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発注者視点で読み解く 海外建設プロジェクトのクレーム管理 (3)

発注者視点で読み解く 海外建設プロジェクトのクレーム管理 (3)

前回は、設計・調達・施工プロセスや現地条件の変化といった、プロジェクト実行段階で顕在化しやすい追加クレーム要因について解説しました。

今回も引き続き、発注者側責任者として押さえておくべき、契約・法令・規制、ならびに労務・安全・現場管理に起因するクレーム要因について見ていきましょう。

1.発注者による変更や遅延
2.設計・調達・施工
3.現地条件の変更・予期せぬ事象
4.契約・法令・規制
5.労務・安全・現場管理
6.クレームの承認・却下

 

■契約・法令・規制
契約や法令・規制の変更も、プロジェクトに大きな影響を与える要因の一つです。 契約締結後に新たな基準や規制が適用された場合、それに対応するための追加設計や工事、手続きに伴う費用が発生します。 税制の変更や関税の引き上げによって、輸入機器のコストが上昇することもあります。 また、建設許認可に関する法令が改正されれば、官庁対応のための追加資料作成や、審査期間の長期化への対応が必要となる場合もあります。

こうした制度面の変更は、設計・施工そのものだけでなく、労務や安全、現場管理にも影響を及ぼします。 発注者の方針や法令によって安全対策が強化されれば、安全設備の追加、教育の実施、監視体制の整備などが求められます。 さらに、法規制の改正によって現地労働者の賃金が想定外に上昇するケースもあります。

例えば、ベトナムでは昨年7月に建設許可申請に関する法律が改正され、同月には行政区画の再編も実施されました。 これにより、許認可の申請先や手続きフローが変更となり、各地方での対応に混乱が生じています。
(参考→ 2025/06/16 「ベトナム行政区画再編と企業への影響」)

要件は示されても、実務判断材料が不足するケースもあります。 例えば、ベトナムでは消防関連法規もほぼ毎年のように改定されています。 特に、カラオケ店火災による死亡事故を受けて安全基準が大幅に強化され、「鉄骨構造には防火用塗料を塗布すること」が新たに明記されました。 しかしながら、その防火塗料の具体的な成分表や推奨メーカー・製品番号が明示されていなかったため、実務上の判断が難しくなり、結果として構造形式を鉄骨(S造)から鉄筋コンクリート(RC造)へ変更するなどの混乱が現場で発生しました。

さて、契約条件について触れておくと、日本で一般的に使用されている標準約款は、非常に請負側に有利な内容となっており、裏を返せば発注者側にとって不利な側面を持っています。 日系工事会社を採用する場合、海外工事であっても、日本の標準約款がそのまま使用されることが多いのが実情です。

しかしながら、当社では日系工事会社、ローカル工事会社を問わず、グローバルスタンダードに基づく、発注者を守る契約書を採用しています。 日本国内では「信用」を前提とした契約文化が根付いているため、大きな問題に発展し難い面がありますが、海外工事では予期せぬリスクが顕在化する可能性を常に想定しなければなりません。 その意味でも、グローバルスタンダードの契約書を活用することを強くお勧めします。 契約書は本来、発注者のリスクを極力少なくするためのものだからです。

海外工事では、トラブルが発生すると、まずすべての議論が契約書に立ち戻って進められます。 本連載で述べてきたような、さまざまな遅延や追加費用に関するリスクを、可能な限り契約書でカバーし、発注者を守ることが重要です。 これが、海外工事の「一丁目一番地」と言われる所以です。

■労務・安全・現場管理
追加クレームには直接的な費用だけでなく、工期延長の要求が含まれるケースも多く見られます。 工期が延びれば、それに伴って管理要員の人件費や仮設設備の維持費など、間接費が増加するリスクが生じます。 これらの間接費は、場合によっては非常に高額となるため、慎重な判断が求められます。

状況によっては、工期延長を認めるよりも、納期を守ってもらうためにインセンティブを支払った方が、結果として総コストを抑えられる場合もあります。 発注者側としては、個々のケースごとにコストとリスクを冷静に比較し、最適な判断を行うことが重要です。

■クレームの承認・却下
追加費用や工期延長に関するクレームを承認するか否かを判断する際には、いくつかの重要なポイントがあります。 まず、当該内容が契約書に定められた変更管理条項(Change/Variation Order Clause)に合致しているかを確認する必要があります。 次に、追加費用や工期延長の発生根拠が、文書や客観的な証拠として適切に記録・提示されているかどうかが重要です。 例えば、「Site Instruction」や「Daily Report」などが、その根拠資料となります。

さらに、クレームが契約上定められた通知義務期間内に提出されているかどうかも、承認・却下を左右する重要な要素です。 これらの点を適切に管理するためには、プロジェクト開始時に「プロジェクト遂行要領書」を作成し、変更管理をどのような手順で薦めるのかを明確に定めておくことが肝要です。 誰の責任で変更が発生したのか、その変更は承認を得た上で実施されたものなのか?変更金額は妥当であるのか? ―これらを都度、文書として明確に残していく必要があります。

また、追加変更とは少し性質が異なりますが、工事代金の請求(例えば出来高支払い)についても、出来高を十分に確認し、過払いとならないようにチェックすることが重要です。 こうした地道な管理の積み重ねが、結果として発注者リスクを最小化することにつながります。

まとめ
このように、プロジェクトにおける追加費用や工期延長の要因は複雑かつ多岐にわたります。 契約管理者やプロジェクトリーダーには、これらの要因を的確に把握し、適切な対応と記録を行うことで、プロジェクトの安定的な遂行とリスクの最小化を図ることが求められます。 また、契約書作成時にこれらの追加クレームリスクを意識することがとても重要です。

 

次回は、少し視点を変えて、リスク費用の考え方について、Allowance と Contingency の違いに触れながら解説していきます。


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