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なぜベトナムでは指示がうまく機能しないのか?

なぜベトナムでは指示がうまく機能しないのか?

本連載は、ベトナムでのビジネス実務をテーマに、ONE-VALUE株式会社 様にご寄稿いただいている全3回シリーズです。
第2回となる今回は、「なぜベトナムでは指示がうまく機能しないのか」と題し、日系企業とベトナム人社員の間で生じやすいコミュニケーションのすれ違いについて解説いただきます。

ベトナム人社員が「OK」と答えたにもかかわらず、業務が遅れるのはなぜか。 本稿では、日系企業がベトナムで直面しやすい情報共有の断絶、ベトナム人社員が「No」と言いにくい背景、そして報告・連絡・相談を組織に定着させるための実務的なポイントを解説します。

これまで:
第1回(前編)日本人駐在員が最初に覚えるべきベトナム流仕事術(前編)
第1回(後編)日本人駐在員が最初に覚えるべきベトナム流仕事術(後編)


目次

  1. 現状:指示したはずなのに、なぜ期待通りに進まないのか
  2. ベトナム人社員が「No」と言いにくい背景
  3. 業務コミュニケーションで起こりやすい三つの言葉の落とし穴
  4. ベトナムでホウレンソウ文化を定着させるための4つの原則
  5. まとめ:ベトナムで成果を出すには、社内コミュニケーションの設計を変える必要がある

1. 現状:指示したはずなのに、なぜ期待通りに進まないのか

ベトナムに進出する日系企業は、以前よりも複雑な経営管理を求められる段階に入っています。 かつては、製造・加工・工場運営を中心とする投資が多かったのですが、近年はテクノロジー、金融、エネルギー、物流、小売、サービスなど、より高度な管理能力を必要とする分野への展開が広がっています。

こうした変化に伴い、現地人材に求められる役割も変化しています。 企業は単に「指示通りに作業する人材」だけでなく、自ら状況を報告し、問題を早期に発見し、改善案を提示し、複数部門と連携できる人材を必要としています。 しかし、まさにこの点で、多くの日系企業が課題を抱えているのが実情です。

よく見られるのは、会議の場でベトナム人社員が「OKです」「理解しました」「大丈夫です」と答えるケースです。 日本人管理者は、指示が明確に伝わり、業務が計画通りに進むと考えます。 しかし実際には、その後に進捗が遅れたり、問題が早期に報告されなかったり、最終成果が当初の期待と異なったりすることがあります。

これは必ずしも、社員個人の能力不足だけが原因ではありません。 多くの場合、その背景には、コミュニケーション文化、責任の捉え方、組織内での情報伝達の仕組みに関する違いがあります。

日本人管理者にとって、「仕事を引き受けた」ということは、「要件を理解し、リスクを確認し、結果に責任を持てる」という意味を含むことが多いです。 一方、一部のベトナム人社員にとって、「OK」という返答は、「聞きました」「努力します」「現時点では大きな問題は見えていません」という意味にとどまる場合があります。

この小さな認識の違いを見過ごすと、管理上の大きなギャップにつながります。 必要な情報が適切なタイミングで報告されず、小さなリスクが早期に共有されず、上司が問題を把握した時点では、すでに対応が難しい段階に入っていることもあります。 その結果、管理者は社員に対する信頼を失い、社員側は過度に監視されている、あるいは理解されていないと感じるようになります。

この課題を解決するためには、ホウレンソウを単なる報告スキルとして捉えるのではなく、ベトナムの文化に適したマネジメントシステムとして設計する必要があります。

2. ベトナム人社員が「No」と言いにくい背景

日本の職場文化とベトナムの職場文化の大きな違いの一つは、社員が困難に直面した際の反応です。 日本では、問題を早期に報告し、リスクを共有し、上司に相談することが業務上の責任の一部と見なされます。一方、ベトナムでは、特に上司に対して直接的に「できません」「難しいです」と言うことを避ける社員も少なくありません。

第一の理由は、「面子」を重視する文化です。 ベトナムの職場では、人間関係の調和が重視されます。 上司の指示をその場で否定したり、直接反論したり、「できません」と明言したりすることは、上司の面子を傷つける、あるいはチーム内の雰囲気を悪くすると受け止められる場合があります。 そのため、社員は明確に困難を伝える代わりに、沈黙したり、曖昧な返答をしたり、「やってみます」と答えたりすることがあります。

