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海外工場建設プロジェクトの進め方-VOL.5

海外工場建設プロジェクトの進め方-VOL.5

海外工場建設プロジェクトの進め方(10回シリーズ)

第5回:契約書の注意点

海外案件では、国内案件に比べてプロジェクト遂行上のリスクは多大なものになります。建設のプロではない発注者としては、それらリスクを工事請負者にできるだけ担ってもらいたいと考えることは自然なものです。よって、追加費用や工期遅延リスクを最小にするため、海外においても日系施主様は基本的に設計・施工一括発注を主眼に置くことが多いのです。以下にその契約形態を前提に注意点をいくつか説明したいと思います。

1) 一般的な技術要求実行:
引合時点では、地下に何が埋まっているのかは不明なことがほとんどです。よって、通常は予期しない地中障害が発見された場合は、追加費用清算対象となります。これは、国内でも海外でも同じです。工業団地の土地を購入する場合は、すでに調査済みの場合も多いので安心できますが、工業団地運営母体に地中障害の有無の可能性確認はしておくべきでしょう。

2) 保険:
日本での組立保険、第三者賠償保険などは海外でも付保することは当たり前ですが、国によっては現場作業者への保険も義務付けられています。これらは契約書に明記されていなくとも日系工事会社ならほぼ必ず加入するはずですが、ローカル企業ではその保険費用さえ惜しむ会社が無いとも限りませんので、その国の法律を確認の上、必要であれば契約書で明記したほうが良いでしょう。海外では事故リスクも日本より多いと考えて施工者が付保する保険のカバー範囲を明確にしましょう。

3) 不可抗力(Force Majeure) :
日本では、建設業界で多く使われている契約書の雛形で不可抗力による損害は発注者がほぼ全額負担とされていることも多い(民法ではその義務が無いのに関わらず)のですが、海外では自然災害のような不可抗力は誰の責任でもないので損害は発生した企業でそれぞれ負担し、互いに相手に対して賠償請求しないという契約も少なくありません。(FIDICでは暴動などの人間の意思によって発生した事象に対しては発注者の負担を認めているようです。)ただし、不可抗力によってプロジェクト工程は必ず影響を受けますので納期遅延は発注者として認めざるを得ません。海外では暴動、テロなど日本ではあまり考えられない事象も発生し得るのでこの条項は発注者としてよく理解した上で契約書策定に臨むべきでしょう。

4) 履行保証(ボンド):
日本では大手工事業者が約束を反故にすることは、ほとんどないのでその必要性は低いのですが、海外のローカル工事会社に発注する場合は、そのようなリスクも考慮したほうが良いでしょう。例えば、見積書で低い金額提示に喜んで発注しようとしたら、「あれば間違い。撤回する。」とか、建設途中で「資金が無くなったので、追加費用を払ってもらわないと工事を止める。」とか、完成引き渡し後に不具合が出ても「そんなことは対応できない。」とか言われることがあり得ます。そのような場合、金融機関発行のボンドを行使すること(もしくは行使を匂わせること)でリスクを低減しようとするものです。工事業者としてはボンドとはある種の保険購入みたいなものですから、当然見積金額に含まれるでしょうが、工事業者の信頼度に確信が持てない場合は発注者側としては必要なコストと考えます。また、金融機関側も契約履行能力が著しく劣る企業にはボンド発行に前向きに対応しませんから、その意味でもこの要求を見積仕様書に含めることに意味はあるでしょう。

5) 工程遅延:
海外プロジェクトとは遅延するものと明言すると言い過ぎでしょうか。日本だと材料調達などもほぼ問題無いし、優秀な下請企業の存在もあって納期通りに完工することが普通のことですが、海外では日系大手ゼネコンといえど容易に達成できるとは限りません。よって発注者としては契約上で納期遅延の場合のペナルティー条項を盛り込むことが検討されます。工事会社側からするとこの遅延条項が過大なものであれば見積金額にもある程度のリスク費用を含ませる事になりますので、そのペナルティー金額の最大値には配慮が必要です。納期遅延によって発注者が被る逸失利益を考慮しつつ合理的に決定します。

6) 契約金額:
見積用図面がほぼ完成形で、その検証責任も工事会社側に要求している引合書であれば、一括請負(LumpSum)契約で揉めることも少ないですが、多くの場合は見積用図面と工事段階での詳細では差が存在しているでしょう。それらを公平に扱うために追加清算条項を契約書に盛り込みます。工事業者の立場では、減額金額は少なめ、増額金額は多めで請求する姿勢になることは容易に想像できます。 これらの評価を厳密に行いたいのであれば弊社のような専門コンサルタント(海外ではQuantity Surveyor Consultantと呼んでいます)に委ねることを検討せざるを得ないでしょう。追加交渉に煩わしさを感じている施主様が、普段から深い関係のある工事業者を選定された場合は、経営マネージメント同士で総額交渉を行うということもあります。いずれにしろ、最後になって揉めないように建設中の適切なタイミングでこの交渉は行うべきです。

7) 輸入:
国によっては輸入関税免除の優遇処置を得てその手続きをされている企業様もいらっしゃいます。その場合、建設業者が支払う輸入関税をどうするのかを契約書で明確にしておきましょう。そうしないと、本来免除してもらえる関税が工事業者の見積書に含まれてしまい、不要な出費になることもあります。また、海外では建設資材が工事工程通りに現場に届かないこともよくあります。アジアの途上国では輸入品も多く、遅延原因は主に輸送や通関の問題に起因しています。輸入関税免除条項を適用する場合、通関遅延責任がどちらにあるのかを明確にしておかないといけません。工事会社が主体性を持ってこの遅延を防止せざるを得ないような契約条項が必要と思います。

8) インフレーション、為替リスク:
途上国ではその国の通貨で支払うことを法律で規定している国もあります。工期が2年未満の案件では、通常状態であれば、契約書でインフレーションや為替リスクは工事会社が負うと規定しても良いでしょう。途上国の通貨は脆弱であり、現在コロナ危機の中で弱含みです。このような時期は特に為替変動の影響を受けて物価や労働者賃金も大きく上昇するリスクがあります。このような特別な事情下では事象によっては協議に応じるのがフェアだと思います。

上記とは別に、施主様が独自に製造機械調達する場合は、誰が輸入手続きを行うのか、誰が据え付けるのかなどを十分に検討しなければならないことも忘れないでください。

以上、主な留意点を列挙しましたが、国によっては正式契約書はその国の母国語で作成しなければならないとの法律が存在するところもあります。その作成費用や時間もプロジェクト工程に配慮しておくべきでしょう。

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