マレーシア・ジョホール州、「JS-SEZ」視察レポート
― 豊富な電力供給を背景にデータセンター開発が加速 ―
2026年9月18日、当社(株式会社シーエムプラス)はジョホール・シンガポール経済特区(JS-SEZ)の現状を確認するため、マレーシア投資開発庁(MIDA)Johor事務所、および同特区の主要開発事業者であるJLand Groupを訪問しました。両者への訪問後、その足でJS-SEZのフラッグシップの一つであるKulai-Sedenakエリア(通称「F地区」)へ向かい、現地の開発状況を視察しました。本稿では、その訪問の様子と、日本企業にとっての示唆をご報告します。

今回視察したF地区(Kulai-Sedenak)は、シンガポールとの国境(A・B周辺)
から北西の内陸エリアに位置する
MIDA Johor事務所を訪問 ― 進出企業向けの優遇制度を確認
最初に訪れたMIDA Johor事務所では、JS-SEZ内の各フラッグシップゾーンに設けられている税制優遇について説明を受けました。中でも、Kulai-Sedenakエリア(Flagship F)は、AI・量子技術サプライチェーンに加えて医療機器・製薬も優遇対象分野の一つとされており、投資額(土地を除く)5億リンギ以上のプロジェクトであれば法人税率5%が適用され、投資額の規模に応じて最長15年間にわたり優遇を受けられる仕組みです。
JLand Groupを訪問 ― JS-SEZ開発の中核を担う地場デベロッパー

JLand Groupの概要
JLand GroupはJohor Corporation(JCorp)傘下で不動産・インフラ開発を担うグループ企業です。JCorpグループ全体の純資産(NAV)は約26億リンギにのぼり、主要5社は、JPG(プランテーション)、KPJ(アジア有数のヘルスケア企業)、JLD/JLG(不動産・インフラ、産業団地・住宅・商業開発が中心)、QSR(KFC・Pizza Hutをジョホール、シンガポール、カンボジア、ブルネイで展開するSME/フランチャイズ事業)、JCG(インフラ・グリーンエネルギーを扱う新設部門)で構成されています。三菱商事とはPasir Gudangで合弁事業を実施しており、国際化を機に社名を「Johor Economic Development Corporation」から「Johor Corporation」に変更した経緯も伺いました。
保有用地とJS-SEZ関連開発
グループ全体の開発用地は約5万エーカーにおよび、うちジョホール州内の産業用地は約1万2,500エーカーです。最新の開発区画「Deep Tech Technopole」は約7,250エーカー、目標GDPは65億リンギとされ、データセンター、先端技術、製薬、関連製造業の誘致が主眼です。34の産業団地を開発・管理しており、現在稼働中は以下の4団地とのことでした。
| 団地名 | 規模・特徴 | 誘致対象 |
|---|---|---|
| ①Iskandar Tanjung Kelana/Sedenak(Intech) | 7,000エーカー超、うち1,500エーカーをデータセンター用地に充当。JS-SEZ中核エリア | E&E、製薬、食品包装等 |
| ②Tanjung Langsat | 4,000ヘクタール超 | 重工業 |
| ③Pengerang | 石油・ガス/石油化学、用地の余地あり | 化学産業 |
| ④Bunguran | 当初は石油化学ハブ構想。電力供給余力を背景に転換検討中 | データセンターハブ(転換中) |
また、SedenakのEsplan(仮称)エリアは全582エーカーの段階開発で、半導体・先端製造・R&D誘致を目指し、大学キャンパス(周辺に学生約2万人の人材プール)、国際学校、住宅地を含む複合開発が計画されています。第1期は体験センター・交通ハブ、第2期は産業団地、第3期はコミュニティ・教育エリアという段階構成です。
なお、上表①のIntechエリアも製薬を誘致対象の一つとしています。
データセンター需要とインフラ(電力・水)
シンガポール側の電力供給制約(1案件あたり上限20MW程度)や水資源制約を背景に、Princeton Digital Group(シンガポール系)等がジョホールへの移転を検討しており、TikTok、Bridge Data Center、SK Telecom、Netflix等がすでに進出しているとの説明を受けました。ジョホールは地盤が平坦で地震・台風リスクが低く、既存275kV変電設備で約800MW、新設予定の500kV系統で約1GW相当の追加供給力が計画されており、データセンター立地に適した環境が整っています。
上水については、現状は河川水を浄水処理した上水(potable water)を供給しており、産業エリア向けに貯水タンク・リサイクル設備を新設予定とのことです。製薬業向けにはプロセス用水・蒸留水等の大量かつ良質な水需要にも対応可能で、必要水量を事前に共有すれば技術チームを交えて個別に供給計画を検討するとの説明を受けました。一方、排水については中央集中処理施設はなく、各企業が自社でSTP(排水処理設備)を設置し、Department of Environment基準(Standard A/B)に適合させた上で放流する仕組みとのことです。
許認可・行政手続きにおける支援体制
JLand側は土地・インフラ(造成、上水、電力、道路)の提供に加え、建築確認(Building Plan Approval)等の地元自治体対応について、専任チームによる「グリーンレーン」(優先処理)対応を提供しています。事業許可・製造ライセンス・投資インセンティブ等の連邦レベル手続きはMIDAが所管し、州レベルではIRDA、Invest Johorも支援機関として関与します。セランゴール、ペナン、ジョホールの3州は、マレーシア国内でFDI対応の経験が最も豊富とのことで、州ごとに手続き基準が異なる点には留意が必要です。労働力については、マレーシア国内での労働移動は活発で、高度技能人材は大学からの供給に加え、必要に応じ外国人エキスパット(技術者、3〜5年程度の期間)の受け入れも可能とのことでした。
