資本補助金、売上げへの補助金、研修補助金等があります。実質的には投資規模で30億ルピー以上(約51億円以上)、従業員150人以上の、投資規模の分類でLargeに分類されないと、優遇の対象にならない制度にはなっています。また、タミルナドゥ州では、チェンナイ等大都市圏以外への投資についての優遇制度もありますが、日系企業ではそのような地域へのご進出は少ないものと認識しております。

CM Plus:分かりました。次に、インドでは地域により言語も民族も異なるということですが、タミルナドゥ州の特徴を教えていただけますか?
山下氏:はい、まず民族ですが、ドラビタ系、いわゆるタミル人が多い地域です。南部に多い民族ですが、比較的温和で争いを好まない性格といわれています。私自身、北部にも何度か足を運んでおり、南北の特徴の違いは肌身で感じています。結果として、過激な労働争議も南部は少ない傾向です。日本人との気質に近いという声も多く、日系企業からも好意的評価が高いという理解です。
二点目の特徴として、政治の安定性が挙げられます。タミルナドゥ州の政治体制は、2大政党、ドラビタ進歩連盟と全インド・アンナ・ドラビタ進歩連盟ですが、名前から分かるように、ドラビタ系民族による同一母体です。ですので、政権交代が起こっても、ドラスティックに大きく変わることはなく、政治の安定性が高いことが大きな特徴です。州によっては、政権交代により当初設定されていた補助金や優遇政策が見送られるといった事例もあり、、製造業様にとって、この先何十年も操業されていく中で、このような政策転換は、不安要素になると思います。この点で、タミルナドゥ州はかなり安定しているといえます。また、識字率も高く、ワーカーをとりまとめるマネージャークラス以上とは基本的に英語でコミュニケーション可能と認識しています。

CM Plus:労働力は豊富でしょうか? 100人ぐらいの募集に対してすぐに集まるものでしょうか。
山下氏:はい、3, 4倍の応募は集まると伺っており、弊社工業団地のご入居企業様から、採用で人が集まらずに困ったという声は聞いたことがありません。尚、特にワーカーに関しては、企業が直接採用するのではなく、派遣会社を介するのが一般的です。

CM Plus:投資家様に対して、スムーズな法人設立のためのヒントがありましたら、お願いします。
山下氏:法人設立に関して、弊社工業団地の入居企業様様から、設立に特別時間を要したというお話は伺っておりません。。一つご注意頂きたいポイントとしては、民間の工業団地と州政府による工業団地で対応の差がある点です。州政府による工業団地の対応の中では、各種申請対応等の期日が守られない土地割り当て証明書がなかなか発行されないといったケースがあると伺っており、、この対応の違いは留意が必要です。また、州政府によっても対応はまちまちです。タミルナドゥ州は比較的対応が早いと認識していますが、州による対応の差は進出の際に見きわめる必要があります。

CM Plus:ありがとうございます。まさに今、御社では当州のチェンナイで「オリジンズチェンナイ工業団地」を開発・運営をされていますので、工業団地について伺いたいと思います。現状の開発状況と今後の計画について、教えてください。
山下氏:現在のフェーズⅠには、15社がご入居されており、LOIのご契約を頂いている区画を合わせますと既に多くの区画をご購入頂いている状況ですが、空き区画のご案内も致しております。また2025年度中の販売開始を目指し、フェーズⅡの開発も検討しております。弊社はフリーホールドで土地を購入していますので、入居企業様には弊社とのリース契約日から99年のリースの提供が可能です。

CM Plus:インドへの進出に興味ある企業様に対して、チェンナイ、「オリジンズ・チェンナイ工業団地」の利点についてご案内ください。
山下氏:はい、まずチェンナイの利点として、国際港に近いことが挙げられます。主要なコンテナ港であるチェンナイ港やカトゥパリ港へ弊社の工業団地から1時間圏内であり、内需に限らず輸出型企業にとっても利点が大きいと認識しております。またインド東岸に位置し、日本や東南アジアとの接続性も良く、日系企業含め多くの企業が輸出拠点としても進出をされています。たとえば、バンコクからのコンテナ輸送ですと、インド西部のムンバイへは約20日かかりますが、チェンナイへは約10日と認識しております。また、ワーカーの賃金水準は、ジェトロの2022年投資コストデータによると、チェンナイは277米ドル/月で、ジャカルタ、バンコク、ホーチミンより低く、インド国内でも、ムンバイ(US$469)、ベンガロール (US$424)、ニューデリー (US$281)を下回っています。
弊社工業団地の特徴としては、まず、地理的優位性、港とチェンナイ市内との接続性です。チェンナイ港、チェンナイ市街地へは約40km、カトゥパリ港へは25kmの距離です。チェンナイの中でも最も港に近接した工業団地の一つであり、チェンナイ市街地からも約1時間程度のアクセスですので、立地の利便性は非常に高いといえます。 2点目が労働力です。チェンナイ南部と比較して製造業の集積が未だ進んでいない北部に位置しており、比較的労働力の獲得競争は低いと認識しております。また周辺の教育機関と連携を取り、エンジニア等の採用をされているご入居企業様もいらっしゃいます。3点目として、土地権利問題に対する対応です。インドには土地の登記制度が存在せず、土地所有権の有無は過去の売買契約の変遷を確認するしかありませんが、弊社は最大60年前まで遡り丁寧に確認しています。これにより、ご入居企業様の土地が訴訟を受けるリスクを最小化しております。4点目が質の高いインフラです。団地内に二系統受電による変電所が整備されており、その他浄水・下水プラント、洪水対策、道路の整備が徹底されています。2021年の記録的大雨の時も、工業団地内で洪水被害はありませんでした。また、水の供給量確保がタミルナドゥ州の課題の一つですが

弊社工業団地は州政府からご操業頂くのに十分な量の採水許可を取得しております。最後は、日本人が現地でサポートできる点です。住友商事から2名日本人が派遣され常駐し、立ち上げからお客様をサポートしています。インド全土をみても、日本人駐在員を工業団地会社に派遣しているのは弊社の工業団地のみとの認識です。
インドは州により、投資環境が大きく異なります。ご相談いただけましたら、タミルナドゥ州に限らない、インド全土の州ごとの比較など、様々な情報をお伝えさせて頂く事ができるかと思います。是非お気軽にお問合せください。

CM Plus:インドへの関心が高まる中、貴重な情報ありがとうございました。

 

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