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第3回 企業の海外進出・展開のポイント(ASEANのコンサルティングの現場から)

第3回 企業の海外進出・展開のポイント
(ASEANのコンサルティングの現場から)

企業の海外進出・展開のポイント(ASEANのコンサルティングの現場から)

第3回:FS実施上のポイント 生産拠点としての進出/販売拠点としての進出

海外に拠点を作るにあたっては、多くの企業が入念に下調べを行い綿密な計画を作成して進出、というのが通常です。ただし、その項目や必要な深度は進出目的によっても異なってきます。本日はフィージビリティスタディに関し、私の経験の中で特に気にしなければならないポイント、見落としがちなポイントを中心にお話させて頂きます。

まず、生産拠点としてのみの進出、現地での販売を(も)目的とした進出とでは、当然ですが調査すべき項目は異なってきます。生産拠点としての機能のみの場合、販売先、数量や条件等は所与であるため、調査の焦点は生産に必要な要素の調達可否及びそのコストとなり、定量情報がメインとなってきます。一方で現地販売を企図している場合には製品・サービスの販売可能性が焦点であり、様々な定性情報を組み合わせた分析が必要になってきます。

生産拠点としての進出
①調査項目・注意点
上記の通り、生産に必要な要素を網羅的に抑えることとなります。「部材・原料」「人材」「生産設備・工場用地」「ユーティリティ」等が挙げられるでしょう。生産管理・工場部門の方がフィージビリティスタディを行うのが通常と思われますので、調査すべき項目が漏れるようなことは少ないでしょう。盲点となりがちなのはヒト、モノ、カネのうちのカネ、つまり資金の部分ではないかと思います。
資金のサイクルには①資金の投下〈投資資金〉②資金を用いた事業運営〈運転資金〉③獲得した資金の回収がありますが③の資金回収は事業の開始時点では見落としやすいポイントになります。多くの国で、海外からの資金受け入れについては積極的なため投資の実行は比較的スムーズに進められますが、資金の海外への持ち出しについては規制を設けています。配当に関しては、現地での源泉税徴収等はあっても送金に関しての制限は厳しくないことが多いですが、貸付金の返済や子会社から親会社への貸付については中央銀行等の事前許可が必要になる場合が多くあります。さらに、減資や会社の清算といった方法で事業開始の際に投下した資金を回収するのは、どの国においても非常に困難となります。事業を進め、ようやく利益が出るようになり、いざ回収、となった段階で行き詰ることが無いよう予め投資の金額やスケジュール、資金調達方法を検討しておくことが必要です。
また、運転資金についても落とし穴にはまるケースがあります。
例えば、材料は海外及び現地で調達、生産した全量を輸出する輸出加工型の事業を行っている企業があります。このような場合、材料の調達等で付加価値税(日本での消費税に相当)の支払が発生する一方、輸出販売では付加価値税の徴収義務が無いため付加価値税分の受取はありません。このような場合支払った付加価値税は全額還付を受けることが出来るはずなのですが、新興国では往々にして税務署からの支払が滞るケースがあります。毎月の材料調達×付加価値税率分が滞留債権として累積していきますので、利益は出ていても資金繰りが厳しいという状況に陥ります。
こういった資金に関するリスクの把握、対応の観点から、投資から回収までの長期、および日常の運転資金といった二つの時間軸での資金シミュレーションまで行っておくことが肝要かと思います。

②調査方法
労働者の賃金、電力の安定性や価格、物流コスト等、各国の統計や法律等を中心としたデスクリサーチで得られる情報も多くあります。しかし、新興国では実態が机上の情報と異なるケースが多々あります。前述した付加価値税の還付についても、法律上は回収できるルールとなっていても税務署やその担当者の判断により実態が乖離しています。その他にも、会社設立や工場建設にあたり許認可プロセスが異なり大幅に遅延する、材料調達にあたっての通関トラブル等、所定のルールのみからでは想定できない事態が日常的に起こり得ます。またルールとは関係ない部分でも、人材の採用・育成・処遇、現地サプライヤーとの関係等、デスクリサーチでは見えない現地での事業運営上の難しさがあります。
進出を想定するエリアで既に生産活動を行っている企業、工業団地運営者、会計事務所や弁護士事務所に広く、あらゆる角度から聞き取り調査をし、実態を示す現地情報を丹念に集めた上で進出計画を立てることが望ましいでしょう。