F地区(Kulai-Sedenak)視察 ― 電力・土地に恵まれ、データセンター建設ラッシュ
JLand Groupへの訪問後、その足でF地区(Kulai-Sedenak)へ向かいました。現地で最も印象的だったのは、大規模データセンターの建設が相次いでいる光景です。Bridge Data Center(BDC)をはじめとする海外系データセンター事業者の施設が、広大な敷地に次々と立ち並んでいました。
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BDC(Bridge Data Center)の施設。冷却設備や変電機器が屋上・敷地内に整然と配置されている
現地を車で移動する道中でも、この電力供給を支える大型送電鉄塔と変電設備が随所に見られ、JLand側から聞いた電力インフラの厚みを実感しました。
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(左)敷地内に立ち並ぶ高圧送電鉄塔と変電設備/(右)建設が進む産業エリアの様子
また、道路沿いには建設中の大型施設も多く見られ、まさに開発ラッシュの最中にあることを肌で感じました。
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(左)鉄骨・足場が組まれ建設が進む大型施設/(右)稼働中のデータセンター群。屋上には冷却設備が林立する
JS-SEZ 投資優遇制度 ― 進出企業向けインセンティブの概要
MIDA・JLand双方への訪問を通じて、JS-SEZ進出企業向けの優遇制度についても最新情報を確認しました。マレーシアでは2025年以降、従来の一律的な免税制度から、資本投資額・雇用創出・技術導入といった具体的な成果に連動する「アウトカム・ベース」の優遇へと制度設計が転換されています。
JS-SEZフラッグシップ別の優遇措置
2025年1月8日に発表されたJS-SEZ優遇パッケージは、9つのフラッグシップゾーンのうち7ゾーンを対象とし、地域・業種ごとに優遇内容が細かく設計されています。
| フラッグシップ | 対象分野 | 主な優遇内容 |
|---|---|---|
| A:Johor Bahru Waterfront B:Iskandar Puteri |
グローバルサービスハブ (地域統括機能等) |
特別法人税率5%、15年間 |
| C:Tanjung Pelepas | スマート物流施設 | ITA100%(法定所得100%相殺)、5年間 |
| D:Tanjung Langsat-Kong Kong | 川下特殊化学品製造 | 特別税率5%/10%(各10年) またはITA100%/60%(各10年) |
| E:Senai-Skudai | 航空宇宙製造・MRO | 新規:税率5%(投資額5〜10億リンギで10年、10億リンギ超で15年) 既存:ITA100%(5年) |
| F:Kulai-Sedenak | AI・量子技術サプライチェーン 医療機器、製薬 |
同上(E区分と同スキーム) |
| G:Desaru-Penawar | 統合型観光開発 | ITA100%(法定所得70%相殺)、5年間 |
| H:Pengerang(PIPC) | 石油化学製品製造 | 2024年度予算にて別途優遇措置を発表済み |
| I:Forest City特別金融区 | FCSFZ内企業・個人 | 2024年9月20日発表の包括的優遇パッケージ |
共通要件:資本金250万リンギ以上、投資額(土地除く)5億リンギ以上(区分により異なる)、マレーシア人雇用比率・高付加価値職の一定割合確保等。
申請受付期間:2025年1月1日〜2034年12月31日。
出所:MIDA「Guideline on JS-SEZ Tax Incentive Package(V2/2025年4月)」および訪問時の説明をもとに当社作成。
そのほかの主要優遇制度
JS-SEZ固有の優遇に加え、以下のような全国レベルの制度も活用可能です。
| 制度 | 対象 | 主な優遇内容 |
|---|---|---|
| NIF(New Incentive Framework) | 全業種 | 経済複雑性向上・高付加価値雇用創出等の成果指標に連動した優遇。製造業は2026年3月適用開始 |
| SLC(Smart Logistics Complex) | 自動倉庫・スマート物流施設 | ITA60%、5年間(延床30,000㎡以上等の要件) |
| GITA/GITE(MIDA所管) | グリーン水素、廃棄物管理、EV充電、太陽光リース等 | ITA100%等、案件により最長10年 |
| GITA Asset for Own Consumption(MGTC所管) | 自家消費用グリーン資産 | MGTCが別途所管。2024年実績で業界全体748.68億リンギの投資効果 |
日本企業への示唆
今回の視察で確認できたJS-SEZの開発状況や優遇制度は、データセンターに限らず、医療機器・製薬、さらには食品関連の企業にとっても、将来的な選択肢の一つとなり得ます。MIDA・JLandの担当者からも、こうした分野の進出に前向きな姿勢が伺えました。今後のインフラ整備の進捗も踏まえながら、引き続き動向を注視してまいります。
当社では、こうした現地の最新動向を踏まえながら、日本企業のマレーシア進出における事業計画策定から、MIDA・JLand等の現地機関との折衝支援まで、一気通貫でサポートしております。マレーシアでの拠点設立をご検討の際は、お気軽にご相談ください。
※出所を明記した図版を除き、本文中の写真はすべて当社撮影。記事の内容は2026年9月時点の情報に基づきます。JS-SEZの優遇制度は今後変更される可能性があるため、最新情報はMIDAの公表資料をご確認ください。





