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変わるベトナム中部 -ダナン自由貿易区とフエに見る新たな製造拠点(1)

変わるベトナム中部 -ダナン自由貿易区とフエに見る新たな製造拠点(1)

変わるベトナム中部
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ダナン自由貿易区とフエに見る新たな製造拠点(1)

ベトナム南北約3,260kmに延びる海岸線の、そのほぼ中央に位置するダナン市。 ハノイ市から約760km、ホーチミン市から約960kmの距離にある、ベトナム中部経済をけん引する代表都市です。2025年7月の行政改革により、旧クアンナム省と旧ダナン市が統合され、新たなダナン市が誕生しました。面積は約1,285 km² から約11,860km²と、約9倍拡大され、ベトナムの9つの中央直轄市の中で最大です。ダナンの海岸線には数々のリゾートホテルが立ち並び、また、日本人にもよく知られた観光地である世界遺産の古都ホイアンを有します。世界的に著名な設計家によるゴルフコースがあることでも有名です。コロナ禍で大きく落ち込んだ観光客数も順調に回復し、2024年には約1,090万人と、コロナ前の2019年を約27%上回る水準となりました。

一方、ダナン市の北に隣接するフエ市は、歴史と文化の街といえます。1802年から1945年まで続いたベトナム最後の王朝「グエン朝」の都が置かれ、現在も王宮をはじめとする歴史的建造物が数多く残り、「フエの建造物群」はユネスコ世界文化遺産にも登録されています。市内を穏やかに流れるフォン川(香江)を望むフエの街並みは、賑わいを見せる観光都市ダナンとは異なる、落ち着いた趣を感じさせます。

こうした観光・歴史都市として知られてきたダナンとフエで、いま、新たな工業開発の動きが明確になってきています。

今回は、製造拠点という視点からダナン市とフエ市を捉え、それぞれの投資環境と、開発の進む工業団地を3回に分けてご紹介します。

ベトナムにおけるダナン市・フエ市の位置
ベトナムにおけるダナン市・フエ市の位置 資料提供:Investment Promotion Agency (IPA), Da Nang

ダナン市の新たな成長エンジン – 工業・建設業

コロナ禍前の2019年、ダナンを訪れた宿泊施設利用客は約804万人に達し、観光は市の基幹産業として成長を続けていました。これが、新型コロナウイルスの感染拡大によって状況は一変します。2021年には宿泊施設利用客が、約85%減まで落ち込み、外国人に至っては、2019年比で約97%減少、観光を中心とするサービス産業への打撃は市経済全体へと波及します。2020年、当時の全国63省・中央直轄市のうち、域内総生産(GRDP)がマイナス成長となったのはわずか5省・市でした。その中でダナン市は前年比約9.8%減と、全国で2番目に低い成長率を記録し、経済は大きく落ち込みました。

こうした国際観光への依存度の高さゆえに大きな影響を受けた経験を経て、ダナン市は、観光・サービス産業のさらなる成長を図る一方、製造業やハイテク産業など新たな成長分野の育成を通じ、産業構造の多角化を推進しています。

2026年5月15日付のVietnam Newsの中で、ダナン市党委員会書記のLê Ngọc Quang氏は、「サービス産業を主要な柱とし、工業・建設業を成長のエンジンとする」との方針を示し、また、Ngô Văn Tuấn財務大臣も、観光・サービス業がダナンの経済構造の半分以上を占めていることに触れたうえで、「2桁の経済成長を持続させるためには工業の発展が不可欠」との認識を言明しています。

サービス業を引き続き主要な柱としながら、工業・建設業を新たな「成長エンジン」とする――。ダナン市は、ハイテク、電子、精密機械など、より付加価値の高い産業の育成・誘致に力を入れ、新たな産業基盤の形成に動き始めています。

