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第4回 企業の海外進出・展開のポイント(ASEANのコンサルティングの現場から)

第4回 企業の海外進出・展開のポイント
(ASEANのコンサルティングの現場から)

企業の海外進出・展開のポイント(ASEANのコンサルティングの現場から)

第4回:海外展開検討を行う上での視点① Why/What-目的・ビジネスモデル

本コラムでは海外進出におけるポイントについて連載しておりますが、今回から5回に分けて5W1Hという切り口で書かせて頂きます。今回はそのうちの1回目、Why/What-海外進出の目的やビジネスモデルがテーマです。

■ Why-海外進出の契機と目的
「社長が現地の知人から(あるいは知人の知人から)、良いビジネスチャンスがあると誘われた」ことを契機として海外進出したという話を伺うことがあります。このようなケースでは既に何かトラブルが生じていたり、あるいはトラブルになりそうな状況に陥っていることも多く、注意すべき進出経緯の一つです。
海外進出にあたっては、このような外発的な動機と内発的な動機の2つがあり得ます。内発的な動機というのは、全社の経営戦略・経営計画があり、これに基づいて海外進出を進めるパターンです。各事業単位から進出案を上程する場合もあるでしょう。進出先やビジネスモデル、人材の選定等、しかるべき調査・分析をもとに計画的に進められるケースが多く、失敗に終わるケースは相対的に少なくなります。
一方で外発的な動機には

①現地の企業・個人から共同事業を持ちかけられて(上記のようなケースを含む)
②得意先の進出にあたり打診を受けて
③同業他社が進出しているのを見て

といったパターンがあります。

①「社長の知り合いから」というのは要注意ワードではありますが、現地から打診を受けるということは、ビジネスチャンスがあり得るということでもあります。現地の市場や業界、また特にパートナーとなる相手先についてしっかり調べた上で勝算があると判断できるのであれば、新たな成長の機会を得ることにもつながります。

②は製造業で多いパターンです。受注・売上がある程度約束されているため、一見リスクが小さいように見えます。しかし得意先が現地拠点の生産体制を大きく変更(生産品目の変更、ローカルへの調達切替、閉鎖・縮小・他国への移管、等)した場合には、一気に事業継続に窮することになります。長期的には少なからず生じ得る事象ですが、進出後2、3年という投資回収も終わっていない段階でこのような状況に陥ってしまうケースも多く見られます。こういったリスクを織り込んだ上での投資判断、また簡単ではないですが販売先の多様化といった対応も必要ですが、比較的リスクが過小評価されがちなのがこのパターンです。

③「競合のA社が進出しているので」というだけで進出を決めてしまうのは危険ですが、、競合が進出しているには目的、背景があると考え、これを契機に進出を検討するのであれば、筋の悪い話では無いと思います。1990年代には、中小企業に至るまであらゆる製造企業がこぞって中国に進出しました。単に横並びで進出しただけでも相応に利益をあげられた企業もあります(時代の変遷とともに撤退していった企業も多くありますがが) 製造業の場合は、進出企業が増加することで現地のサプライチェーンが発達、ローカル調達が可能となり、安価な労働力に加えたコスト優位も得られるようになりました。輸出加工型のモデルであれば、同業他社が進出したとしても現地での受注競争が激化するということもありません。逆に進出しなければコスト競争で競り負けて淘汰されてしまうという状況だったとも言えるでしょう。

業界は異なりますが日本各地の地方銀行も主要なアジア、欧米の各都市に現地法人や駐在事務所を設置しています。各地方からの海外投資動向、資金需要に照らすと、採算の点では疑問のあるような場合もありますが、これらは日本国内における営業域内の企業に対する情報提供が主な目的と推察されます。逆に現地拠点がないことで既存顧客に対する情報提供の点で、競合金融機関に差を付けられてしまうという面があり、これを避けるために事業上、戦略的に拠点を置いている所も多いのではないかと思います。

やはり外発的な動機による場合、内発的な動機から進める場合に比べると、調査・検討プロセスにおいて「進出ありき」で進めてしまい、主体性の薄い計画となりやすく、結果的にうまくいかない傾向はあります。ただし外発的な動機から進めるべきでない、ということではありません。進出しないことが機会損失、あるいは全社としての競争力喪失に繋がる可能性もあります。動機は動機として、進出することが全社の視点から適切な選択肢なのか、現地の市場や業界全体の文脈、自社の置かれている状況に照らして検討し、進出の目的を明確にしていくことが肝要です。