第二の理由は、前向きな姿勢を示したいという意識です。 多くのベトナム人社員は、努力する姿勢を評価されたいと考えています。 仕事を任された際、まずは引き受け、その後に自力で解決しようとする傾向があります。 彼らにとって、最初から困難を口にすることは、愚痴を言っている、努力が足りない、責任感が低いと見なされるのではないかという不安につながります。

第三の理由は、能力不足と評価されることへの不安です。 自分の能力を超える問題に直面した場合でも、一部の社員はすぐに報告しないことがあります。 上司に「能力が足りない」と判断されることを恐れ、問題が発覚する前に何とか自分で解決しようとします。 しかし、この対応は小さな問題を大きなリスクに変えてしまうことが多いです。

日本人管理者にとって重要なのは、「OK」という返答をそのまま確実なコミットメントとして受け取らないことです。 社員が困難を報告することを「失敗」ではなく、「責任ある行動」として認識できる環境を作ることが求められます。

3. 業務コミュニケーションで起こりやすい三つの言葉の落とし穴

ベトナムの日系企業では、明確な対立ではなく、一見前向きに聞こえる言葉によって誤解が生じることが多いです。 日本人管理者は、よく使われる返答の背景にあるニュアンスを理解する必要があります。

「できます」――必ずしも確実な約束ではない

ベトナム人社員が「できます」と答える場合、それは結果に対する確約というよりも、姿勢に関する意思表示である場合があります。 社員は、努力する意思があること、上司を失望させたくないこと、その場で断りたくないことを示しています。

しかし、その返答には、要件を完全に理解したこと、必要なリソースを確認したこと、期限を検証したこと、リスクを洗い出したことまでは含まれていない場合があります。 そのため、「できます」と聞いた後に、管理者はさらに確認することが求められます。 例えば、「どのような手順で進めますか」「最初の進捗報告はいつできますか」「支援が必要な点はありますか」といった問いかけが有効です。

「大丈夫です」――現時点では問題が見えていないだけの場合もある

「大丈夫です」という返答にも注意が必要です。 多くの場合、社員が伝えたいのは「現時点では明確な問題が見えていない」ということであり、業務が最終的に品質・納期ともに問題なく完了することを保証しているわけではありません。

管理者が「大丈夫です」という言葉だけを聞いて確認を止めてしまうと、問題の発見が遅れる可能性があります。 「何か問題はありますか」と聞くよりも、「現在の進捗は何%ですか」「最も遅れている部分はどこですか」「このペースで期限に間に合いますか」といった具体的な質問を行う方が効果的です。

「やってみます」――支援が必要であるサインの場合もある

「やってみます」は、特に注意すべき返答です。 これは、社員が業務を完了できるかどうか確信を持てていない際に使われることがあります。 「できません」とは言いたくありませんが、明確に完了を約束する自信もない状態です。

この言葉を聞いた場合、管理者は単に「仕事を引き受けた」と理解すべきではありません。 業務範囲、必要なリソース、期限、難しい点を改めて確認する必要があります。 必要に応じて、業務を小さな単位に分け、早い段階で進捗確認のタイミングを設定することが重要です。 これにより、期限直前になって「完了できない」と判明するリスクを避けることができます。

4. ベトナムでホウレンソウ文化を定着させるための4つの原則

ベトナムの日系企業でホウレンソウを有効に機能させるには、単に「もっと報告しなさい」と求めるだけでは不十分です。 重要なのは、現地人材の心理に合った指示の出し方、確認の仕組み、フィードバックの方法を設計することです。

原則1:フィードバックでは面子を尊重する

ベトナムでは、フィードバックの伝え方が社員のモチベーションに大きく影響します。 同僚の前で厳しく叱責すると、社員は自信を失い、次回以降、上司とのコミュニケーションを避けるようになる可能性があります。

改善点を伝える際は、できるだけ個別に話すことが望ましいです。 まず社員ができている点を認め、その上で改善すべき点を具体的に伝え、最後にどのように改善すればよいかを示します。目的は、誰が悪いかを指摘することではなく、何をどのように改善すべきかを共有することです。

例えば、「なぜ早く報告しなかったのですか」と責めるのではなく、「今回は問題の発見が少し遅れました。次回からは、予定より1日でも遅れそうな場合、すぐに報告してください。 早めに分かれば、一緒に対応できます」と伝える方が効果的です。

原則2:「指示する」だけでなく「進め方を確認する」

よくある問題は、管理者が期待する結果だけを伝え、社員がどのように理解したかを確認しないことです。 特に、日本の顧客対応、レポート作成、データ確認、社内手続きなど、複雑な業務では、一方的な指示だけでは不十分と言えます。