■販売拠点としての進出
①調査項目・注意点
販売を目的とする場合、抑えるべき論点はより広範囲となります。事業がBtoBなのかBtoCなのかでも異なってきますが、「市場規模・成長性」「競合環境」「ニーズ・購買要因」「業界構造」「消費行動」「商慣習」等が挙げられます。この中で、注意しなければならないのは、日本で常識とされている事柄が、現地で通用しないということが起こり得るということです。特に業界構造や、購買要因、商慣習等は日本と同じ前提で考えると全く見当外れになってしまう可能性があります。
業界構造という点では川上、川下の企業の概念が異なるケースがあります。日本ではきっちり川上の企業、川下の企業との役割分担がされている業界でも他国では川下の企業(自社にとっての買い手)が自社の領域まで浸食している、流通構造の中で卸売にあたる企業がほぼ存在せずメーカーが中間流通まで担っており、自社が販売展開するにあたり競合にあたるメーカーと組む、あるいは自社で流通機能までを備えなければならない、といった問題に直面したりします。
また、購買要因や商慣習といった観点では以下のような事例がありました。日本の設備・技術を用いて海外の国の社会的課題を解決するJICA事業のフィージビリティスタディのケースです。当初は当該設備を現地企業に買い上げてもらい使用してもらう、という事業を想定していました。パイロットテストを終え、設備・技術が有効に機能し課題解決につながることを確認、また市場調査を通じて当該設備・技術を用いた事業の採算性についても目途が付き、いざ現地企業との商談となったところで行き詰りました。
設備の投資金額約5億円に対して年間の収支見込は1億円強、また設備も15‐20年は使用可能であることから、我々は高い投資収益性が見込めると自信を持っていました。しかし、現地企業とは全く目線が合いませんでした。「投資回収に時間がかかり過ぎる」と言うのです。計算上、回収期間は5年弱であり日本的な見方では十分検討の遡上に乗るだろうと思ったのですが、彼らの目線は1-2年、長くても3年以下、でした。新興国では社会・経済情勢が変動し事業環境の変化が早いこと、金利も高く他にも多くの収益機会が存在すること、不動産投資と異なり担保価値が見込みにくく銀行借入等は長期での調達が難しい、等の背景があったのかと思いますが、改めて商習慣・考え方の違いを認識したケースでした。本件については結局、設備の売切ではなく、運営と収益化までを日本側が担い、現地企業に投資リスクを負担させない事業モデルの検討へと転換することとなりました。

②調査方法
上記のように、日本と現地ではビジネスの概念や目線が大きく異なることは少なくありません。そして、このような定性情報はデスクリサーチでは通常補足することは出来ませんので、現地でのヒアリングによる調査が欠かせません。特に販売を目的とする進出では、各業界により事情が異なる上、必要となる情報も多岐にわたりますので、業界における関係者、専門家や同業、サプライヤー、顧客等、金融機関等に対し幅広く、様々な視点から聞き取りを行うことが必要となります。BtoCの場合は、アンケート調査やパネルディスカッション等も消費者の理解のために有効な方法です。いずれの場合でも、進出した後で致命的な盲点が出てくることのないよう、日本での当たり前を疑いつつ、調査・フィージビリティスタディを行うことが肝要と考えます。

【執筆者】
山田コンサルティンググループ  牧村 拓哉

第2回:海外事業の成功について(現地化と差別化、また海外事業の成功とは?)