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海外建設契約における不可抗力リスク

海外建設契約における不可抗力リスク

Force Majeure/Exceptional Events発生時の費用負担と交渉ポイント

近時の中東情勢を背景に、エネルギー企業がForce Majeure(不可抗力)を宣言し、契約上の供給義務や損害賠償責任をめぐる議論が生じています。 このForce Majeureは、近年の政情不安定性、気候変動、パンデミック等によってよく話題に挙がる言葉であり、インターネット上に多くの解説サイトが存在します。

この単語はフランス語由来ですが英語契約文書でも使われています。 海外建設プロジェクトでよく参照されるFIDIC約款でも昔はこの単語を使っていましたが、最新版では「Exceptional Events」と定義しています。 この不可抗力事案は、海外ではかなりの頻度で発生し得るので、契約上、どう取り扱われるのか正しく理解しておくことが重要です。 ここでは主に不可抗力事案における費用負担に関して解説したいと思います。

基本的に不可抗力とは、契約当事者双方に帰属しない原因によって大きな影響を受けることなので、一般的には戦争や自然災害などがイメージし易いでしょう。 FIDICでは不可抗力を宣言できる対象事案として主に自然災害、戦争、他国による侵略、内戦、テロ、請負企業関係者以外によるストライキ等と定義しています。 これらの文言では対象事案を全て定義することは困難なために交渉の余地が残されていますが、昨今では、パンデミックのような事象も明記する契約も増えています。 また、FIDICでは地震やハリケーン、台風が示されていますが、どのような規模の自然災害を不可抗力とするのか、それらが頻繁に発生する建設地では慎重な判断が必要でしょう。

2011年に発生したタイの大洪水。現地のサプライチェーンや工場に深刻な被害をもたらした。

さらに、理解しておいたほうがよいのは一般的な契約書で規定されるChange/Variation(役務変更)と不可抗力の違いです。 前者は発注者判断に影響を受けた工程と費用が清算対象となりますが、後者では影響受けた工程遅延は通常認められるものの、双方に責任が無い故に契約で費用負担に関して取り決めておく必要があります。

海外建設プロジェクトで参照されがちなFIDIC標準約款では自然災害以外の不可抗力では発注者側が全て負担する考えが示されている一方で、イラン紛争で宣言されたような石油・ガス供給者と調達者の間の契約では、追加費用負担はお互いにクレーム対象としないとするのが一般的です。 実は、建設プロジェクトでは後者のような契約書も存在し得るのです。 安易に「FIDICに従う」と合意してしまうと、費用負担は発注者となり、実務上は不可抗力事案であっても、Change/Variationに近い費用負担構造となる可能性があります。

通常、契約書を締結する過程で、発注者と請負者の間の力関係や発注者側のファイナンス条件によって、この費用負担について交渉するのですが、予算超過が許されない発注者側都合で互いに損害請求しないという条件にすることもありますし、請負者側にリスク費用を過剰に計上させないために全て発注者側負担と敢えて明記することもあります。 また、日本人的かもしれませんが日本企業間の契約では「協議して決める」という曖昧な文言に落ちつくこともあります。

ちなみに日本国内の民法でも特段の合意が無い限り、引渡し前の設備・施設において、不可抗力損害を発注者に請求できることにはなっていません。 小さな例で言えば、個人住宅を新築中に地震が発生して倒壊した場合、完成時期は別途協議になりますが、特段の合意が無ければ建設会社側が契約を破棄して契約金を払い戻すか、建設会社側で修復費用を負担して工事を完了することになります。 (なお、日本の公共工事では、公共工事標準請負契約約款等において、不可抗力による損害のほぼ全額を発注者負担とすることが定められています)

さて、契約書で費用負担は「お互い様」とか、「協議による」となっている場合、不可抗力事案が発生したときに請負者側から、これは不可抗力ではなく「Change」だとか「Variation」だといった主張をしてくることがあります。 不可抗力事案として対応してしまうと請負会社側で損害費用を負担しなければならないリスクがあるからです。

例えば、不可抗力になりそうな事案が発生したとき、当該政府がそれに関する新法(もしくは命令)を発したとします。このような場合、不可抗力費用が発注者負担と明記されていない契約では、請負会社側からは、この政府指示によって被った損害はChange in Lawであって、不可抗力ではないと主張してくる可能性があるのです。 このような交渉事も不可抗力事案では発生し得るでしょう。

また、各国政府による政策変更、通商措置、輸出入規制、制裁措置などは、その内容や契約条項の定め方によって、不可抗力、Change in Law、または契約上別途定められたリスク事象として整理される可能性があります。

不可抗力条項は、単に対象事象を列挙するだけでなく、工期延長、追加費用、通知手続、Change/VariationやChange in Lawとの関係まで含めて整理しておく必要があります。 海外建設プロジェクトでは、想定外の事態そのものよりも、契約上の整理が曖昧であることが、後の交渉や紛争を大きくする場合があります。 契約締結前の段階で、自社にとって許容できるリスクと交渉余地を具体的に確認しておくことが重要です。

以上


【執筆者】塚田 進

一級建築士、認定コンストラクションマネージャー(日本CM協会)。
1983年大手エンジニアリング会社入社。大型EPC案件の土木・建築を中心とした国内・海外プラント設計、海外現場管理を経験。エンジニアリング マネージャー、建築部部長代行を経て、2006年同社インドネシア法人社長に就任。700余名の現地社員を率い2014年まで企業運営とインドネシア国内中小案件をリード。海外駐在は、インドネシア、UAE, タイ、イラン、中国、カタール等、延べ15年以上に及ぶ。2016年株式会社シーエムプラスに入社。 国内外固形製剤工場、食品関連工場、医療機器製造設備等において顧客側コンサルタントとしてプロジェクトマネジメント業務(基本設計、ゼネコン引合い・評価、遂行管理等)に従事。


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