業務を依頼した後、社員に自分の理解を言葉で説明してもらうことが有効です。 例えば、「この業務の目的は何だと理解していますか」「どの順番で進めますか」「いつ進捗を報告しますか」「問題が出た場合は誰に相談しますか」と確認します。 これにより、双方の認識のずれを早期に把握できます。 また、社員にとっても、上司が何を期待しているのか、どのタイミングで報告すべきかが明確になります。

原則3:短く具体的な報告タイミングを設定する

ホウレンソウは、問題が発生した時だけ求めるものではありません。 「何かあれば報告してください」と伝えるだけでは、多くのベトナム人社員は、問題がかなり深刻になった時点で初めて報告すればよいと理解する可能性があります。 その結果、情報共有が遅れます。 そのため、最初から具体的な報告タイミングを設定することが重要です。 例えば、最初の1週間は毎日終業前に進捗を報告する、作業が30%完了した時点で報告する、予定より1日以上遅れる場合はすぐに報告する、といった形です。 報告タイミングが具体的であるほど、社員は行動に移しやすくなります。 これは、管理者が過度に監視している印象を与えずに、進捗を把握するための有効な方法でもあります。

原則4:双方向のフィードバック環境を作る

多くのベトナム人社員は良い意見を持っていても、特に上司と異なる意見である場合、自ら積極的に発言しないことがあります。 そのため、管理者側から意見を引き出す場を作る必要があります。 1on1ミーティングや少人数の会議では、「現在の業務プロセスで最もやりにくい点は何ですか」「一つ改善できるとしたら、何を変えたいですか」「あなたがより働きやすくなるために、上司として何を支援できますか」といった質問が有効です。 社員が自分の意見を聞いてもらえていると感じると、問題も早い段階で共有しやすくなります。 これは、単なるスローガンではなく、実質的なホウレンソウ文化を組織に定着させるための重要な基盤です。

5. まとめ:ベトナムで成果を出すには、社内コミュニケーションの設計を変える必要がある

ベトナムで社員が早期に報告しない、あるいは「No」と言うことを避ける背景には、必ずしも責任感の欠如があるわけではありません。 多くの場合、面子を重視する文化、上司に迷惑をかけたくない心理、能力不足と見なされることへの不安が影響しています。

そのため、日系企業がベトナムでホウレンソウ文化を定着させるには、三つの点を明確にする必要があります。 第一に、指示を出すだけでなく、社員の理解を確認すること。第二に、報告のタイミングを具体的に設定すること。第三に、社員の面子を損なわない形でフィードバックを行うことです。

社内コミュニケーションの仕組みが現地文化に合った形で設計されれば、ベトナム人社員はより主体的に問題を報告できるようになります。 日本人管理者も、リスクを早期に把握し、適切なタイミングで対応できます。 これは、日系企業がベトナムで安定的に事業を運営し、人材を定着させ、持続的に成長するための重要な基盤となります。


次回予告

次回は第3回「契約書だけでは守れない?ベトナムで重視される人間関係とビジネス文化」をお届けします。


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ONE-VALUE Vietnamは、ベトナム経済情報メディアVietbizの運営会社として、日系企業のベトナム事業を支援する戦略コンサルティング会社です。 日本企業の意思決定プロセスとベトナム現地の実務を理解するバイリンガル専門家チームを有し、市場調査、事業戦略コンサルティング、ベトナム進出支援、M&Aアドバイザリー、PMI支援、市場開拓、サプライヤー・OEM先探索、各業界専門家との面談機会の提供など、幅広い支援を行っています。

ベトナムでの人材管理、ホウレンソウ文化の構築、中間管理職の育成、社内報告プロセスの改善に課題を感じている企業は、ONE-VALUEに相談することで、現状把握から解決策の設計、研修、実行支援まで、実務に即したサポートを受けることができます。

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【執筆者】 齊藤 大将(ONE-VALUE株式会社 M&A・市場参入コンサルティング事業部 プロジェクトマネジャー)
齊藤 大将(ONE-VALUE株式会社 M&A・市場参入コンサルティング事業部 プロジェクトマネジャー)

早稲田大学を卒業後、IT系ベンチャー企業に入社し、新規法人開拓営業に従事。 その後、インドに拠点を置く日系コンサルティング企業にて、現地企業との合弁会社立ち上げを担当。
帰国後はONE-VALUE株式会社に入社し、物流、製造、医療、ITなど幅広い業界において、日系企業とベトナム企業のM&A支援業務に携わる。
学生時代には、ハンガリーでの留学、マルタおよびマレーシアでのインターンを経験し、多様な文化に触れる。 神奈川県横浜市出身。