■ What-どのような事業を海外で行うのか
海外進出において、「何の」事業をするかという問いが生じるケースは少ないと思われます。基本的にはどの会社でも自社の主力事業を前提として考えます。ただし、ビジネスモデルまで含めて同じ事業を展開しようとしている会社は多くはないかもしれません。

東急グループは100年近くに渡り関東を中心に鉄道を核として地域開発を進めてきた企業グループですが、その中核企業である東急電鉄は2012年からベトナム、ホーチミン近郊のビンズン省で現地企業のベカメックス社と共同で都市開発をスタートしました。タウンシップを超えた規模で住宅、オフィス、商業施設に留まらず交通その他の生活インフラまで開発する広域プロジェクトです。日本には鉄道を中心に地域開発を進める会社は多数ありますが、このモデルを海外で展開している会社はまだありません。本プロジェクトは幹部ではない、とある社員の「国内市場が頭打ちとなる中で自社の中核である「街づくり」を成長性の高いアジアの新興国で展開することで、自社が創業以来辿ってきた成長の軌跡を再度実現したい」という強い想いが発端となっています。
自社のコア事業といっても鉄道という核が無い中、海外で広域開発を進めることの難易度は決して低くはないと思いますが、蓄積されたノウハウやネットワーク、グループの経営資源を挙げて住宅販売や商業施設・オフィスでのテナント獲得等着実に実績を積み上げてきています。時間はかかるかもしれませんが、長期的には企業的にも社会的にも大きなインパクトを残す意義のあるプロジェクトと言えるでしょう。

一方で、国内と全く異なる事業を展開している例として、マルハンがカンボジア等の東南アジアで展開している銀行があります。日本のパチンコホールの大手企業が、海外で銀行業を行っているのは驚きです。
経営学においてアンゾフのマトリクスという考え方があります。新製品・新サービスを新たな顧客に展開する事業の成功確率は非常に低いというセオリーですが、2007年にカンボジアでマルハンジャパン銀行が設立された5年後の2012年には黒字化を達成しました。2016年には現地企業サタパナ社を買収、富裕層への銀行サービスに加えマイクロファイナンスを事業の柱とすることで高い成長性のある現地需要を取り込むことに成功し、国内トップティアの銀行となりました。
このような異業種への参入の背景には、韓国出身である韓昌祐マルハン会長の頭の中に1980年代に在日韓国人実業家有志により設立され、現在有数の銀行に成長した新韓銀行のイメージがあったと言われています。官製金融が中心だった当時の韓国で、民間の行き届いたサービスを提供する銀行は少なく、成長途上の国での高い資金需要を取り込むことに成功したモデルをカンボジアでも再現できると考えたそうです。完全な異業種からの参入であるため、当然ながら外部から経験豊富な人材を登用し中核に据え、経営ノウハウについても完全に外から注入した形です。

東急がビジネスモデルまで含めて自社の既存コア事業を海外展開しようとているのに対し、とマルハンは全くの異業種を海外で手掛ける、という点で非常に対照的ですが、かつて成長途上にあった日本(あるいは韓国)で成功している勝ちパターンを、現在近しい状況にある国で再現しようとしていること、競争がまだ苛烈となっていない中で潜在的な需要が大きいマーケットを取りに行っているという点で共通しています。
この2つの視点は非常に重要で有用と考えています。私が担当した進出プロジェクトの中でも、自社が日本で成長してきた時代背景と要因、および現地における需要に重点を置いて調査・分析した結果、プロジェクトを進める中で具体的な商談に結び付き、また海外現地での将来的な事業の広がりの可能性までを見出すことが出来た事例がありました。これについては時間軸での視点も入ってきますので、詳細については第6回の「When-時期・実行可否の見極め」をテーマとしたコラムの中で触れていきたいと思います。

【執筆者】
山田コンサルティンググループ  牧村 拓哉

第3回:FS実施上のポイント 生産拠点としての進出/販売拠点としての進出