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海外建設プロジェクトにおけるコスト管理-VOL.1

海外建設プロジェクトにおけるコスト管理-VOL.1

海外建設プロジェクトにおけるコスト管理

このシリーズでは海外プロジェクトにおける建設費について概説していきます。「海外工場建設プロジェクトの進め方 - VOL.3」にて、現地会社に発注する場合、日系ゼネコン等に一括発注する場合などについて、費用やリスクについて概説しました。今回は、プロジェクトのコスト管理について、下記3回の記事でもう少し詳しく説明していきます。

1. 建設費の国際比較
2. 発注方法とコスト管理
3. 請負とLump sumとの違いとQSの役割

1. 建設費の国際比較

アメリカの建設コンサルタントTurner& Townsend社が昨年の2021年、コロナ禍における世界各国の建設会社動向調査を発表しています。

この報告書によると、世界で最も建設費が高いのは、東京となります。この調査では、4種類の建物の建設費の平均で比較しています。■商業ビル(20階程度)■大規模ショッピングセンター ■大規模配送センター ■中規模集合住宅。
この報告書では各都市の建設労務単価も記載されているので、主な都市の建設平均単価と合わせて下表に転記します。USD/m2

建設費
USD/m2
労務費
USD/時
建設費
USD/m2
労務費
USD/時
東京 4,001.5 31.3 ムンバイ 505.6 1.3
サンフランシスコ 3,720.0 104.9 ホーチミン 689.0
ニューヨーク 3,511.0 109.9 ジャカルタ 736.6 1.4
ロンドン 3,203.0 51.3 上海 805.9 6.4
シカゴ 2,935.0 74.5 マニラ 853.2
ミュンヘン 2,400.5 62.6 クアラルンプール 908.6
パリ 2,221.5 52.0 モスクワ 916.6
シンガポール 2,079.7 19.9 ドバイ 1,252.6 6.4
オークランド 2,069.4 47.1 ソウル 1,539.5

東京の建設費が他国と比較して高いのは、耐震コストが理由の一つです。アメリカのサンフランシスコがニューヨークよりも建設費が高いのは、サンフランシスコも日本と同じ地震地域だからです。一般的には、建物は耐震化により、総工事費が1割から2割高くなります。しかし、東京はヨーロッパより労務費が安いのに、パリと比較すると2倍近い建設費となるのは、日本の建設システムが特異な方式であるからと思われます。調査では、日本の労務単価は安いが、建設工事に投入する労働時間が他国と比較すると非常に多く、工事の労務総額は日本がアメリカより高くなっているとのことです。アメリカの労務費と日本とは約3倍の開きがありますので、もしこの調査分析が正しいとすると、日本ではアメリカより3倍以上の手間をかけていることになります。

日本の建設市場は伝統的な工法を維持する傾向が強く、技術革新がなかなか浸透しないようです。また、建材もJIS規格となっているため、他国から自由に建材を輸入できないために高値となっているとも言われています。

この調査では、間接工事費についても報告しています。間接工事費とは、建物を建設するための建材費や工事労務費の他に必要な、仮設費、建設会社の事務経費、及び建設会社の諸経費(利益)のことです。東京は、間接工事費率27%という結果となっていて、アジア平均18.7%、ヨーロッパ平均17.4%、アメリカ平均14.7%を大きく上回っています。このように、高い間接工事費率となっているのは、建設需要が堅調であることや、建設産業の人手不足も影響して、ゼネコンの受注残が多いためです。日本は少子高齢化社会であること、同時に世界有数の治安が安定した投資適任国であることを考えると、この堅調な国内建設市場の傾向は今後も当面続くと思われます。

日本の建設工事費が高いもう一つの理由は、契約方式が請負方式であり、費用が十分に開示されていないためです。海外では、工事費を厳しく管理する専門家 Quantity Surveyor QSがいますが、日本ではこのようなQS制度がありません。このQSに関しては、第3回で解説します。

海外に事業展開する場合、建設工事は日系ゼネコンに一括発注する事例が多いですが、このように建設費の国際比較をすると、日系ゼネコンによる工事は比較的高額となることを理解しておく必要があります。

次回は、海外の工事において、日系ゼネコン一括発注ではない発注方法において、コストやリスクについて解説します。

【執筆者】
シーエムプラス海外情報発信HP事務局

海外建設プロジェクトにおけるコスト管理-VOL.2


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