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海外工場建設プロジェクトの進め方-VOL.9

海外工場建設プロジェクトの進め方-VOL.9

海外工場建設プロジェクトの進め方(10回シリーズ)

第9回:完成直前、引き渡し

施設の工事が順調に進む一方で、完成・引き渡し前までに完了させておくべき事項がいくつかあります。ここでは、それらについてお話しします。

当たり前ですが、まずは新工場運営のためのスタッフ確保作業です。工場完成・引き渡しから速やかに工場を立ち上げるため、オペレーションに必要なスタッフを雇用したり教育したりする必要があります。工場が完成しても従業員が準備できていなければ、生産開始できないですね。企業様によってその準備期間は様々ですが概ね工場完成の6ヶ月前ぐらいには初期のオペレーションメンバーを組織しているようです。その社員に工場完成前検査や総合試験にも立ち会ってもらい設備に慣れる時間も確保しています。しかしながら、新たに現地国で優秀な工場長や製造責任者を雇用するのはそう簡単なことではありません。日本の工場での研修も時には必要でしょうから現地従業員重要ポストのリクルート活動はどんなに早くても早すぎるということはないでしょう。すでにご参照されている方もいらっしゃるでしょうが、弊社海外情報ホームページにはアジア各国の給与レンジ資料も随時アップデートしていますのでぜひご参考にしてください。

次に、完成直前の重要作業は、全ての設備が設計通りに作動するか、期待する能力を有しているかを確認する検査となります。余談ですが日本では当たり前にできる検査・試験でも、海外ですと検査ツールを海外から持ち込まないといけない項目もあります。そのような場合に、高価な検査機械を安易に持ち込もうとすると輸出入税の対象になったり、首尾よく持ち込んだとしても持ち出す時に余計な手続きが必要になるなど注意が必要ですので、一時持ち込みとする機材については、法的な手続きは十分時間的余裕を持って確認しておきましょう。

引き渡し前の試験に立ち会うためには、事前の知識習得時間もかかりますが、現地社員にとっては良い勉強の機会となるでしょうから、施主として積極的に取り組むことをお勧めします。そのような施主の姿勢は施工会社にとってもスムーズな引渡作業に有効となりますから前向きに協力してくれるでしょう。ただし、行き当たりばったりの協力依頼を完成直前のドタバタした状況で持ち出しても、対応は後手に回ってしまいますので、試験要領を協議している段階でどの項目に参加するのか議論しておきましょう。ちなみに、プロジェクトによっては、作業員育成メリットがあるので試運転要員を施主側が全て提供するという契約さえ存在します。

工場完成前の試験を実施するために、工事進捗に合わせて工業団地から用役(ユーティリティー)の供給を開始してもらいます。電気、給水、排水、ガス、軽油など施設に必要なものを必要なタイミングで供給してもらえるよう手続きを済ませておきます。工業団地によって申請先も異なりますので基本設計段階ではおおよその手続き方法、費用などは確認しておくべきでしょう。項目によっては申請から供給まで長い期間がかかる場合や予想外の費用を請求される場合がありますので注意が必要ですが、通常、工業団地を選択する段階で弊社のようなコンサルタントの調査サービス項目にも含まれておりますので、忘れさえしなければ大きな問題になることはあまりありません。

さて、最後の試運転検査実施記録や工事品質検査記録は、日常的に書類が増加してゆきます。工事開始時点で施工会社から記録ファイリング方針の説明を受けて合意しておき、いつでも閲覧可能な状態にしておくと、引き渡し直前に記録がどこかに逸散してしまう事態を避けられます。電子的に全ての記録が整理されていると保管場所も不要でどこからでもアクセスできますので好ましい方策です。施工会社と施主双方に有益な検査記録管理方法を工事初期段階で合意することを推奨いたします。理想を言えば契約段階で合意しておくことがベストですが、なかなかその時間が取れないのが実状です。

さて、無事全ての試験が合格したら、いよいよ引渡に向けて最終段階です。
一般的には引渡し時には以下のような書類が整備されていることが望まれます。

1)運転マニュアル、メンテナンスマニュアル(いわゆる取扱説明書です)
2)スペアパーツリスト(海外ですと輸入品も少なくないので2年間分を引き渡し時に施工会社に収めてもらうことを契約条件にしているプロジェクトもあります。)
3)検査記録
4)手直し残務リスト
5)完成図書(竣工図)
6)保証履行ボンドもしくは支払保留(リテンション)合意書

 

上記4)について少し補足します。工事がほぼ完成していても、施主最終検査で指摘事項がいくつも出てくることは常です。よって、この指摘事項リスト(英語ではPunch Listと呼ばれます)の中で項目毎に、A)引き渡し前に完了させるもの、B)引き渡し後でかまわないが、完了日を保証の起算日とするもの、C)保証と関係のないごく軽微なものなどに区分します。引き渡し書類にサインをした日から、施設の管理責任が施主に移行しますので、施工会社の残務工事は都度施主の許可を得て作業することになります。この煩わしさもあって、施工会社側も残務はできるだけ残したくないので、Punch Listを速やかに完了させたいとの意思が働きますので、ダラダラと作業が続くことは少ないと思います。

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