その新たな産業基盤の受け皿として注目されるのが、ダナン自由貿易区(FTZ)と新たに開発の進む工業団地です。  

ベトナム初の自由貿易区(FTZ) – ダナン自由貿易区

ベトナムでは、2026年8月末現在、3か所の自由貿易区(FTZ)が正式に設立されています。

自由貿易区 特徴 正式設立日 決定番号 面積 エリア 主な機能・特徴
ダナン自由貿易区 製造・物流に加え、商業・サービス、デジタル・IT、イノベーションまで含む複合型FTZ 2025年6月13日 首相決定 1142/QĐ-TTg 約1,881 ha リエンチュウ港周辺およびダナン市西部の非連続7区域 製造・物流、商業・サービス、デジタル・イノベーション
ハイフォン自由貿易区 北部最大級の港湾・工業集積を背景とした港湾・工業型FTZ 2025年10月13日 ハイフォン市人民委員会決定 4068/QĐ-UBND 約6,292 ha ハイフォン南部沿岸経済区、ディンヴー・カットハイ経済区内の非連続3区域 生産、港湾・港湾物流、物流センター、商業・サービス等
ホーチミン市自由貿易区 カイメップ・チーバイ港湾群を背景とした港湾・物流型FTZ 2026年7月23日 市人民委員会決定 4560/QĐ-UBND 約4,174 ha カイメップ・ハ深水港周辺の一体的なエリア 深水港・港湾物流、工業・生産、物流センター、鉄道・内陸水運等

 

ベトナム初の自由貿易区がダナンに誕生した背景

ベトナムで最初に自由貿易区(FTZ)が設立されたのが、ダナン市です。その背景には、ダナンを中部地域の成長拠点として発展させようとする、国の中長期的な戦略がみられます。

2019年に、「2030年までのダナン市建設・発展、2045年までのビジョン(決議43-NQ/TW)」がベトナム共産党中央政治局より発行され、その後のダナン市の開発指針となります。そこでは、ダナンをベトナムおよび東南アジアの主要な社会・経済拠点へ発展させる方向性が示され、観光・高品質サービスに加え、港湾・物流、ハイテク産業、IT・電子・通信などが重点分野に位置づけられました。

この段階では、まだ「自由貿易区(Khu thương mại tự do)」という制度は、明確に打ち出されていませんが、2024年5月、この「決議43-NQ/TW」の実施を継続し、2045年までの展望を示すものとして、「結論79-KL/TW」が発表されます。この中で、自由貿易区の形成、金融センター、イノベーション・スタートアップ拠点、全国的なハイテク拠点など、ダナンが目指す新たな都市機能が国家レベルの政策として明確に示されました。

さらに翌6月には、「結論79-KL/TW」を政策的な基礎の一つとして、国会が決議136/2024/QH15を採択。リエンチュウ港と連携する「ダナン自由貿易区」を設立し、ハイテク・高付加価値製造、物流、金融、貿易、観光、高品質サービスなどを呼び込むための新たな制度・政策を試行することが定められました。

こうした流れを経て、2025年6月、首相決定 1142/QĐ-TTgにより、ダナン自由貿易区がベトナム初の自由貿易区(FTZ)として正式に設立されます。

実のところ、ダナンの工業団地開発の歴史は1990年代に遡ります。ダナン工業団地、Hoa Khanh工業団地、Lien Chieu工業団地などが相次いで開発され、その後の拡張工業団地も含め、多くの製造企業を受け入れてきました。

一方、その後は、大規模な新規工業団地の供給が限定的な時期が続きます。2020年頃には、市内6工業団地全体の入居率が約9割に達する一方、新たな大規模工業用地の供給は十分に進んでいない状況にありました。

その間、ベトナムでは北部やホーチミン市近郊のドンナイ省などで新たな工業団地の開発が進み、製造業の集積が拡大していきます。これに対し、ダナンでは観光・サービス産業が大きく成長し、ITや金融などの分野にも力を入れる都市として発展します。

