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海外工場建設プロジェクトの進め方-VOL.7

海外工場建設プロジェクトの進め方-VOL.7

海外工場建設プロジェクトの進め方(10回シリーズ)

第7回:設計開始

さて、設計施工会社が決定すると、実施設計がいよいよ始まります。設計施工の引合資料で要求事項が100%確定している案件は皆無です。よって、設計施工会社が決定したら、速やかにキックオフミーティングを開催し、施主側と請負会社側の直近のアクションを確認しましょう。海外案件ではこれらのアクションをFront End Action ListにまとめWeeklyで互いに確認してゆくことが重要です。 ともするとあまり進捗がないままであっという間に最初の1ヶ月が終わってしまいますので、引合図書をスタートポイントとして、その中身を発注者と設計施工会社のエンジニアが優先順位を明確にしつつ実施設計用条件を確認してゆきます。プロジェクトを予定通りに完成させるためには構造躯体設計が最優先です。よって、まずは階高と柱スパンの決定を急ぎましょう。その意味では引合資料作成段階でその要素を客先と基本設計コンサルタントの間でそれらについて確信を持てるぐらいには議論は完了させておきたいものです。 追加土質調査が必要な案件では、並行して請負会社にて平行して土質調査を実施してもらいます。

設計施工会社を決めてから構造に影響のあるような変更要望を提示するとプロジェクト全体の工程遅延を招きかねません。 一般的に構造さえ確定しているのであれば、他の設計は多少の変更があっても全体工程に影響を与えることはそうそうありません。実施設計段階で構造を確定させるという意味では、地上階(日本では1階、海外ではGround Floorと呼ぶ国もあります)の地下部の詳細を確定させることも重要です。 排水用地下ピット、スロープ仕上げ用の床下げ、排水管レイアウト、冷蔵倉庫断熱処理、周辺道路と室内床高さとの関係などを確定させてゆきます。

実施設計で構造の次に優先度が高いのは、(日本でも同じですが)建築確認申請用の図面作成です。国によっては環境アセスメントレポートも求められますので、請負会社にそのレポート作成も委ねるのであれば引合資料で要求事項は明記し、詳細設計段階でこのレポートも作成してもらいます。どの国もこれらの申請図書には国家資格が必要であり、引合時点で請負会社の提案書に有資格者(もしくは有資格協力会社)を明記してもらうことも重要ポイントになります。それぞれの国によって申請図書の要求事項や審査期間が異なることから現地の経験が豊富な請負会社を選定したはずですので、彼らに最速で建設許可を取得してもらうことが重要です。

もちろん、申請用設計と並行して工事用実施設計を進めます。海外では施主承認用図書発行をFA(For Approval)、工事用図書発行をFC(For Construction)と定義して請負会社から図書が発行されます。建設に慣れていない施主にとっては、FAで発行されても何をどう承認したらよいのかわからないものです。専門家でなければ当たりまえですね。故に、それを専門家であるコンサルタントに委託するか、本当に内容を確認して承認したい対象物をコントラクターと十分に協議して絞り込み、それ以外はコントラクターに全て任せるという判断も必用です。少なくとも使い勝手、耐久性、見た目に関係する図書、材料は承認対象にしておくべきでしょう。施主組織内スタッフで技術的に判断できないケースでは、あたかもおかかえ弁護士のようにアドバイスを求められる外部コンサルタントを時間清算契約で抱えることもありでしょう。もちろん、請負会社を全ての段階で管理してゆくことは不慣れな組織では、かなりの負担となりますので、コンサルタント(コンストラクションマネージメント会社)に全ての管理を任せることも一案です。

日系ゼネコンの設計力は海外においても安心感がありますが、案件規模や複雑な仕様レベルによっては、彼等からの提案書内容をより深く見てゆく必要があります。 具体的にどのような設計組織で遂行するのか? 下請現地設計事務所は? 日本本社設計部の支援は? など評価段階で確認しておきます。ともすると現地設計会社に設計を丸投げして現場で苦労するという工事会社も何社も見てきました。設計を現地設計会社に委ねている場合は元請会社の設計チェック体制についても確認しておきましょう。「設計施工なら、設計が多少間違っていてもなんとか収めてくれるはず。」という期待も、ある一面では正しいのですが、設計ミスが多発するようですと、工事途中で間違いに気づき、工程遵守のために不本意ながら本来の施主希望を修正して妥協せざるを得なくなるという事態もあり得ます。

途上国では設計指針が明文化されていない国もあります。故に海外案件において引合い条件で設計をどの基準に従って遂行するかを決定することは、弊社にとってもいつも悩みの種です。引合書では厳しめの国際標準を指定しておけば費用面では大きな問題にならないと考えておりますが、施主様が掛ける火災保険の条件として、防消火設計をアメリカ基準に準拠せよと求めてくる保険会社もありますので注意が必要です。もちろん、途上国でも明確な設計指針を定めている国もあります。しかし、それがその国特有の基準であるが故に、現地設計事務所や行政の判断に委ねざるを得ず、施主側の思惑と異なる行政指導を受け入れざるを得ないケースも散見されます。

実施設計では、生産施設設計特有の使い勝手に配慮する細やかさが求められることは日本でのプロジェクトと同じです。海外特有の注意点としては、一部の生産機材を日本から輸入することもあるでしょうから壁面コンセント含め、供給電圧、周波数には要注意です。電圧が異なるコンセントを壁面に設置する場合は形状や色を変えるなどの工夫が必要でしょう。また、見た目にこだわりたい施主様にとっては、仕上材料の選定も悩みの種になります。引合段階では費用の根拠となる材料仕様を指定しておきますが、実施設計段階では好みによって、それも修正したくなるものです。必要に応じてモックアップ作成も請負会社の役務に含めておいて、施主判断を容易にしてもらいましょう。玄関やVIPルームのディテールにもっと拘りたければ、そのようなエリアの仕上げを請負会社の役務から除いておいて、現地のインテリアデザイン事務所に提案させるという選択肢もあるでしょう。

すでに述べたように工事は躯体(コンクリートや鉄骨構造)から始まります。そこを無事工程通りスタートできれば、極端な変更でなければ、見た目に関する詳細な点は工事と並行して請負会社と議論可能です。ただし、日本と違って、その国で製造されていない材料は当然輸入となり、モノによっては現場に到着するまで長い期間が必要となることは忘れないでおきましょう。

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