こうした時期を経て、現在、ダナンでは自由貿易区(FTZ)の創設に加え、新たな工業団地の開発が相次いで具体化しています。長らく限られていた新たな工業用地の供給が再び動き始めたという点で、ダナンの産業立地は一つの転換期を迎えているといえるでしょう。

 

ダナン自由貿易区の目的、3つの機能と7か所のエリア

ダナン自由貿易区の目的や機能を見ると、都市の経済・産業基盤を一体的に整備し、成長につなげていく政策であることがわかります。その中でも製造・物流機能には大きな比重が置かれており、ダナン市が今後の成長戦略において製造業を重視していることがうかがえます。

ダナン自由貿易区の目的(首相決定 1142/QĐ-TTg)

a)地域・国家の成長拠点

製造、商業、物流、テクノロジー、高品質サービスを一体的に整備し、中部地域およびベトナムの戦略的な成長拠点となること。

b)国際的な製造・物流拠点

リエンチウ港、ダナン国際空港、東西経済回廊と連携した製造拠点および国際貨物の中継拠点を形成するとともに、ハイテク産業、イノベーション、デジタルトランスフォーメーションの発展を促進すること。

c)国際金融センターとの連携

ダナン国際金融センターと連携し、近代的でスマートかつ国際競争力の高い経済エコシステムを形成すること。  

 

自由貿易区は、それぞれ異なる機能を担う7か所の非連続エリアで構成

ダナン自由貿易区を構成する7か所のエリア
ダナン自由貿易区を構成する7か所のエリア
資料提供:Investment Promotion Agency (IPA), Da Nang
  • 製造・物流(ゾーン1~4)
    ハイテク・グリーン産業、高付加価値製品の製造、複合一貫物流、倉庫・貨物配送、越境ECなど
  • 商業・サービス(ゾーン5, 7)
    免税販売、ショッピング、越境EC、高級観光・リゾート、医療、国際教育、ホテル、展示会など
  • デジタル技術・イノベーション(ゾーン6)
    ハイテクおよびイノベーション企業、研究開発(R&D)、スタートアップ、デジタルトランスフォーメーション関連企業・機関など  

 

ダナン自由貿易区(FTZ)の優遇制度

自由貿易区内に投資するベネフィットは、その優遇制度にあるでしょう。優遇内容の詳細は、国会決議136/2024/QH15と、それを一部改正する国会決議259/2025/QH15に明記されています。 主に新規投資プロジェクトに関わる4項目について、取り上げます。    

優遇項目 内容 該当条文
法人所得税(CIT) 新規投資案件のうち、対象分野について、CIT 10%を30年間適用。4年間免税、その後9年間は50%減額 対象分野 ハイテク、R&D・イノベーション、ハイテク裾野産業、クリーン・グリーンエネルギー車両、鉄道・航空設備・部品、航空機MRO、風力発電設備・再生可能エネルギーインフラ、国際貨物積み替え・物流等これらの対象分野に該当しないFTZ内の新規投資案件についても、CIT 10%を15年間、4年間免税、その後9年間50%減額 決議259/2025/QH15 第1条第6項(a) 決議136/2024/QH15 第13条第5項(đ)、đ.1~đ.7
高度人材に対する個人所得税(PIT) FTZ内で勤務し、給与・賃金所得を得る専門家、科学者、高度人材、管理者、高度な技能・資格を有する労働者について、PITを10年間50%減額 決議259/2025/QH15 第1条第6項(a) 決議136/2024/QH15 第13条第5項(e)
非関税区制度 FTZのうち、法令上の非関税区の要件を満たす区について、その区相互間、海外、他の非関税区等との物品・サービス取引に、輸出入税、特別消費税、VATに関する非関税区の税制を適用する。当該区と国内の外部地域との取引は、原則として輸出入関係として扱われる。 決議259/2025/QH15 第1条第6項(a) 決議136/2024/QH15 第13条第5項(g)
長期のプロジェクト期間 FTZ内の対象プロジェクトについて、経済区内の投資プロジェクトと同様の事業期間を適用。最長70年 決議259/2025/QH15第1条第6項(a) 決議136/2024/QH15 第13条第5項(a)、投資法、2025 第31条第1項

  非関税区制度の法令上の非関税区とは、ベトナムの輸出入税法上、ベトナム国内にありながら、国内の一般地域とは税関上区分して管理される区域で、主に次のような要件が求められます。

  • 法令に基づいて設置された区域であること
  • 地理的な境界が明確であること
  • 外部区域との間が物理的なフェンスで分離されていること
  • 輸出入貨物、人・車両等について、税関による検査・監視・管理が可能な体制が整っていること
  • 区域と外部との物品取引を、原則として輸出・輸入として管理できること

すべての優遇内容について確認されたい際には、シーエムプラスまでお問合せください。

 

製造・物流ゾーンで、開発の進む工業団地

製造・物流機能を担うゾーン2、3、4では、2026年に入り開発が具体化しています。ゾーン2では6月の投資承認を経て、8月にインフラ開発事業が着工しました。ゾーン3では6月に投資承認を受け、第1期約180haを対象に用地取得や建設関連手続き、インフラ整備に向けた準備が進められています。また、ゾーン4でも6月に投資承認・IRC取得が完了し、開発に向けた準備が進行しています。計画段階にあったダナン自由貿易区は、製造・物流ゾーンを中心に、実際の開発段階へと移りつつあります。  

FTZ区域 面積 機能 開発事業者 投資承認
ゾーン2 約 75 ha 製造・物流 Saigon-Danang Investment Corporation(SDN)  2026年6月4日 Decision No. 2494/QĐ-UBND
ゾーン3 約500 ha 製造・物流 Phuong Trang Investment JSC  2026年6月11日 Decision No. 2578/QĐ-UBND
ゾーン4 約 335 ha (約559 haの内) 製造 Thanh Binh Phu My JSC  2026年6月11日 Decision No. 2579/QĐ-UBND

 

なかでも、製造業の立地という観点から注目されるのがゾーン4です。 開発を担うThanh Binh Phu My JSCは、南部バリア・ブンタウ地域で日系企業の進出実績も多いPhu My 3 Specialized Industrial Park(Phu My 3工業団地)を開発・運営する事業者です。ダナンでは、ゾーン4に加え、隣接するHoa Ninh工業団地の開発も手掛けており、同工業団地では2026年7月にインフラ開発事業が着工しました。

ゾーン4とHoa Ninh工業団地は、それぞれの機能を生かしながら連携し、製造・物流を核とする新たな産業拠点の形成を目指しています。両プロジェクトを合わせた開発規模は約735haに及び、ダナンの産業集積を支える新たな受け皿として、その動向が注目されます。   次回は、ゾーン4およびHoa Ninh工業団地の開発計画と特徴を紹介するとともに、港湾、空港、高速道路など、ダナンの産業立地を支える主要インフラについて見ていきます。

 


近日お届けする内容

次回、第2回
「次なるダナンへ:最新工業団地と自由貿易区がひらく新たな成長軸
 ~ Hoa Ninh工業団地・自由貿易区製造ゾーン・港湾開発に見る物流&製造の最前線 ~」

最終回、第3回
「今、フエ市がおもしろい:中部製造投資の新たな選択肢
 ~ 実力派工業団地がひらく、モノづくり拠点の今 ~」

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【執筆者】 田山恵里子(株式会社シーエムプラス 海外戦略室)
田山恵里子(株式会社シーエムプラス 海外戦略室)

ベトナムにおける、シンガポール系デベロッパーのマーケティング・セールス部門の責任者、日系ゼネコンでの営業職を経て、営業請負いサービスを提供する TaskLighting Co., Ltd. を2019年 ホーチミン市に設立。
2022年、株式会社シーエムプラスに参画。 ベトナム在住20年以上の経験を活かし、工業団地選定から現地での法人立ち上げまで、日本企業のベトナム進出を幅広くサポートする。